はるか[責任] その3
シャワーを浴びていた時間の短さとは裏腹に、はるかが服を身につけるまでの時間は極めて長いものだった。服を脱ぐときには聞こえた衣擦れの音も、ほとんど聞こえない。
とりあえず、俺は何も声をかけずに黙っている事にした。
身体が冷えるという事に関しての心配はあるものの、あまり安易な言葉ではるかを迎えたくない気持ちの方が強い。
空回りする脳細胞を必死で押さえつけ、軸をぐるぐる回そうとする。
問題なのは、そのイメージの方が脳裏に浮かんでしまうことだった。仕方なく、一回り大きな視点から脳細胞を押さえつける。肝心の、中央の部分を回そうと試みる。
当たり前の話だが、そんな試みは無限に膨張していくだけだった。はるかが服を着るまでに身体を冷やしきるのを放置していただけだ。
視界の隅につんとした毛先のシルエットが見えて、やっと俺は自分自身を大馬鹿者と叱りとばすことが出来た。
「髪、きちんとふいとけよ」
そんな言葉で迎える始末だ。俺は自分に呆れていた。
だが、はるかはこの呑気な台詞に怪訝そうな様子を見せることはなかった。両手で抱えたペパーミントグリーンのバスタオルで、ごしごしと頭をふき始めてくれる。瞳が隠れているせいか、変にあどけない雰囲気が漂った。
結局、この言葉で良かったのかもな…。
安易ながらも、安心感が生まれてくる。
ところが、頭をふく動作はそのままに、はるかはこちらに向かい始めた。
「お、おい…」
丸テーブルをきちんと避けているから、足下は見えているのかもしれない。が、どこか不気味だった。
はるかはシャワーに入る前の服を、全部着込んでいる。くっきりした形をした乳白色のブラウスから、ありきたりの白いソックスまで、全部だ。ブラウスの小さな黒いボタンは全部留められている。袖のボタンに至るまで。暗くて見えにくい中、俺はそこまで確認していた。
コンポが置かれたスティールラックの前で、はるかは止まる。髪をふく動作は止まっていたが、姿勢はそのままだった。
「冬弥」
少しくぐもった声だ。バスタオルがさっきより下に降りている。
どう返すべきか迷っている内に、間を逃してしまった。仕方なく、沈黙を選んだことにする。
はるかはなかなか続けなかった。しまったな、と思いつつも、次を促す言葉は見つからない。
「由綺と、会わなくちゃ…」
俺は右手を拳にして握り締めた。
「…いけないんだよね」
「……ああ、そうだ」
心の中で深呼吸をしてから、俺は答えた。
「こんなはずじゃなかった…」
はるかの声が震え始める。
「…そう、あの頃は言えたのに…」
饒舌の似合わないはるかが、これほどまでに自分で語り出す。明らかに、おかしいシグナルが発せられていた。
しかし、そのシグナルを妨害する事は俺には出来ない。黙って受け取り続けるしかなかった。
「…どうして…」
どうして…
シグナルが同調したかのように、俺の脳裏にその言葉が浮かぶ。
はるかがそのまま絶句してしまったため、頭の中にその一句だけが凛々と響いていた。
そう、その一句はなぜか冬の日を思い出させた。
ぼんやりとした光のこもる空。それを切り裂く風。葉を失った木々。だからこそ表れる、静謐な空気。
その中で、はるかは俺の事を待っていてくれた。
眠気を隠そうともせず、でも微笑みながら家に帰っていったはるか。
あれから、半年が過ぎようとしている。訪れたのは、春だったはずだ。にも拘わらず、俺は冬に焦がれている。
はるかも、同じだろう。
「はるか…」
それを確かめたいという漠然とした想いが、独り言のようにこぼれ落ちた。
俺の言葉に吸い付かれるようにして、はるかがふらふらと歩み寄ってくる。バスタオルを持つ手が、だらんと下に降りた。タオルはそのまま頭に引っかかったものの、今にも落っこちそうに不安定だった。
