サッキュヴァス・セリカ 〜淫魔の呪い〜 その1


(この文章は、ファンタジーノベルスの文法に慣れている方にお薦めします(^^;)

 ぴちょん…
 水滴が垂れる音が、洞窟の中にこだまする。
 少女は、音のした方をちらりと見てから、また前方に視線を戻した。
 長めの黒髪をポニーテールにまとめ上げ、柔らかそうなクリーム色のシャツとキュロットのような淡紅色のスカート。全体的に動きやすそうな、元気な少女というイメージの服装だけに、身体全体を覆っている乳白色のマントが少し浮いていた。丈は地面につかないように調整されているが、歩く度に裾が揺れていて、激しい動きをする時には邪魔になりそうにも見える。
 髪留めも、サークレットもシルヴァー。そして、手はシンプルなデザインのスタッフを油断無く構えていた。
 つまり、魔術師ということだ。少女の頭上、やや前方にふわふわと浮かんでいる皓々とした光球がそれを証明している。魔術を専門としていない人間が、たかだか光源のためにこれほどの魔力を使う事はあり得ない。それほどに強力な光源魔法(ライティング・マジック)だ。
 魔術師の力を計るファクターとして一般的なものに、この光源魔法と浮遊魔法(レヴィテート・マジック)がある。どのような術士にも使用できるものであり、普段からよく使うものであるからだ。普段から魔力をふんだんに使える術士は、すなわち最大魔力容量が巨大であるということになる。移動の時に高速で空を駆ける術師は、それだけで一目置かれるのである。
 と言うことは、この少女もかなりの力を持った術士であるという事になる。だが、それに反して彼女の容貌は熟練の魔術師という雰囲気では無かった。むしろ、普通の少女。普通の人間が見たならば、彼女の魔術師としての力量などより、その美しい容貌に目がいってしまう事だろう。すらっとした目鼻立ちとなめらかな肌は、それだけで人を惹きつけるだけの魅力を持っていた。また、多少垂れ目がちの大きな瞳。どことなくぼうっとした印象も受ける瞳だったが、それはかえって彼女の雰囲気を親しみやすそうなものにしていた。
 ボディ・ラインも、決して子供のそれではない。ウェストが特に細いせいか、セクシュアルな部分がより強調されている。ただ、服装や瞳など、子供っぽい様相を醸(かも)し出している部分も多いので、全体としては年齢が極めて判断しがたい少女だった。
 ぴちょん。
 また水滴が垂れる。今度は、少女はそちらを向く事すらしなかった。
 隙無く歩みを進めるその姿には、やはりある程度の経験から来る貫禄を感じずにはいられない。どこを見ているか分からない瞳にも、やはり微かな鋭さがある。
 彼女の名はセリカ。
 姓は無い。魔術の師匠につけられた名前だ。いつから師匠の元にいたのかすら分からない。セリカの記憶は、物心ついた頃にはもう師匠の元でメンタル・トレーニングをしていた事しか記されていない。そのせいか、セリカは極めて無口だった。
 しかし、魔術師としての実力は見ての通りである。
 そして、彼女が好きなのは孤独と広い世界だった。魔術の研究を主に行っていた師匠の元で育ったため、セリカは極めて閉塞した世界しか知らなかったのだ。広大な世界への憧れと、対人コミュニケーションへの苦手意識。それは彼女を放浪の旅へといざなった。
 ぴたり。
 厚手の布で出来たブーツの歩みが、突然止まる。
「……、……、………」
 セリカは口の中でもごもごと呪文を唱え始めた。短い呪文だ。魔源探索(マナ・サーチ)。
 レスポンスはすぐに返ってきたようだった。彼女は少し歩みのペースを上げて、洞窟の中を進む。元々は天然の洞窟のようだったが、やや手が加えられているようだった。足下だけは比較的平坦で、通路のようになっている。分かれ道もいくつかあった。そのどれも、手が加えられて通路のようにされている。しかし、セリカは迷わずその中から一つの道を選んでいった。目で見える差異は全くないというのに。
 目的地。それは、ある商業都市の自警団から討伐を頼まれたデーモンがいると思われる場所だった。
 近郊の地域の安全を確保するために、商業都市ではお抱えの術士に大規模な魔源探索を定期的にやらせている。それに引っかかったデーモンの討伐を依頼するのだ。そういうのは、どうでもいい下位デーモンが多い。「ゴキブリ退治」などと呼ばれる事すらある。
 だが、時々妙に強力なデーモンが引っかかる事があるのだ。放っておけばそういうデーモンは何もしない事が多いのだが、万が一動き始めたら、商業ルートにかなりのダメージが来ることもあり得る。もちろん、都市自体が襲われれば甚大な被害が生まれる事になる。そんな時には、セリカのような強力な術士が向かうのだ。人間同士で戦争をやっていない時にも、強力な魔術師の存在が要請される所以である。
「………」
 セリカが再び足を止める。
