Daily-EROtic 晴香

10/26
『………』
 沈黙。
「…だ、だめ?」
 郁未が下を向きながらぼそぼそと言う。
「だ、だめっていうか、それは郁未さんの誕生日なんですし、普段からの感謝を込めたいとは思っていますけど」
「そ、そうね」
 晴香と由依が、それぞれに顔を見合わせながら何回もうなずいた。
「郁未さんのびぼーがあるからこそ、郁未さんが一人でやっているお店がうまくいっているんですし」
「そうそう、郁未がいなかったら、私たちはすぐに路頭に迷っちゃうわよね」
「………」
 半分だけ顔を上げた郁未が、晴香と由依の顔を交互に見る。
「こういう風にみんなで暮らせるようになったのも、郁未さんが言ってくださったからですし」
「うん、私と由依が学校行っているのに、郁未ばっかり働かせて、それで郁未の言うことを嫌だなんて言えないわよね」
「…私は自分から学校やめただけだし…」
 郁未はまたぼそぼそ声で言った。
「と、とにかくぅっ、郁未さんの言うことに反対なんてしませんよ」
「そう、そうそう、由依の言うとおり」
 由依と晴香はそう言って、郁未の事を笑顔で見つめて、椅子から一歩も動かなかった。
「…嫌ならいいわよ」
「そ、そんな事っ、一言も言ってないじゃないですか…」
「言ってない、言ってないわよ」
 二人して手の平を左右に振りながら、由依と晴香は否定する。
「…表情と行動見ていると、すっごい嫌だって言っているみたいな気がする…」
「そ、そうじゃなくて…ただ…」
「あ、合図とかなかったからよ」
「そう、そうです、やっぱり急に言われてもなかなか始められませんし」
「…合図したらするの?」
『そ、それは…』
 一瞬会話がハモって、
「し、します」
「する、するから郁未、そんな顔もうしないの」
 二人は慌てて躊躇を打ち消し、郁未の次の言葉を固唾を飲んで見守る。
「…じゃあ。晴香がそこに寝転がって、由依が上に乗って」
 郁未が灰色の絨毯が敷いてある床を指さした。
「え、私…」
「由依が…」
「…うん」
 郁未はテーブルの上に頬杖をついて、黙り込む。
 二人はそのまま郁未のことをうかがっていたが、それ以上の郁未の言葉がない事がわかると、おずおずと椅子を引いて立ち上がった。椅子の脚が絨毯を擦るかすれた音が妙によそよそしく響く。晴香と由依、それぞれの「予想が裏切られた」という思いを暗に示しているようだった。
 そして郁未の真横にあたる位置まで二人は移動すると、晴香がスカートを気にしながら絨毯の上に座り体を伸ばして寝転がる。豊かな波打つ髪が布団のように晴香の体を支える。
「由依は、晴香の膝の辺りに座って」
「は、はい」
 郁未の声に、由依は晴香と同じくスカートを気にしながら、組体操でもしているかのような機械的な動きで晴香の脚の上にまたがる。小柄な由依の体は、晴香の体を組み伏せるような位置にあっても全く威圧的でなかった。
「じゃあ由依、晴香のスカートに手を入れて」
「…はい」
 横目の郁未の命令に、由依は唇を結んでやや緊張した素振りを見せた。そして少しずつ体を倒し、手を晴香のふくらはぎの辺りから段々と滑らせていく。
「………」
 晴香は由依の手の動きを最初見つめていたが、スカートの裾のあたりまで来るとそれとなく顔をそらせてしまった。郁未と逆の方だ。その晴香にも、ついに手をスカートの陰の中に入り込ませた由依にも、郁未はまんべんない視線を送っている。
 由依は手が奥に侵入していくのに合わせて体を前傾させ、それでも足りなくなるとずりずりと体全体を前に動かしていった。やがて、晴香の表情がピクッと動く。
「…由依、そこで、指を動かして」
「このまま…ですか?」
「そう。生地を食い込ませるくらいの感じで」
「ちょ、ちょ…」
 晴香が何か言いたそうに郁未に視線をやる。
「んっ…」
