琴音「夢魔」
ビクッ…。
机に突っ伏しているシルエットが、何かに驚いたかのように動いた。
顔を上げたのは、少女だった。比較的幼さを残してはいるが、大きな瞳が特徴の整った顔である。しかし、その相貌には憂いと恐怖の感情が色濃く浮かび上がっていた。
ゆっくりと、何かを確認するかのように彼女の表情が窓へと向く。
窓には、薄いピンクを基調にしたカーテンが掛けられていた。その向こう側から、日の光が透けている。隙間からわずかに覗く青空を見れば、彼女のいる薄暗い部屋はどこか陰湿なイメージを持っていると言えるかもしれない。
もっとも、彼女の部屋の内装自体は極めて可憐なものだった。カーテンだけに留まらず、ベッドカヴァーや壁紙も淡いパステルカラーに統一されている。本棚のガラス戸の中には子犬のぬいぐるみがじゃれるようにして3匹並んでいた。別の真っ白な棚の中には、小さなピンク色のポーチが置いてある。
本人が意識しているとしていないとは別に、少女らしさを殊更に強調しているかのような部屋だった。とは言え、そうであるなら部屋は明るい光で照らし出されているべきであっただろう。
しかし、カーテンは閉め切られ、蛍光灯の明かりは消されてしまっている。その中に彼女、姫川琴音はいた。
琴音は窓の向こうにいる何者かを見つめているようにも見える。あるいは、窓の向こうからのぞかれる事を恐れているようにも見える。いずれにしても、彼女は「何か」のインスピレーションを感じ取っているようだった。
「………!」
がたっ。
音を立てて、琴音がイスから立ち上がる。
たったったっ。
絨毯の上を走る音が響いた。それほど広い部屋でもないのに「全速力」のような勢い。彼女の顔にははっきりと焦りの色が表れていた。憂いの感情が消滅したというわけでもないのだろうが、それ以上に何かさし迫ったものを恐れているといった様子だ。
だん!
琴音はドアにぶつかるようにして、ノブをつかむ。
ノブについているボタンを押し、カギを掛ける。そしてがちゃがちゃっとノブを回し、カギがしっかりと掛かっている事を確認する。
彼女はノブから手を離すと、突然ブラウスのボタンに手をかけた。
一番上のボタンからもどかしそうに一個ずつ、どんどん外していってしまう。3つボタンを取ったところで、琴音は2つボタンが残っているのにブラウスを脱いでしまった。しかも、下に着ていた薄いシャツと一緒に。ロングヘアーに引っかかりそうになるのを無理矢理通すと、ばっと床に投げ捨てる。
乱れた髪も気にせず、琴音はプリーツスカートのホックを外す。それを、ブラウスの時と同じようにショーツと一緒に脱いでしまう。まるで子供のような脱ぎ方だったが、琴音の顔は本気だった。あるいは、本気で何かを恐怖していた。
ただ一つ残ったブラジャーを脱ぎ捨てるべく、琴音がブラジャーの紐に手を伸ばす。
ぐぐっ。
その瞬間。ブラジャーの紐が琴音の背中から浮き上がった。
まだ琴音は全然手を掛けていない。にも拘わらず、きっちりと琴音の乳房に合っていたブラジャーが、引っ張られたかのように浮き上がったのだ。その力はみるみるうちに強くなる。左右の方向に引っ張る動きも加わり、力任せにブラジャーを破こうとする。
琴音は慌ててブラジャーの紐をつかんだ。引きちぎられそうになりながらも、辛うじてホックを外すのに成功する。
ぱさっ。
すると、ブラジャーは急に支えを失って重力に引き寄せられ、床に落ちた。まるで「興味が無くなった」かのようだ。
琴音は恐怖に顔を引きつらせる。だが、それはこの異常な事態を把握できないからではないようだった。明らかに、何か確定的な「予感」に対して琴音は恐れを抱いていた。
がしっ。
「…いやっ!」
小さく琴音が叫んだ。足首をつかまれる感覚。