 ここまでは曲がりくねっていた道が、ほぼ一直線になっている。大体、20mくらいの長さ。セリカは光球を通路の奥の方に投げる。
 果たして、通路の奥には紋様の描かれたメタリックな扉があった。ただ、材質は金属ではないかも知れない。恐らく、純粋魔術物質(モノ・マテリアル)で作られた、物理衝撃にも魔素衝撃(マナ・クラッシュ)にも強度を持つ扉だ。
 だが、セリカはその扉に歩み寄ろうとしなかった。
「…、………、…!」
 スタッフを真っ直ぐ前にかざす。
 びぅんっ。
 その先端を中心にして、セリカが両手を広げたくらいの直径がある青白いエネルギーが生まれる。セリカの身体に端の部分が触れそうなほど、大きなエネルギーだった。
 びるぅぅぅぅぅ…
 そこから、巨大なビーム状のエネルギーが生まれ、一直線にはるか先の扉まで突き進んでいった。
 ぼぐっ!
 扉を、やすやすと突き破る。あまりにも直線的なエネルギーなため、大破壊は起こらずに巨大な丸い穴がぽっかりと生まれた。

 ばぐぁぁぁぁっ!

 一瞬遅れて、扉の向こうから大爆音が生まれる。エネルギーが炸裂したのだ。光条魔法(レイ・マジック)。どんなタイプの術士でも使うことが出来る魔法系統の一つだが、魔形変化がほとんどないのが特徴だ。つまり、術士の魔力に威力が依存し、呪文詠唱の時間が極めて短いのである。それと、エネルギーの具現の仕方を術者が自在に操れるというメリットもある。
「………!」
 たっ。
 セリカの身体が宙に浮いたかと思うと、超高速で飛行を始めた。慣性のキャンセルシステムも組み込まれている、ハイレベルな浮遊魔法だ。
 あっという間に、もうもうと煙が出てきている扉の大穴までたどりつく。セリカはそのまま突入した。簡単な魔源探索を行うと…左。
 セリカは右に大きく旋回した。慣性のキャンセルシステムのために、かなり無茶な方向転換もやすやすとやってのける。一瞬で速度を落とすと、セリカはデーモンがいると思われる方向を向いて直立した。浮遊魔法はまだ維持している。
 視界はほぼゼロだったが–––煙が目に入らないように、簡単な魔法防御(プロテクター)はしている–––、セリカは完全に相手の位置を把握していた。出方を窺うため、手を出さずにじっと待つ。
 しかし、いつまで経っても相手は動かなかった。視界も閉ざされたままだ。セリカは多少焦れたが、先に動くことはしなかった。相手の力を正確に把握できるだけの魔源探索は、かなりの集中が必要となるのだ。戦闘時に使えるような代物ではない。攻撃を仕掛けてくるのを待って、実力を判断するつもりだったのだ。
 そして、相手が動いたのは…後方だった。
「………?」
 セリカは訝(いぶか)しみながらも、同じ距離を保ってデーモンを追う。
 部屋なのかホールのような場なのかは分からなかったが、かなり広い空間であるのは間違いないようだった。ある程度移動しても、壁にたどりついた様子はない。
 移動するごとに、視界はクリアになっていった。やがて、前方にデーモンらしき存在が見えてくる。
 見た目は…人間とほぼ同じ大きさ。すぐに、姿もほぼ人間と同じである事がわかる。顔、胴体、手足…人間に当てはめれば、こちらを向いているように見える(見た目だけという事も、十分あり得るのだ。デーモンの見た目と機能の相関関係の少なさは、多くの報告によって明らかになっていた)。デーモンは、セリカと同じように地上すれすれのところを滑るように浮遊して移動しているのだ。セリカの方を向いたまま。
 女性のように、見える。無論、見た目だけの話だ。セリカと同じように艶やかな黒髪はショートカット。真っ白な肌には、張り付くようにぴったりとした闇色の服が身につけられていた。まるで、身体と一体化しているようだ。
 白い肌と黒い服の強烈なモノクロ・コントラストがあるだけに、紅(べに)を引いたかのような唇がひときわ映えている。そして、気の強そうな鋭い目がセリカの事を見つめている。見た目は恐ろしく美人だったが、やはり人間であるようには見えない。どこかがおかしいのだ。
 周りは、洞窟とは打って変わった雰囲気になっていた。まるで、壮麗な宮殿の中のような、ドーム状の空間。壁–––天井でもあるが–––の色は、血を塗り込めたかのような深紅だ。床は、不気味なほど表面がつるつるとした暗黒の色。セリカの姿がはっきり映るほどだった。
 魔術を使わなければ、こんな場所が作れるはずもない。実に毒々しく演出された場だった。
「…派手にやってくれたわねぇ」
 突然、デーモンが語り出す。音は微妙な反響を見せたが、よく通る声だった。
 セリカは無言で対峙する。仮に返答したとしても、全然相手に声が届かなかったかもしれないが。
「人の部屋に入るときは、きちんとノックをするものよ?」
 ゆらっとデーモンの手が動く。セリカはスタッフの先を左手、根元を右手で持ち、地面とほぼ平行にして構えた。
「ちょっとしたお礼に…」
 ぶぼっ!