自分の言葉が生んだ動きとはいえ、慄然とした。
ばさっ。
結局タオルは床に落ちる。
はるかの顔が、俺の前に、現れた。
あちらこちらを向いた、生乾きの髪と、生気を失った瞳。何かを言いたいような、惚けたような唇。
俺の知っているはるかとはあまりにも違いすぎた。
責任の大半は俺にある。と、国会答弁のような台詞が蠢いた。
助けなければという義務感が、手段を探して世界中を飛び回っていた。
駄目だ…
俺は、はるかに向かって両手を差し伸べてしまう。
瞬間、50cmの近くにまで来ていたはるかの身体は、俺に向かって崩れ落ちた。
そのまま、俺達は抱き合っていた。
冷え切ったはるかの指に触れた瞬間、こまごまとした諸理性は綺麗に吹っ飛んだ。何を始めるにしても、はるかに暖かな体温を取り戻させてからだ。
俺の心は、久しぶりに滑らかになれた。ソフト・クリームくらいに。
最初の内、はるかは震えていた。
急に熱を持った物体に触れたという理由もあったろうが、それ以上に感情の激流を止める事ができなかったのだろう。昔、どこかで抱き上げたウサギを思い起こさせた。
165くらいはあるはずのはるかの体躯も、小さな慈しい(いつくしい)ものに感じられる。ついさっきまでは焦燥感を体現していたはずの髪の毛も、「しっとりとした」という表現が似合うほどになっていた。
こうやってはるかを抱きかかえるという経験は今まで無かった。河島先輩の葬式の時も、はるかは俺の掌をぎゅっと握りしめていただけだ。どれほど強く打ちのめされようとも、はるかと俺の関係はあくまで対等だったはずだ。
関係を維持していたのは、はるかの強さに他ならない。はるか自身がどう考えていようと、事実だ。しかし、今俺の身体に触れているはるかはどうしようもなく弱々しい。弾力を失ったゴムボールには、直径10cmの球という意味しか無くなるのと同じ事だ。
俺の手には、その固いゴムボールが握らされていた。
握りつぶす事は出来ない。でも、致命的なヒビを入れるくらいの事は出来る。そして最も妥当な扱いとして、丁寧に撫でる事が出来る。
そうすべきなのだろうか。
俺はもう一度はるかの頭を見てみた。
少し考えて、試しに、左の手の平で撫でてみる事にした。この程度の挙動なら、後でいくらでも説明をつける事は出来る。
まず伝わってきたのは、当然ながら湿り気だった。間投詞を入れるくらいの時が過ぎて、さらさらとした感触が伝わってくる。
軽い癖っ毛なのは間違いないが、キューティクルは健康的に守られている。はるかはこんな事に注意を払わないだろう。恣意的でない運動と神経質でない性格。その二つが与えた、天賦のものであるように思えた。
はるかの細い髪の毛に指を通していると、多く背負う物が救われるという観念が嘘臭く感じられる。軽やかなダンス、それが救いに直結しているように思えて仕方がなかった。
手段は忘却でもいい、欺瞞でもいい。とにかく俺の役目ははるかをあのダンスへと導いていくことだ。
この信念を、固く俺自身に結びつけるためのもの…
俺は、ゆっくりとはるかに目をやった。体勢が体勢だけに、頭と背中しか見えてこない。とりあえず、はるかの震えがいつの間にか収まっていたことを確認するだけに留まる。あとは、相変わらず華奢な体躯と。
こうしていても事態は変わらないように思えた。
俺は、右腕をはるかの身体の下から抜き出そうと試みる。俺もはるかも、横になった体勢のままだったのだ。
と思ったのだが、はるかの体重が掛かっているわけだから、そっと抜き出すというわけにもいかない。無理矢理引き抜いたら、はるかを思いっきり転がす事になってしまう。
空気を変えるためにはそれも悪くないのかもしれないが、やめる事にした。
「はるか」
「ん…」
気怠そうな、逆に言うといつものはるかっぽい声が返ってくる。俺は少しほっとした。