 が、スカートの中からこしゅこしゅという乾いた音が響き始めるとまた郁未とは逆の方に視線を向けてしまった。
「もっと強く、速く」
「はい…」
 由依がさらに体を前にずらし、手を奥深くに突っ込む。こしゅこしゅっ、くしゅっという音はより低くくぐもった音になり、その代わり音と音の間隔はさらに短くなった。郁未が料理の時に手際よくミジン切りをしている時のような、あるいはそれよりも速いかも知れないペースだ。由依の小さな指がかなりの高速で動いているのは間違いない。
「晴香、下着の生地が食い込んでいるのが感じられる?」
「えっ…なんで…」
「質問にははっきりと答えて」
 郁未は言い切る。
「うっ…うん」
 晴香は戸惑いつつも、それを肯定した。
「由依、変化があったら全部それを言うのよ」
「へ、変化…ですかぁ…?」
「そう。変化」
「は…はい」
 由依はなんだかよくわからなさそうな顔をしながら、それでも指の速い動きを止めずに言う。
 そのまま、数十秒ほども経ったところで晴香が眉をすこししかめた。
「晴香、どうしたの?」
「あ、あの…」
「さっき、言ったわよね」
「う…ぬ…濡れちゃいそう」
「そう」
 郁未はうなずいた。
「ちょ、ちょっと…下着が…」
 晴香は脚を閉じたり開いたり、せわしなく動かして郁未に訴える。しかし郁未は何も言わなかった。由依も一瞬だけ指の動きをゆるめたが、何かを感じ取ったのか再び高速に指を動かし始める。
「い、いやぁ…由依、脱がしてよ…」
 こしゅこしゅこしゅっ…
「い、いやっ…!」
 晴香の声と同時に、由依が指を動かす音がぐしゅぐしゅという重い音に変わる。
「あ、あの…晴香さんの下着が、濡れてきました」
 由依は正直に言ってしまった。
「ゆ、ゆいっ…!」
「どれくらい?」
「け、けっこう」
「もっと詳しく」
「ゆ…指で押し込んでいる所だけじゃなくて、もっとその周りまで濡れちゃっています」
「や、やめてよ…由依っ…!」
「じゃあ由依、晴香のスカートをまくって」
「や、やだっ!」
 晴香は叫ぶ。しかし由依は指の動きを止めると、スカートの裾の二箇所をつかんでするするとまくり上げていった。晴香の体の下敷きになっている部分の生地はなかなかまくれなかったものの、由依は前半分を中心に思い切り晴香のスカートをめくり上げてしまった。
「いやあああ…」
 晴香自身からは見えない所で、晴香の下着がどうなっているのかが由依と郁未の視線に晒される。淡い紫をした装飾のあまりないショーツは、由依の表現した通りの部分が濃い紫色に変色してしまっていた。
「舐めて、由依」
「え…? どこを」
「そこよ」
 郁未がすっと指さしたのは、由依がついさっきまで指で刺激していた部分だった。
「わ、わかりました」
 由依はスカートを持ち上げたまま、顔だけを思い切り突きだして下着に覆われた晴香の脚の付け根の部分へと唇を押しつける。
「ひっ…」
 晴香が、脚をぎゅっと閉じた。
 ぐしゅるっ…しゅぐっ…
 粘液に染みたショーツのざらざらした生地を、由依は赤い小さな舌でこすり上げるような強さで舐めた。晴香の秘裂の形状に合わせてショーツが食い込み、そのへこみに舌をすっぽりと入れるようにしてぐりぐりと由依の舌が動かされる。
「いやあ…そんなのって…ないっ…」
 晴香は力無く言うと、最初は強く閉じていた脚を少しずつ開いていった。筋肉が弛緩してしまったらしい。さっきの指の動きよりも刺激自体は格段に少ないはずなのに、晴香は明らかに反応を大きくしていた。
「んっ…んぅぅ…」
 由依はさらに量を増やしてきた酸っぱい液体を、生地に染みた中からじゅうじゅうと吸うようにして舐め取る。
「由依。一度ストップ。スカートをもっとまくって」
「…っ…は、はい」
 段々自分自身の目もとろけそうな色になってきていた由依が、はっと顔を上げた。