 瞬間、デーモンの前に紅蓮の炎が生まれる。あっという間にそれは竜の頭のような形を取り、勢い良くセリカに襲いかかってきた。
 ぐわぁぁぁぁぁぁ…
 重苦しい音を立てて燃え盛る炎。竜の牙にあたる部分が、セリカに触れそうになった。
 じゅうっ。
 だが、セリカが両手で前に突き出したスタッフに触れた瞬間、その部分の炎が霧散していく。
 じゅじゅじゅじゅっ!
 全て通り過ぎる頃には、竜の炎は両断されたかのような形になっていた。炎は苦しむように空中でゆらゆらっとうごめき、消えていく。
 この時点で、セリカは勝利を確信していた。この程度の火焔魔法(フレアー・マジック)など、人間の魔術師でも優に使える。結局、大したデーモンではなかったようだ。
「へぇ…」
 もっとも、デーモンの方は多少声を漏らしただけで、慌てる様子も恐れる様子も無かった。
「なかなか。なかなか…」
 軽く言うデーモン。セリカは、それを気にせず呪文の詠唱を始めた。
「……………、…、…………」
 長い詠唱。万が一の事も考え、防御系の魔法も並行して準備しているのだ。もちろんデーモンの動きを見張る事も忘れない。
 デーモンは、何もせずにこちらの動きを見ていた。多少小馬鹿にしたような表情。今度は、セリカの方が様子をうかがっているのだろうか?ならば、好都合だった。
「………、………、…、……………………!」
 セリカが詠唱を終え、力を解き放つ。

 びゃっ。

 間延びした、ぬめった音がする。デーモンの周囲に、暗黒に彩られた無数の触手が生まれた。
 音もなくそれは収束し、デーモンを絡め取っていく…。すぐにデーモンの姿は見えなくなった。そして、触手はどんどん収束し、一点に集まっていく。やがて、触手だったものは一個の微細な点になってしまった。
 それが、重力法則に従うかのようなスピードで落っこちていく。床にぶつかっても、跳ね返ったりする様子はなかった。無音で床に穴を開け、はるか地底の奥底にまで突き抜けていったのだ。
 いわゆる暗黒魔法(ダークネス・マジック)…セリカは、これでほとんどのデーモンを一瞬のうちに屠ってきた。長い詠唱時間と巨大な魔力消費、目標の捕捉の難しさといった問題はあるが、発動してしまえばまず逃げられない。にらみ合いになった瞬間、セリカの勝ちは確定するのだ。ちょこまか動きながら散発的に攻撃を仕掛けてくるタイプの敵が、セリカの最も苦手とするタイプだった。
 セリカは浮遊魔法を解いて、床に降りる。
 こん、とスタッフで床を突いた。特に変な床ではないようだ。セリカは入り口の方に振り向いて、歩き始めようとした…
 ぐんっ!
「………!?」
 脳への衝撃。
 ぐんっ!ぐんっ!
