Daily-EROtic 自慰

12/28
 はぁ…はぁ…
 名雪の息は、ひどく荒い物になっている。
 壁につけられたベッドのその隅に、脚を伸ばして座った状態。真っ赤になった頬と耳は、平坦な壁紙に隙間無く押しつけられていた。しかしその壁の冷気を帯びた感触も、一向に名雪の温度を醒まそうとはしない。
 名雪が脚の間に入り込んだ気に入りのぬいぐるみを、上下に動かして敏感な部分に擦りつけている限りは…
『うっ…うぐぅ…祐一君、そんなに舐めちゃ…いやだよっ…!』
『ウソつけ、あゆ…こんなになってるぞ?』
『だっ…だめっ! 祐一君…そこはっ…そこはっ!』
 そして、壁越しに聞こえてくるいやらしいやり取りが止まない限りは。
「う…う…んっ…!」
 名雪は祐一の意地悪な声質に煽られて、股間のぬいぐるみを一層激しく動かしてしまう。パジャマの上からの刺激でも、自分の好きなように動かし続けている間にすっかり名雪の体は興奮してしまっていた。ショーツはもうぐっしょりとなっているだろうし、内に秘められた真珠もぷくりと勃起して自己主張している事だろう。
『うあっ…うあっ…! う…うぐ…うぐぅっ…祐一君…いやああああぁ…』
 しかしそれでも、あゆの感じている悦びには到底及ばないのは間違いない。子供っぽいあゆの声が、高くうわずって官能をこれでもかと言うほどに訴えているのだ。
「う…ううー…ゆういち…」
 あゆの普段とのギャップの激しさに、祐一の行っている行為への想像は膨れ上がる。名雪はうめきながらぬいぐるみを凝視し、その「顔」を思い切り股間に擦りつけたが、それでも決して満足する事はできなかった。どれほどぬいぐるみを両脚で締め付けても、それを強く股間に押し当てても、祐一の舌が直接舐めてくるのに代えられるわけがない。きっとぬるぬるしてなま暖かい、いとこの舌。そこが名雪の敏感な部分をこれでもかというほど舐めてきて、名雪のあふれさせた液体を綺麗に舐め取っていく。
「んふっ…」
 甘美すぎる想像に、名雪は思わずぶるぶるっ、と身を震わせてしまっていた。体の奥からはじけ出すように熱い物がとろけ出すのが自分でもわかる。
「あ…」
 ふとぬいぐるみを上げてみると、その鼻先が湿っていた。ショーツの外まであふれ出た液体が、パジャマの生地まで完全に湿らせてしまったようだ。
『あ…ああーっ! ゆ、祐一君っ!』
 その時、壁に当てた耳に絶叫とも安堵ともつかない声が入ってくる。
 祐一が挿入した…何度とない盗み聞きの経験から、名雪は直感的に理解していた。
『あゆ…すごいぬるぬるしてるぞ』
『う…うぐ…恥ずかしいよ…』
 ギシ、ギシッというベッドのきしみが名雪にもしっかり伝わってくる。名雪自身も、思わず腰を前後させてベッドを揺らしてしまった。
『うっ、うっ…んふぅ…うぐぅ…祐一君…』
『いいか?』
『う…うんっ…ボク…気持ちいい…』
 跳ねとぶようなリズムに乗った、あゆの直接的な告白。名雪の頭の中が、かーっと熱くなっていく。あゆの小柄な体が、名雪に似た長い髪が祐一のベッドの上で躍っている様を、名雪はありありと想像できた。
 しかし、名雪に出来るのは…
 …くぢゅっ…!
「んうー…」
 半纏(はんてん)のすそに覆われそうなパジャマのズボンの中へ、名雪の指が侵入する。熱く溶けきってしまった秘裂の内側で、名雪の指はわき目もふらずに一点を目指した。
 ぐりゅっ、ぐりゅ…
「あ…あ…」
 名雪は潤んだ瞳で天井を見上げる。
 指の腹で名雪が押しつぶしているのは、あゆとは違う部分だ。気持ちいいのは間違いない。クセになってしまいそうな、とても素直な快感であるのは間違いない。あゆだって、ソコをいじられるのは大好きなはずだ。
『ううーっ、うっ…ゆ、祐一君…ゆういちくーんっ!』
『あゆ…すごいな』
『だ、だって…祐一君のがっ…祐一君のがっ…ボクの中に、いっぱいっ…』
 でも、あゆが恥じらいを全部かなぐり捨てて祐一に求めてしまうような、そういう快感じゃない。別にしなくてもいいんだし、しても後でちょっと空しくなる。
 あゆが今感じているのは、本当にそれなしではいられなくなってしまうような、した後にも幸福感に包まれてしまうような、そういう快感だろう。あゆの様子を見ているだけで、分かる。家に泊まりに来るのも、一週間に2回では済まなくなってきた。それでも秋子は何も言わない。きっとあゆの上げている大声に気づいているんだろうけど、何も言わない。
「うー…ううー…」
 名雪がぐっしょりと濡らしたショーツを洗濯カゴに入れているのも気づいているのかもしれないが…秋子は何も言わない。
 祐一があゆもいる時にきわどい話題を持ち出しても、秋子は何も言わない。いつものような微笑みを浮かべたまま、ほんの少しだけ困った表情を見せるだけである。名雪が皮肉っぽい事を言っても祐一は全然気にしてない。むしろ秋子にたしなめられているような気がして、名雪の方が気分を悪くしてしまったほどだ。
 ぐちゅっ…ぐちゅ…
 名雪は目頭がジーンとしてくるのを感じながら、ぐりぐりと快感のスポットをこすり続ける。腰の辺りもジンジンと痺れ始めてきた。
『あゆ…俺、もうそろそろだ』
『う、うんっ…祐一君…ボクの中に…いいよっ…!』
 ひょっとしたら、名雪と祐一がそういう事をしてしまうのを秋子は危惧していたのかもしれない。
 でも、祐一と名雪は法律でも結婚していい事になっているのに…
「ゆ、祐一…ゆういち…!」
 だけど、名雪の事を祐一が見てくれないのならいくらそんな事を言っても仕方ない。名雪がみじめになるだけだ。
 ぐちゅぐちゅ…ぐちゅ…!
 そう分かっていても、盗み聞きしながらの自涜を名雪はどうしてもやめられなかった。普段してしまう事だけは何とか押しとどめることが出来るようになったが、あゆが泊まりに来た日だけはどうしようもない。耳をふさいでも、こたつの中で寝ようとしても、勝手に指が動き出す。
『あっ…あーっ…』
 あゆが、どこかに消えていきそうなかすれた悲鳴を上げる。
「う…ゆう…いち…」
 ぐちゅぐちゅぐちゅ…
 ビクンッ、ビクンッ、ビクン…! ビク、ビク…
 名雪は脚でぎゅっぎゅっとぬいぐるみを締め付けながら、何度もベッドの上で独り体を跳ねさせていた。スプリングの立てるきっきっという小さな音が恥ずかしい。
『ん…祐一君、いっぱい出したね…』
『今日はいつもより良かったからな…』
『だ、だって祐一君があんなに舐めるんだもん…』
『好きなんだな、あゆも』
『う…うぐぅ』
 はぁ…はぁっ…!
 名雪は上がりきった息のまま、壁に耳を強く押しつける。
『そんなに好きなんだったら…』
『……ねぇ、祐一君…』
『なんだ?』
 突然あゆの声にいたずらな調子が混ざった。
『祐一君もしてくれたから…ボクも、お返しして上げたいな…』
『あゆ…お前、意味分かって言ってるか?』
『わかるよ』
『……できるのか?』
『うぐぅ…ばかにした』
『…じゃ、やってみろよ…』
『うん…』
 そして、二人のやり取りが途絶えた。
「う…うう…!」
 ぐちゅ…ちゅぐるっ…
 名雪は絶頂したばかりの体を一段と強くまさぐる。
 あゆは、また名雪には決して出来ない事を手に入れたようだった…