足下には、何も存在していない。だが、琴音が反射的に逃げようとしても、びくともしなかった。無理矢理締め付けられているわけではないので痛みはないが、動かす事は全く出来ない。
ぐにゅっ。
琴音の乳房が変形した。
ぐいっ。
ヘアの薄い琴音の秘裂が、左右に大きく割り開かれた。
「いや…」
いつの間にか両腕も動かなくなっていた。恥ずかしい部分を覆い隠そうとする動きも、手首の先をじたばたと振るだけにしかならない。
琴音は一糸纏わぬ姿で、部屋の中央に立ちつくしていた。透明な拘束だ。
そして少女に、乱暴な愛撫が開始される。
まずは乳房だった。全体に包み込まれるような圧迫感があり、それがぎゅっぎゅっと琴音の胸を押してくる。揉むというより、押し込むという感じだった。琴音は幼い容姿にそぐわないふくよかなバストの持ち主だったが、何も考えない強引な刺激に、痛みを感じないわけがない。歯をくいしばって、痛みに耐える。
その圧迫に加えて、今度は先端部分への刺激が始まった。琴音の身体はまだ性感など感じていなかったから、そこはまだ控えめな桜色をした小さな突起でしかない。にも拘わらず、引っぱり出すような無理な力が加えられる。
「いっ…いたっ…」
痛みのあまり、声が漏れる。
こんな状況で、興奮による血流が送り込まれるはずもない。しかし、いつまで経っても勃起しない琴音の乳首を引っ張る乱暴な刺激は、果てなく続く。琴音の突起は、痛々しく腫れ上がってしまっていた。それがまるで琴音の性感のしるしに見えて、滑稽な様相を呈している。
「…はっ…んっ、かはぁっ!」
琴音はひっきりなしに苦しそうな吐息を漏らす。一向に構わないと言うかのように、機械的で残酷な愛撫は続く。
ただ、秘裂の方に刺激は与えられていなかった。最初にそこが広げられた状態はずっと維持されていたが、それ以上の刺激が加えられる様子はない。もちろん、身体の奥深くまで空気が入り込んでくるすーすーとした感触は、琴音に惨めな思いを与え続けていた。
ぴとっ。
だから、秘裂の入り口に新しい感触が生まれた時、琴音はすぐに反応した。
「や…やめ…て…」
誰にともなく、琴音は懇願する。
ずずずっ。
「…!!」
秘裂の粘膜を思い切り擦(こす)りながら、異物が侵入してくる。琴音は声無き悲鳴を上げた。
ずっ、ずるっ。
「い、いたい!いたいっ、いたい…」
乾いた摩擦。琴音は乳房の時以上に激しい痛みを感じた。普通の皮膚とは違うのだ。目に涙を浮かべ、首を左右にぶんぶんと振る。琴音が出来るのは、その程度の事しかなかった。
ぐりぐり。
「いやーーっ!」
琴音が叫ぶ。突然クリトリスを押しつぶされたのだ。他のどこよりも敏感な器官は、少女にこれ以上ないほどの苦痛を与える。無駄だと分かっていても、琴音は必死に腰を引こうとせざるを得なかった。身体が、危険のシグナルを発していたのだ。
もちろんクリトリスは人間の身体の中で重要度の低い器官かも知れないが、そこに与えられた痛覚のシステムは極めて精度と感度の高いものなのだ。進化の過程で歪んでしまった性感の体系が、少女を苦痛のどん底に落としていく。
琴音は次なる激痛が来るのを、絶望の表情と共に待ち受けた。
しかし、次に琴音が感じたのは右腕を押しつける力が突然消滅し、代わりに押し下げる力に変わった事だった。抵抗の気力すらない琴音の腕は、あっさりとその力に従う。琴音の右手は腰の上を滑り秘裂に達する。
「………」
いつの間にか、琴音の身体に加えられる力は動きを止めていた。
琴音は、この静かで雄弁な状況をまざまざと認識させられる。彼女に、沈黙の言葉が投げられていたのだ。「さもなくば」という文法を備えた、原始的で凶悪な言葉。
この上なく憂鬱な表情。そして、琴音は自分の秘裂の入り口に指を三本当てて、さわさわと撫で始めた。