 まただ。
 からんっ。
 セリカの手から放れたスタッフが、床に転がった。
 何が起こったのか全く理解できずに、セリカは床に崩れ落ちる。
 脳が歪められたとしか思えない感覚。ぐにゃりと視界が歪んで、平衡感覚を完全に失って、思考が停止させられた。
 だが、頭部に物理的衝撃を受けた様子はないし、魔素の動きも無かったはず…。
「調子に乗ってもらっちゃ困るわよ」
 メチャクチャになった脳に、声だけが響いてくる。セリカは思わず頭を抱えそうになったが、手すら動かなかった。
「どう?あたしの魔法?」
 そんなはずがない。脳や精神に直接働きかける魔法など、セリカの知っている知識の範疇ではあり得ないし、デーモンがそういうものを使ってきたという報告もないはず…。
 と言っても、現実に今セリカは攻撃を受けたのだ。しかも、緊急防御(セーフティ)すら発動できない。魔素的にも物理的にも、セリカは完全に無防備だった。そうなればただの少女だ。小さなナイフ一本あれば、今のセリカを殺すことなど容易だった。
 セリカはデーモンの持っている底知れ無さを、身を以て教え込まれていた。しかし、もう遅すぎる。セリカは覚悟を決めた。短い旅の想い出を、記憶の中に必死で思い起こしながら…。
「触手の使い方、あたしが教えたげるわよ」
 セリカの視界に、一本の青黒い触手が生まれた。どれほどの力を持っているのかわからないが、セリカを殺すのに手間取る事などあり得ないだろう。
 触手の根元は、溶けるような感じで虚空に消えていた。その不思議な光景にも、セリカは全く興味を持つことが出来ない。訪れるべき最期の瞬間の前に、自分の見た物や聞いた物を一つでも多く記憶に呼び出そうとしているのだ。
 ぬとっ。
 ぐねぐねとうねる触手が、セリカの足首に触れた。
 嫌悪感と共に、セリカは初めて恐怖感を覚える。なぶり殺し…
 身体の部分部分が段々と切除されていって、ついには…その思考が頭の中に浮かんだとき、セリカは初めて取り乱した。
 魔術の戦いというのは、相手の力をいかに消耗させるかの戦いである。力が尽きた方は、一発で簡単に吹き飛ばされるだけだ。だから、戦いにおいて、セリカは痛覚というものを感じたことがまるで無かった。その前に、相手が消えるか逃げるかしていたのだ。
 自殺という考えが浮かんだ。しかし、思考を行うことが出来るようにはなったものの、身体の自由はまるで利かない。そして、魔素の操作も、何故か全然出来なかった。自ら身体を吹き飛ばしてしまう事もできないのだ。
 ぬるっ。ぬるっ。
 触手がセリカの足を這い上がる。最初に感じた嫌悪感を感じる余裕も無かった。むしろ、いかに早い死を迎えられるかという、その狂気にも似た感情でセリカはいっぱいになっていたのだ。
 ところが、触手はセリカの身体を傷つけようとせず、どんどん上の方まで上がってくる。いつの間にか、太股を上がり、キュロットの中にまで入ってきていた。
 その上には、恥ずかしい部分がある。セリカは反射的に身を引こうとした。当然身体は動かない。
 なぜそんな所に興味を示しているのか、セリカは全く理解出来ない。しかし触手は這い上がる。ぬるぬるした粘液が太股に絡むのが感じられる。
 そして、ついにセリカのキュロットの「底」の部分まで触手が到達した。
 一枚の薄い布でしか隔てられていない所に、異様なものが触れている。セリカは、段々と死の観念よりも生理的な不安感の方を強く感じ始めた。人の心理というのは、簡単に揺れ動くものなのだ。
 触手は、セリカの左足の付け根のところに移動する。それから、ふっくらと膨らんだセリカの秘部を包み込んでいるを、にゅーっと右足の付け根まで撫でるように動いていった。
 すると、キュロットの生地が切れた。触手が撫でた部分が、溶けたようにぼろぼろになっている。にも拘わらず、セリカの肌を全く傷つけた様子はない。
 その状況が見えていないのだから、セリカは何が起こったのか全く分からなかった。ただ突然秘裂が外気に晒された感触があっただけだ。
 露わになった秘裂を、ぬめる触手が一撫でする。完全に無毛の秘裂だ。セリカは他人のその部分を見たことなどないのだから、そこに陰毛が生えてしかるべきであるという事すら知らなかった。身体の他の部分と同じようになめらかな肌になっているのだ。そこに、どろりとした粘液が塗りたくられた。
 秘裂の表面に垂れた粘液は、わずかに秘裂の中にも入り込んでいく。その液体が秘裂の中の粘膜に触れた瞬間、セリカは何とはなしの熱さを感じた。刺激性の物質によって傷つけられているという熱さではない。自分の身体の中から沸き上がるような、深い熱だった。
 その熱にセリカが意識を奪われていると、触手がぐっと秘裂を割り開いて入ってくる。セリカは傷つけられるという予感を感じたが、実際にはセリカの秘裂は極めて柔軟に触手を受け入れた。大きく広げられても、痛みなど全く感じられなかったのだ。