 そしてスカートをまくっていく。弛緩しきった晴香は、スカート全体がまくり上げられていくのに全く抵抗をしなかった。
「その、すその部分を晴香にくわえさせるの」
 限界までまくり上げ、晴香の鼻の辺りまでスカートが来たとき、郁未が言う。
「は、はぁ…」
 由依はスカートの生地を動かし、晴香の口元に誘導した。
「うう…」
 晴香は抵抗せずにそれを唇ではむっとくわえこむ。同時に、晴香の目がじわっと潤んだ。
「そうしたら、また晴香のを舐めるの。これ以上ないってくらい強く」
「わ、わかりました」
 由依はするするっと体を後ろに戻して、また晴香のショーツの上に口づける。
「っ!!」
 晴香はびくんと背中をそらすように跳ね上げて、そのまま自らのウェービィ・ヘアの上にばさりと体を落とした。そしてはぁはぁという荒い息を、スカートをくわえた唇の端から漏らす。
 ぺろ、ぺろ…
 上目を使うようにして、だらしなく開けた口から小さな舌をテクニカルに動かす由依の表情は、あどけないが故にますますいやらしさを際だたせていた。リボンのつけられた髪が舌の動きに合わせてさわさわと小刻みに震え、由依の内心の煩悩を表しているようにも見える。
「由依も、自分のスカートに手を入れてオナニーしなさい。下の方からじゃなくて、上から、お腹の方から手を入れて。下着の中に手を入れちゃだめよ。晴香とおんなじように、下着の上から指を当ててこするの」
「は…はい、します」
 はふっ、はふっという動物のような吐息を漏らしながら、由依は太股にぴたっと当てていた手の片方を自分の下半身に向けて動かす。
 ごそごそっ、とスカートのウェストの狭い部分にもどかしく手を通して、由依は自らの無毛の秘裂をショーツの上から激しくこすり立て始めた。
「んはぁ…」
 熱っぽい息を吐き出しながら再び晴香の下着に口をつけ、目を閉じて、んむんむと唇と舌を濃厚に使った愛撫を加える。同時に自分の秘部にも、一番好きなように刺激を加える。
「もっ、もふ…ぬれちゃひましたぁ…」
 由依は変化について、自らの体の物も忠実に報告する。
「そう。どこを触っているの?」
「く、くりひゃんにさわりたいけれど、したひのうえからひゃとどかなふて…そのひょっとへまえくらいのところをさわってひまふぅっ…」
「いい子ね」
 郁未は冷静な表情を変えていなかったが、由依の返答に満足したようだった。
「晴香は?」
「だ、だめ…もう…このままじゃ、私…イ、イッちゃう」
 既に晴香も目をぎゅっと閉じ、頬を絨毯に切なそうな動きでこすりつけながら呼吸を荒くしていた。
「由依、イケそう?」
「は、はひ、らいひょうふれす」
 そう言って、由依は腰をぐんと浮かすとそれと分かるほどにスカートの中の指を強く動かし始める。
「うっ…うう…だめ…郁未…私…イクぅっ…」
「ひっ、…ひきまふぅっっ!!」
 二人の声が重なり、由依が唇と指を同時にぎゅぎゅぅっと押し込んだ。
 …ビクッ…ビク、ビクンッ、ビクッ
 由依と晴香の体は、同時に勢い良く脈動し、晴香は由依の体を跳ね上げそうな勢いで背中をぐいぐいと反らした。由依も、突き上げたヒップをビクビクと痙攣させながら鼻先を晴香の秘裂の中に押し込もうとする。
 …がくっ。
 そして、由依は糸が切れたように晴香の下半身の上に倒れ込み、晴香もやがて痙攣を止めた。
「ありがとう…二人とも」
 郁未の声に、由依と晴香は返事をする事ができなかった。郁未以外の女性の体を感じたのは、お互いにとって初めての経験なのだ。レズビアンラブには既に熟練してしまっていたはずの二人だが、なぜか背徳感のようなものを強烈に感じていた。
「私、部屋に戻るけれど…今晩は、部屋に入ってこないでくれる? お願いね」
 椅子から立ち上がった郁未は、もう一度食い入るように折り重なった二人の事を見つめた。
「それじゃあ…おやすみなさい」



10/3