「気分はどうだ?」
「んー…」
翻訳すれば、「悪くない」なのだろう。
「こうしてても仕方ないだろ。起きるぞ」
あまり気負わない口調で言ってみた。
はるかはしばらく沈黙する。
かえって、良くなかっただろうか…
「冬弥は…」
「え?」
「冬弥は…いいの?」
「…何が?」
言わんとしている事がうまく飲み込めない。はるかの台詞にしては珍しくも思えた。含みを持った言葉を聞いたことなど、ほとんどない。
「きせいじじつ」
いつもの通りの、ぼんやりした口調。
俺の中にはるかの言葉が染み通っていく。
「ばか…」
なんて事言うんだ、という気持ちと、妙に納得させられる気持ちが交錯する。
「私は、いいよ…どんなに、傷ついても」
「はるか」
「私、由綺と、こんなに会わないなんて思わなかったから…話せないなんて思わなかったから…」
「それは、俺の責任だ」
「無理だったんだね…やっぱり…こんな…」
人の話を聞かない所だけは、変わらない。
「私も、冬弥も、弱かったし、ばかだったし、ずるかった…」
突然賛同してしまいそうになる。そんな自己攻撃は、とっくの昔に意味を失っているのに。
「今、私が怖いのは…」
はるかは、俺の背中に回した両手に入れる力を強くした。
「冬弥が、由綺の前で迷ってしまうこと」
「………」
「結局、それが由綺を一番傷つけるから…」
淡々とした口調だった。いつものやる気ない口調と質は同じなのだが、文脈が変われば意味合いも異なってくる。
「冬弥、きっと由綺の所に帰れない」
それは…
「信用した私が、一番悪いんだね」
人格を否定されているような言葉に、毛ほどの怒りも沸いてこない。俺が見ていた幻の糸が吹き散らされていく。
描いていた構図が消え去っていくのだ。そして新しい構図が作られていく。あたかも、敗戦処理のような。
もっとも、敗軍の将という呼称すら俺にはおこがましいだろう。せいぜい、捕まった犯罪者ってところだ。
そして、犯罪者には犯罪者の矜持が存在する…。
「はるかが安心するって言うのなら」
はるかが、少しだけ顔を上げようとした。
「そうするよ、俺は。でも、何の解決策にもなっていないってことは…」
そこで俺は言葉を切ってしまった。最後まで言うほどの価値のない台詞だ。
はるかは俺の背中に回した腕を解いた。俺が身体を少し持ち上げると、はるかは腕を引き抜き、ぱたんと仰向けになる。
俺は体勢を立て直して、ほんの少しだけ逡巡した。
だが、それが思考の形を取り始める前に俺は動き始めていた。はるかの身体の上に自分の身体を持っていく。はるかはベッドのかなり左寄りにいたため、ベッドの左端、ぎりぎりの所に左手を突く形になる。少し不安定だった。
俺は身体を支えながら、はるかの顔を見た。はるかは閉じた目を、何か思い出したかのように開く。目を逸らそうとして、何かを思いだしたかのように合わせる。
一瞬、何をすればいいのか忘れそうになった。
しっかりしろ。
俺は体勢を安定させるために、両足をはるかの腰の辺りまで引き上げた。はるかに座っているみたいな格好だ。
そして自由になった両手を、ブラウスの第二ボタンに伸ばす。
人の服のボタンを取るという作業はかなりやり辛いものだ。案の定、すんなりとは行かなかった。
それでも、不器用な手つきで、俺ははるかのブラウスのボタンを外していった。はるかはそれをじっと見ている。
気恥ずかしかったが、あんまり見るな、という言葉を使う事もできない。
ボタンを何とか外し終わる。ブラウスの下には、ぴっちりした黒のシャツがあった。
裾をつかんで、たくし上げていく。ゴムみたいによく伸びる素材だったので、逆に伸ばしすぎないように気を使わなくてはならなかった。
胸のふくらみを越えて、首のところまで上げておく。その姿は、どことなく子供っぽいものに見えた。そう考えると、胸のホックを外すのも少し気が楽になった。