これまで省略されてきた愛撫を取り返すような、優しい動き。直径1センチの範囲をただ延々と撫でるだけの動きだったが、その動きは上下運動だったり回転運動だったりと、細かいバリエーションに富んでいる。単調で加減を知らない力とは違う。
そうしていくうちに、ぽっ、と琴音の身体の奥底に温かい感覚が生まれる。温かく柔らかく甘い、不思議な感覚の核だ。
琴音は同じペースで愛撫を続けた。少女の中に潜む快感のシステムは、徐々にその姿を見せ始める。琴音の指先の動きと秘裂に与えられる刺激、身体の奥底の温かさが見えない糸でつながれていく。
「はぁっ…」
彼女は息を吐いた。痛みがもたらした物ではない、ほのかな身体の高ぶりがもたらす吐息。どこか切なく、甘みを帯びた吐息。
琴音の指が、秘裂の中に沈み込む。まず、二本の指を浅く入れて、その状態で止めた。
じわーっと、温かい…いや、熱い感覚が広がり始める。
ぬっ。
もう少しだけ深く差し込む。先ほど感じられたような痛みは、全くなかった。さっきの摩擦による痛みの残滓はまだ残っていたが、むしろ琴音が愛撫することで消えていくようにすら思える。
琴音は二本の指を使って、ゆっくりと秘裂の中をかき回し始めた。激しい動きではない。ペースとしては、秘裂の入り口を触っていたときとほとんど同じ。それでも、直接粘膜に触れる刺激は、琴音の熱い感覚を加速度的に高めていく。
ぬちぬち。ぬちぬち。
抜き差しの動きも加えながら、琴音は刺激を段々強くしていく。
ぴゅっ。
「あ…」
琴音が頬を染めた。耐えきれずに愛液が漏れ出す時、ヴァギナから勢い良く液体を噴き出させてしまったのだ。
太股を、少し白っぽい愛液が伝う。絨毯の上にも、直接落ちた液体が小さなシミを作った。琴音の愛液は、かなり粘りが少ないのだ。
琴音は自分の吐き出した恥ずかしい液体をたっぷりと指先にまぶす。そして、先ほどと同じような愛撫を開始する。潤滑が良くなった分、より大胆な動きを楽しむことが出来た。琴音はじゅくじゅくとあふれ出す愛液をすくい取っては秘裂全体に広げ、にゅるっ、にゅるっとした感触を味わう。
クリトリスも、いつの間にかぷくっと膨れ上がっていた。包皮を自らの大きさで剥いてしまいそうな突起を、琴音は恐る恐るなで上げる。
「はぁん…」
思わず甘い声が漏れた。
さすがに自らがどれほど痴態を晒しているのに気づいたのか、琴音は目をつむってしまう。そして、指の先を使ってころころ、ころころと転がす。包皮は自然と剥けてしまい、露わになったクリトリスがどうしようもなく気持ちいい感覚を琴音に与えていく。
琴音は、自分の中で膨れ上がってくる何かを感じながら、動物のように欲望に染まった行為を続けた。
「ふぁっ…」
頭の中が、真っ白になった。
右腕以外が動かないという異常な状況の下、琴音は惚けた顔でエクスタシーの快感に身を委ねてしまっていた。
「実験ですか?」
「そうだ。琴音ちゃんの超能力は、予知能力なんかじゃない」
琴音は不安そうな目をして、浩之の事を見つめる。
「だったら…」
「だから、今から実験してみるんだよ」
浩之が、廊下を歩きだした。
裏切りの思いが、琴音を苛む。浩之の思いはあまりにピュアだった。遠慮や誤魔化しといったロジックは通用しないのだ。
「な、琴音ちゃん」
「…はい」
後ろを振り向いて優しい笑顔を浮かべる浩之。
「わかりました」
琴音は、たっと走って浩之の横に並ぶ。
精神の状態は悪くなかった。コンセントレーションは、いつにないほど高まっている。
「緊張する?」
「え、いえっ」
「別にたいそうな事するわけじゃないから。リラックスしていこーぜ」
「は、はい…」
琴音は少しうつむき気味になりながらも、微笑みを浮かべて答えた。