 粘液を分泌する触手が直接粘膜に触れている。先ほど感じた熱っぽさは、即座にセリカの秘裂全体に回っていった。粘膜と液体が触れあった瞬間、魔法薬の反応のようにぽっと熱が生まれるのだ。大事な部分が熱に包まれていくと、それはあたかも全身が熱に包まれているような感覚に成長していく。
 同時に、秘裂の熱はぼんやりとした心地よさにもつながりつつあった。少女の性感の神経が目覚めつつあるのだ。しかし、魔術の知識だけで成長した少女に、性の知識は存在しない。セリカは、段々と別の世界に連れられていくような気がしてきていた。
 いつしか、触手は植物の芽にも似た少女のクリトリスを見出していた。生来の快感器官であるそこを、触手がうねうねといじくる。
「……?………?」
 セリカは初めて気持ちいい、と感じた。理由はさっぱり分からない。だが、理屈を抜きにして気持ちよかったのだ。触手の出す粘液だけで、少女はクリトリスへの刺激を痛みとしないまでに身体を高ぶらせていたのだ。
 触手は先端の細いところでもセリカの指三本分くらいはあったから、繊細な刺激というわけにはいかない。それでも、ぐりぐりといい加減にいじられているだけで、少女は十分な快感を感じていく。既に、セリカは状況を忘れて恍惚とした表情を浮かべつつあった。
 そう、セリカの身体機能は戻りつつあったのだ。それに気づいているのか気づいていないのか、セリカは触手の動きに段々と身を委ねていく。
「は…っ…」
 ごくごく小さな喘ぎの声。堪え忍んでいるというよりも、普段から声を出すという行動に慣れていないと言う方が正しい。目はいつの間にか閉じられていたが、どこか悦びの色を感じさせずにはいられない表情だった。
 セリカが快楽の虜になりつつある中、虚空にはもう一本の触手が生まれている。その先端は、クリトリスをいじっている触手とほぼ同じものだった。
 こちらの触手は、足を這い上がる事をせず、股の間の空間をそのまま上がっていく。直接秘裂を目指している。
 その先端は、正確にセリカのヴァギナの入り口に到達した。まだ何にも汚された事のない、純潔の部分。そこを、触手は味見するかのようにゆっくりとなめ回す。
「ん…」
 それも快感だった。クリトリスを刺激されている快感のように激しくはないが、もう少しゆるやかな甘い快感。
 しかし、触手が段々とヴァギナに侵入しようとしているのが感じられると、セリカははっとする。上半身をがばっと起こそうとする。
 びしゅっ!びしゅるっ!
 その動きに合わせて、虚空から無数の細い触手が生まれた。
「…!?」
 セリカは身を凍らせる。その身体のあちこちに、触手はぐるぐると巻き付いていった。胴体と四肢を拘束されたセリカは、まるで動きが取れなくなる。そのセリカを、触手達はゆっくりと空中に持ち上げていった。軽々とした動き。セリカの身体は確かに軽いが、そういった重さ軽さが全く関係ないかのような動きだった。
 かくして、セリカは磔刑に処せられるかのような格好で宙に固定された。その間にも、秘部をいじくる触手の動きは全く止まっていない。クリトリスをいじる動きも、ヴァギナに侵入しようとする動きも。
 やがて、セリカはヴァギナに明確な圧迫感と痛みを感じ始める。身をよじろうとするが、完全に拘束されてしまっていて動かない。
「……!……!」
 セリカの口がぱくぱくと動く。処女膜が傷つけられているのだ。
 ぷちぷちと触手が純潔の証を剥がし取っていく。赤い血液の糸がつうっと触手を伝う。
 ずぶっ。
「ぁ……!」
 セリカが引きつった声を上げた。触手が完全に侵入したのだ。
 触手は、セリカの一番深いところまで入り込むと、動きを止める。そして、今までよりもさらに多く粘液を分泌し始めた。セリカは未だに切り裂かれたかのような痛みを感じていたが、粘液の量が増えると段々それが収まっていく。鎮痛剤のような感じだった。
 しかも、クリトリスへの愛撫は止まっていない。セリカの感覚を覆う物が、痛みから快感へとシフトしていく。
 一度快感だと思ってしまうと、もう止まらない。
 ずにゅっ。
 ヴァギナの中を触手が蠢いたが、感じられたのは痛みではなく快感だった。
 ずにゅっ。ずにゅっ、ずにゅっ。
 ピストン運動が始まる。だが、痛みはどこかに消えてしまっていた。突き上げられるような感覚に、セリカはまた新たな快感を覚え始める。
「ふはっ、はぁっ」
 突き上げに合わせてセリカは呼吸していた。そうしていると、段々押さえようのない波が生まれてくる。
 どこから生まれたのか分からなかった。ただ、自分がどこかに流されてしまいそうな大きな波だ。快感が膨らむほどに、その波も大きくなった。波が迫るごとに、切羽詰まった感覚が快感を増幅させた。
「ぁ、ぁ、ぁ…」
 セリカが身体をひくつかせる。
「あーっ…」
 完全に裏返った声。セリカは全身をわななかせながら、生まれて初めてのエクスタシーを感じた。
 ずるっと触手がセリカのヴァギナから抜ける。そこにわずかに見える紅よりも、触手の分泌した粘液の量の方がよほど多かった。
 ゆっくりと触手がセリカを床に降ろしていく。同時に声が生まれる。
「これで、あなたもあたしの仲間よ…」
 仲間?