俺は、はるかの背中に手を入れる。
ぷちっ。
意外なほど簡単に、それは取れた。右と左のひもを、真ん中に寄せるようにするだけの構造だった。
二つの乳房の中央の部分を持って、引き抜く。はるかが少し身体を上げてくれたせいか、するっと抜けた。
俺はそれを枕元に置く。はるかの服を脱がせるという作業は、三枚重ねのブックカバーを取るくらい、奇妙で抵抗感の薄いものだった。
両手の平ではるかの乳房を包み込む。
そのまま、動かさない。先端の部分だけが、人差し指と中指の間に挟まれていた。
かなり長い間、それを続けていたと思う。はるかの目に不安の色すら浮かびかけた頃、俺は柔らかく指を動かし始めた。
先端部分に強い刺激がいかないように注意しながら、全体を撫で、揉んでいく。
前は二人とも体温が上がっているという状況だったし、情熱的というか、熱っぽく愛し合っていた。こんな弱い刺激で大丈夫なのかと不安になったが、時間をかける内に段々とはるかの頬が桃色に近づいてきた。
先端部分も、さっきより尖ってきているように思える。
俺は最初にしていたように、人差し指と中指で先端を挟み込んでみた。そして、指を動かす。
「あ…冬弥…」
声による反応があったことで、俺は少し勇気づいた。強くなりすぎないように注意は払いつつも、きゅっと指でつまむような動きも加えてみる。
段々と先端が熱っぽくなってきたところで、俺は唇を右の胸に近づけた。左の胸に対するやわやわとした刺激は続けつつ、舌の先で先端の周りをつつく。
「ん…ん」
悩ましい声が漏れた。そのまま、舌先でつついたり、唇だけで先端をくわえたり、考えつく限りの方法で刺激を与えてみる。
一通り済んだら、また左。機械的な進め方だったが、はるかの身体は素直に反応してくれる。とろんとした目つきは、普段のはるかが見せない表情を作り出していた。前抱き合った時は、はるかはほとんど目を閉じていたのだ。今日一日だけで、普段はないはるかの表情を、二つも知ってしまったことになる。
「…っはぁ…はぁ」
唇を離すと、はるかは吐息を荒くした。耐えていた、らしい。
俺は躊躇なく、はるかのジーンズのチャックに手をやった。さすがに、身体を固くするのがわかる。
一番上のホックを外して、金具を下ろす。他人のチャックを外すのは、他人のボタンを外す以上に奇妙な体験だった。だが、終わってしまえば、俺にとっては大した問題ではない。他人にチャックを下ろされる人間の気持ちを俺は知らないし、普通に生きていれば最後まで知らないだろうからだ。
ジーンズを脱がそうとするが、なかなかうまくいかない。女物のジーンズはみんなこんななのか、それともはるかが特にタイトなジーンズを選んでいるのかはわからない。まさか男物のジーンズを無理矢理はいてるってことはないと思うが。
「自分で、脱げるか…?」
俺は、はるかの上から身体をどけた。
力のないばんざいみたいな格好だったはるかの手が、慌てて下に降りてくる。
少し躊躇しながらも、はるかは自分のジーンズを脱がしていった。
なぜか、本人がやると普通にうまくいく。膝あたりまで下ろしてから足をかがめて、つま先から抜きとった。そして、前にぽんと投げる。
はるかは、そのまま足を伸ばして元の姿勢に戻った。
だが、俺が動かないのに気づくと、何か怖がるかのようにショーツにも手を伸ばす。
「見てても…いいけど…恥ずかしい…」
どこか、変な台詞だった。
「なんか、変だな」
思ったままをいう。
「そうだね」
はるかもそのまま返す。
いつものトーンが戻ってきている。
「…いいよ。俺ははるかを抱きたい。それで。由綺にもきちんと言うって誓う。それでいいじゃん」
軽薄っぽい言葉だったが、なぜか、言うのに抵抗は無かった。