(8/7のつづき…というかアナザーというか)
 だが、晴香はそこで舌を止めてしまった。
「あ…あ…ど、どうして…」
「郁未ばっかり気持ちよくなっているんじゃ、ずるいわよ…」
 晴香は自分のスカートに手をかけると、私に見せつけるようにそれを脱いでいった。ショーツも一緒に。
 同い年の同性と、下半身だけを裸にして向き合っているというのは奇妙な気分だった。子供が悪気なく互いの性器を見比べているようなくすぐったい気分が生まれてくる。
 当然、自分でも腹が立つほどこましゃくれていた私の幼年時代はそんな経験を経ることなどなかった。自分の裸については異常なほど早くから興味を持っていた気もするが、他人のそれについて興味を持ったことなど小さい頃はなかった。二次性徴を経て性の快感を知ってから、他人の裸の興味を持つようになったのだ。
「今度は、私の番よ…」
 少しふらつきながら立ち上がった晴香に、私はひざまづいた。ちょうどさっきと身体の位置の高低が逆転する。
 こういう、かわいい女の子の裸と、敏感な部分にも興味を持っていたのは比較的早めの頃のような気がする。どこからそういう気持ちが生まれてきたのかはわからない。バイセクシャルというのは理屈ではなく、身体がそう求めるだけのことなのかもしれない。
 ぺちゅ…
「あ…」
 私は晴香の秘裂に唾液で濡れた舌を押しつけ、初めからぴちゃぴちゃと大きな水音を立てて舐めた。柔らかい舌先を使って晴香の性器の表面を撫で回し、段々と中に向かって舌を進めていく。イヤだとは全く思わない。むしろ、興奮する。
「郁未…」
 晴香の腰がほんのわずかだけ突き出され、鼻に恥丘がくっつけられるのがとても快感だった。晴香も愉(たの)しんでいる。私の舌で快感を感じて、もっと私の事を求めようとしている…
「う、うう…郁未…すごく上手…」
「ありがと」
 ほのかな潤いを帯びた粘膜を細部に至るまで味わいながら、私は晴香の太股を撫でたり内股を指先でつついたりした。味覚や触覚や、いろいろなものが合わさって晴香の恥ずかしさや快感を私に伝えてくる。
 まったく同じ器官を備えている同性として、私は晴香の快感に同調することが出来た。晴香がどうされているのかを考えることで、自分の性神経を鋭くしていくことができた。
「はっ……っ! あ…」
 そして、それ以上に晴香は性感を高めている。私を舐めている時に、今の私と同じようにずっと性感を昂(たかぶ)らせていたに違いない。私はこういう事に慣れているぶん冷静にしている事ができるが、晴香はそうはいかないようだった。
 晴香も、性感は十分に発達している。クリトリスはこりこりとしていて、舐めるだけでも充血しきっているのがわかるし、愛液も少しずつだがにじむ量が増えてきた。しかし、私がちょっと舐めるだけでひどい動揺を見せる辺りからすると、こういう事に慣れきっているという事はけしてないようだ。
「い……い…郁未…」
 私の名前を呼ぶ声も、呼びかけというより喘ぎ声の一部になってきているようだった。晴香の方から言い出した行為にも拘わらず、もう晴香は私の舌の虜のように腰をうごめかしている。晴香は申し分ないほどにエッチで申し分ないほどに無垢だった。
 それに合わせて、私はクリトリスを中心とした優しめの舐め方を維持する。包皮も剥かずに、おだやかな刺激を焦らずに続ける。
「っ……あうっ…」
 段々と晴香は芯まで震えるような深い呼吸を吐き出し始めた。私の方は抑え気味にしているつもりでも、晴香はそうはいかないらしい。
 私は置き去りにされた自分の性器を触ってしまいたい欲望にも駆られたが、今は晴香に尽くす快感に身を任せることにした。私にしてはびっくりするほど禁欲的だ。
「はぁぁ…郁未ぃ…」