「あなた、魔力も大きいし、可愛いし、あたしのパートナーにぴったり」
 パートナー?
「あたしはここから離れられないから。使い魔をあげるわ」
 使い魔?
 絶頂の直後で弱くなった思考の中、一つ一つの単語だけがセリカの意識に引っかかった。
 触手は、ぺたんと尻を床につけた状態でセリカを床に置く。そして、全て宙に溶けていった。
 代わって、セリカの前に何かが現れる。虚空から生まれたのか、それとも死角になる所から出てきたのかわからない。ただ、それは…黒猫だった。
「やぁ」
 また、声が生まれる。デーモンの声ではない、違う声だ。少女?少年?どちらかなのかが区別できない声。
「はじめまして。ボクが使い魔のミュークです」
 猫が…しゃべっている。
 いや、口を動かして喋っているわけではない。聞こえてくるのは…また、頭の中。がんがんと響くような声ではなかったので頭が痛くなることはなかったが、セリカは非現実的な感覚に襲われる。
 精神に、直接働きかける…
 出来るはずがない、そんな事は。しかし、セリカはさっきそれを現実に体験したのだ。それがよりおとなしい形で現れてしまえば、驚きこそしても疑うことはできない。
 そこまで考えてから、セリカは粘液に濡れた秘裂をミュークに晒している事に気がついた。慌ててセリカは足を閉じる。
「替え、あるの?」
「………」
「あるの?じゃあ、着替えなよ。ボクはあっち見てるから」
 そう言って、ミュークはセリカと逆の方を向いた。
 通じている、会話が。いつもにも増して小さな声だったセリカの言葉が、通じているのだ。
 しかし詮索をするより早く、セリカは立ち上がった。身体のあちこちがぼやけた感覚になっていたが、痛くはない。
 セリカはキュロットの生地の破れた部分を秘裂にぴったりとくっつける。出来る限り、切り裂かれる前と同じ位置に来るように。ぐちょっとした感触があって布が濡れたが、セリカは気にしなかった。
「……!」
 セリカが呪文を唱えると、破れた部分に新しい布が生まれる。物質生成魔法(クリエイト・マジック)の初歩だ。このドームの扉を作るのと原理は同じだった。セリカの服は、全てこれと同じ原理で作られているのだ。
「終わったね。じゃあ、行こうか?」
「……」
「どこへって?そりゃ、外へさ。それがボクらの仕事だよ」
「………」
「だって、セリカもショールゥ様の使い魔になったんだから」
「……」
「キミの意志は、無視されるよ」
「………………………」
「そうだね。ボクとキミは、使い魔って言っても性質が違う。ボクは原理的にショールゥ様に逆らえなくて、キミは呪いによってショールゥ様に逆らえなくなったんだ」
「……」
「今に、わかるよ。今晩にでも」
 一方的にしゃべっているかのような会話を終えると、ミュークはとことこと歩き始めた。
 セリカもそれを追った。頭の中は混乱し過ぎていたが、ミュークに、この事態を問いただす必要があるのだ。既に彼女から死の観念は姿を消していた。全く未知の事態で頭が満たされてしまったのだ。
 かくして、呪われた少女セリカと、使い魔ミュークの旅が始まる。



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