それに対し、はるかは紅潮した顔で微笑んだ。あまりに憂いの色が濃い微笑だったが。
そして、俺から目を逸らして、身体をそむけて、ショーツを脱いでいった。はるかは、それをどうしようか迷うようなそぶりを見せたが、結局ベッドの下に畳むような形で置いたようだった。
俺ははるかを追いかけるようにして、横になったはるかの身体の上に覆いかぶさろうとする。が、このままだと、ベッドから転げ落ちそうだった。
「もっと、真ん中来いよ」
俺は身体を起こして、ベッドの右側に移動した。
はるかはまた仰向けになる。…と思うと、そのままごろんと転がって、結局一回転した。
「右、寄りすぎだって…」
窮屈な姿勢だったが、俺は行為を再開することにした。
妙に間延びしてしまったせいか、俺の手はまた乳房の方に伸びる。姿勢を横にした時に降りてきたブラウスをめくり、片手を膨らみに添える。
はるかの身体から、熱は失われていないようだった。理性の働きが肉体をクール・ダウンさせるという考え方はいかにも本物らしく聞こえるが、俺はこれからあまり信用しないことにした。
紅に染まった先端を転がす。刺激を加える度にはるかは小さく声を漏らし、身体全体をきゅっと収縮させた。
しかし痛がる素振りは見せなかったので、少し強めに三本の指でまさぐってみる。
「はぅ…」
はるかのおとがいが、切なく宙に泳ぐ。
俺はこの時初めて、セックスとしての悦びに、背中をぞくっとさせた。無論肉体的な刺激を加えられたわけではない。脳の中心が麻痺させられるような、甘い危険な感覚が突き抜けたのだ。
膝でにじり寄るようにして、俺は身体を密着させる。はるかは瞳をそっと閉じた。
俺は、右手の人差し指を立てた。何かを確認するかのような仕草に見えるかもしれない。だとしたらひどく滑稽なことなのだが(なぜなら俺の指は、はるかの核心を真っ直ぐ向いていたはずだから)、特にそういう意味があったわけではない。無意識のうちにそうなっただけのことだ。
その指をはるかの腰にぴったりとあてる。そして、緩慢になりすぎない程度の速度で滑らせていった。
ほのかな叢に指が触れたとき、どのようにしたものか少々迷う。前の時、はるかがそこを愛撫されることに痛みを覚えていたのは確かだ。
かといって、何もせずに俺自身を迎えられるわけがない。
まず俺がしたのは、秘裂に沿って軽く指を動かすことだった。
…ちゅ
あ…
それだけで、指先に濡れた感覚が走る。
思わず、少しだけ指を潜り込ませてしまう。抵抗感のないぬるっとした感触があり、俺の指を熱い粘膜が包み込んだ。
乱暴にし過ぎたかと思い、慌てて指を抜く。だが、はるかの顔に苦痛の色は無かった。
「大丈夫か…はるか?」
「うん…」
どこか、夢見たかのような声。偽りではないように思えた。
俺は再度指先を秘裂の中に埋める。深く入れることはせずに、上下に軽く揺り動かしてみた。
全然摩擦感を感じない。ぬるぬるした液体が十分に行き渡っており、こすれる事による痛みは全く与えていないようだった。事実、はるかは俺の動きに抵抗しようとしなかった。痛みを感じれば、どんなに我慢しようとしても、本能的に身体が動いてしまうものだ。
潤滑の液は、俺の指の動きを100%の形で愛撫に転化してくれているようだ。なぜ、そんなに前回と違うのかはよくわからない。既に処女が奪われているという事が大きく影響しているわけではないだろう。
俺は指先にたっぷりとはるかの液をつけた。そして、直接触らないように注意して、クリトリスに塗りつけていった。結果的に周囲からじわじわと刺激を加えることになる。
「は…だ、だめ…冬弥…」
性器全体のつくりと同じようにつつしまやかなクリトリスが、ちょっとずつ充血し、肥大していく。そしてはるか自身の液体に濡らされ、いやらしくぬめる。この行為は、はるかと俺の双方に尋常ではない興奮を与えた。