 私は、晴香の持っている純粋な女の子の可愛い性を感じてみたくなったのかもしれない。声や肌の感触や、私も持っているはずなのにどこか汚れて感じられるもの。それを晴香から純粋な形で感じてしまいたくなったのかもしれない。
 じゅる、じゅる…
「はぁっ! ああっ…」
 晴香の匂いに満たされた愛液を、晴香の高い喘ぎを誘うように強く吸う。顔がべとべとになっても気にならない。私はむしろ積極的に顔全体をこすりつけるようにして、晴香の身体が熱くなっている事を感じた。
 がしっ、と晴香の手が乱暴に私の髪をつかむ。そして逃れようとしているように、あるいは私の顔をより押しつけているかのように、定まらない動きをした。私は晴香が腰を引いた時はそれを追い、腰を押しつけた時は情熱的なキスをしているかのように二つの唇を強く押しつけ合った。
「い、郁未…私…もうだめみたい…」
 しっかり者の晴香とは思えないほど、弱々しくかすれた甘い声だ。私はずきんと脳の中がうずいたような気がした。
「い、郁未っ…好きっ…郁未…」
 ずき、ずき…
 脳の中に生まれた痛いほどの官能を感じながら、私は夢中になって舌を繰った。血瑠のように不自然に膨れ上がった快感は、不安感も生んだがそれ以上に私を興奮させる。
「イっ…イク…イッちゃう…だめ…だめぇっ!」
 じゅぅ…
「っ…くぅっ…ううううっ…」
 晴香の中から噴き出すように愛液が飛ぶ。晴香が全身を小刻みに経験させる。私は晴香に震いつきたくなるような衝動と脳の中で脈動する疼きを感じながら、舌をちゅくちゅくと動かして晴香の愛液を心ゆくまで味わう…心ゆくまで、味わう…

 ヴィーッ…!ヴィーッ…!
「…!」
「…精神殻に…か、陥没発生!いや…もう崩壊して…マイナス値100を突破しつつあります…!」
「な、なんとか阻止しろ!時間稼ぎだけ…い、いやムダかっ!?至急コントロール体を…」
 バ、バチ…
「うああっ…」
「に、逃げるか…?!」
 バチ…バチチチ…
『だ、だめだぁっ…!!』



8/7
「…晴香」
 私は、身体の火照りを理性で抑え込みながら言う。
「な、なに…郁未」
 晴香は口を半開きにして、舌をのぞかせただらしない顔のままで私の事を見上げた。口元からは唾液が垂れて、私の胸との間に一筋の糸を掛けている。晴香の濡れた唇と潤んだ瞳は、激しく私の支配欲を刺激した。
 恐らく、このまま性器を舐めて欲しいと言っても…あるいは、サディスティックに舐めろと言っても晴香は従うだろう。今の晴香を見ていれば、普段は抑圧していたレズビアンとしての姿、奉仕好きの、マゾヒスティックに近い性向を持った姿が現れているのは明白である。
「気持ち…いいでしょ?」
「…うん」
 それについては、うなずく事しかできなかった。
 セックスをするのはあまりに久しぶりの事である。女の子との行為からは、さらに遠ざかっていた。自慰にはどこか嫌悪感を覚えるので必要最低限しかしていなかったし、この施設に来てからは一度もしていない。
 海綿体が液体を吸うように…というのが、比喩的にも、肉体的にも事実だった。
「もっと、して欲しい…でしょ?」
 だが、晴香の声には何かを懇願するかのような、不安が混じっていた。
「………」
 私の心の揺れを、晴香は見抜いているようだ…
 その揺れとは、結局私が晴香に抱く好意が肉体的なものか、精神的なものかという事だ。このまま晴香に続けさせる事を、本当に私自身が望んでいるのかどうか、確信が持てなかった。
「郁未…スカート下げるわよ…?」
「………」
 私は返事をしなかった。
 同性と付き合った事は二回ある。一回目はプラトニックに付き合おうとしたが、最終的にはセックスをする仲になってしまった。二回目は最初から肉体を目当てに付き合ったようなものだった。
 結局、同性との付き合いも肉体的な所に行き着くというのが、その二回の恋愛から私が学んだ事だったが…
「ねえ、郁未?」
 正直、晴香にもそれを適用して良いのかは自信がなかった。
 ぎゅっ、と晴香が私の手をつかんでくる。そうしてから、初めて自分が晴香を険しい目で見つめてしまっている事に気が付いた。慌てて数回まばたきをして、出来るだけ穏やかに晴香を見るように心がける。
「…イキたいでしょ?」
 私からの圧力が減ったせいか、晴香が大胆な問いを掛けてくる。
 その言葉は、私にセックスの快感をまざまざと思い起こさせた。女の子の指や舌の、柔らかで繊細な感触もありありと甦ってきた。それを晴香にされる所を想像してしまって、私はわずかながらもショーツを濡らしてしまう。
 かちゃ…
 晴香がスカートのホックに指をかけた。
 このまま放っておけば、晴香はスカートを下ろすだろう。私が積極的に行為を頼んだわけではないが、無言の肯定として晴香は受け取るに違いない。そして、私の性器を舐めるに違いない。
 だからこの瞬間が臨界点…ここを過ぎれば、戻ることは出来ない。その後で私が行為の中断を求めれば、それはただの矛盾だ。
 私は…
 かちり。
 晴香がホックを外した。
 するり…とスカートが下がっていって、床に落ちる。
「郁未、やらしい…」
「い、言わないで…晴香」
「本当はして欲しくて仕方がなかったんでしょ?」
「ち、違うの…これは…これはっ」
 晴香は舟形のシミをちょんちょんとつつく。その度にじわっ、じわっと液体があふれ出していって、シミの形が大きくなっていく。
「あぁ…晴香」
「郁未…すごい濡れやすいのね」
「は、晴香だから…」
 そうやって何度か焦らしてから、晴香は私のショーツを一気にめくった。
「!」
 数ヶ月の間他人に晒した事のなかった部分が、露わになる。
「ん…」
 蠱惑的な吐息を漏らしながら、晴香は私の性器に口づけた。
「あっ、…ああっ」
 私は手を後ろに回して組み、脚を軽く開いた状態で晴香の行為に全てを任せた。
 ちゅる…ずっ、ちゅっ…
 晴香は私の愛液を舐め、吸い立てる。派手な水音が立って、私の羞恥心が煽り立てられた。そうすると、ますます愛液の量が増えて止まらなくなる。
「は、晴香っ、いいっ、すごくっ」
「郁未の…おいしい」
「うっ…」
 その言葉を聞いた瞬間、私の性感のボルテージがぐんと上がってしまった。男女を問わず、前に付き合った誰からも聞けなかった言葉だ。
「晴香…もっと…」
「ココ…舐めるわよ」
「そうしたら…私、すぐにイッちゃうから…」
「いいわよ…何回でもしてあげる」
 晴香の舌が、私のクリトリスの上を優しく愛撫した。
「はああぁぁっ…!」
 私は手を後ろに組んだまま背中を反らせて、悦びの声を上げる。
「あっ、ああっ…晴香、最高…」
 身体の奥底から熱い感覚が高まってきていた。二週間ぶりのエクスタシーは、クリトリス刺激によるものとは言っても格別のものがある。それを他人に与えられるのは、数ヶ月ぶりなのだ。
「あうっ、ひぅぅ…だめっ…」
 顔をそらし、天井を仰ぐ。晴香の舌はいよいよ強烈に私のクリトリスを刺激する。
「あっ…」

「……………!?」
 意識が暗転した。
 いや、唐突に暗いどこかに転移させられた…そういう気分だ。しかも体勢まで変わっていたので、一瞬前の自分と今の自分がつながっているという感じがしない。
 晴香の姿などは…なかった。
 そして…
「えっ…」
 私は自分が椅子に性器をこすりつけている体勢である事を知って、混乱する。ショーツも脱いでしまったナマの割れ目からは愛液が流れ出しており、ぷくっと膨らんだ私のクリトリスが椅子のパイプに当たっている。
『あなたは、その椅子とずっとしていたのよ』
「くっ…」
 私は意識が朦朧とするのを感じつつ、椅子から離れた。ショーツとスカートを上げ、上着をきちんと元に戻す。それでも、行為が続いているような感覚があった。
『まだイッていないんだから、当然ね』
 再び意識が暗転した。