さっきまでは刺激を与えた時にしか反応していなかったはるかが、ひっきりなしに腰をくねらせ、熱い吐息を漏らす。はるかに快感をもたらす事に必死だった俺にも、快楽への欲望が生まれてくる。
もう十分と判断した俺は、クリトリスを包皮の上から撫でてみた。
「………!」
瞬間、はるかの身体が、本当にびくっと跳ねる。
その反応の激しさに俺は驚くが、痛みから来たものではないのは明らかだった。
俺は起き上がる。そして、浅ましいほどに急いだ手つきでズボンとトランクスを脱ぎ捨てた。はるかが目を開けていたなら、恥ずかしくて出来なかったろう。
そして再びはるかにのしかかり、思い切り力を込めてはるかの身体を仰向けにする。
「冬弥っ…」
俺の乱暴な行為にも拘わらず、はるかの声は甘くかすれていた。
その声が引き金となった。俺ははるかの両足を抱え込むようにして、自分のペニスの先端を素早くはるかの秘裂にあてがう。そして、膣口まで動かす。はるかの性器は秘裂がきっちりと合わさっているため、それだけでもペニスに痺れるような刺激が感じられた。
「いくぞ」
一方的に宣言し、俺は挿入を開始した。
ぐっと力を入れると、抵抗感を破ってペニスがはるかの中に侵入していく。にゅるんとした感覚。中は熱い粘液に満たされていて、俺を優しく締め付けてきた。前回よりも、数倍気持ちよかった。
感覚的に、それははるかの愛液が前よりもかなり多いからだとわかった。風呂場でやったのがいけなかったのだ。湯で愛液が流されてしまう風呂場は、快楽の交歓に向いた場所ではないのだ。
ふとはるかの顔を見ると、大分苦しそうに歪んでいる。初めての時ほどではなかったが。
「あ…悪い」
俺は挿入の動きを一度止めた。そして、結合部分の上にあるクリトリスに指を伸ばす。つんつんと、つつく。
はるかの中がぎゅっと締まった。その結果、はるかの顔にまた苦痛が生まれる。快楽も感じているのだろうが、快楽は表情にあまり明確な形では表れない。俺はどうしたものか、少し迷った。
だが、どうやっても経験の薄いはるかにはある程度の苦痛を与えざるをえない。それなら、快楽も感じられた方がいい。
俺は挿入を再開しつつ、クリトリスに対する刺激も続けた。はるかの顔に苦痛の色が深まるが、構わず続ける。一度入れきってしまうと、今度は抜きながらクリトリスを刺激する。そのスピードを段々速くして、次第に抽送の動きを作り出していく。
そうこうするうちに、はるかの締め付けの力が一定になってきた。そうすれば、クリトリスを刺激する事によって生まれるのは快楽だけになる。いつしか、はるかは口を半開きにして、全身の力を抜いてしまっていた。苦痛を感じなくなったのか、まだ感じているのかはわからないが、継続的な快楽を感じているのは間違いないはずだ。
もういいだろう。
俺は腰の動きを速めた。はるかはそれに対して反応しない。衝撃ではるかの身体が揺れるほどだったが、人形のようになすがままだった。それでも、俺は全力で腰を打ちつけていく。
締め付けの力が一定になったからといって、それが弱々しいものであるわけではない。しっかりと締め付けてくる中で抽送を繰り返し、俺はすぐに限界を迎えた。
直前で一気にペニスを引き抜くと、はるかの身体の上に熱い欲望がほとばしる。
腹の上から始まって、はるかの短い前髪まで飛んでいった。俺自身驚くと同時に、薄汚い満足感も感じられた。
文字通り汚されたはるかの肢体。それでも、はるかは怒らないだろうという妙な確信が俺にはあった。そんな確信は売り飛ばしてもよいのだが、あいにく買い手は見つかりそうになかった。
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