12/21
「浩之さん〜」
「おっ、マルチ」
 道の向こうから駆けてくる小柄な姿に、浩之は軽く手を上げる。
「マルチちゃん、久しぶりだね」
「はぁっ…あかりさんも、浩之さんも、お久しぶりです」
 買い物カゴを手にしたまま、大きく息をついてマルチが微笑んだ。
「マルチ、買い物か? ってことは、どこかの家でメイドロボやってんのか?」
「はい、この近くにあるお家で働かせて頂いています。来栖川エレクトロニクスに関係がある方らしくて、試作型の私を引き取ってくださったんです」
「良かったな」
「はい、とっても嬉しかったですっ」
「マルチちゃん、学校にいる時もお掃除頑張っていたし、きっとそのお家の人みんな喜んでるよ」
「い、いえ…まだ失敗ばかりで、もっとちゃんとやらなくちゃ…いけないんですけれど…」
「大丈夫だって、マルチ。頑張っているってことがみんな分かれば、その内ご褒美ももらえるようになるだろ」
「…は、はいっ…浩之さん…」
 マルチが買い物カゴの取っ手をぎゅううっ…と握りしめながらうなずいた。
「じゃあ、俺達はこれから俺んち行くから。マルチ頑張れよ」
「じゃあね、マルチちゃん」
「はい」
 返事すると同時に、浩之とあかりはマルチの来た方へと歩いていく。
 制服を着たまま手をつないだ二人は、理想的な恋人同士のように見えた。


 がさっ、がさっ…
「………」
 数分後…浩之達と会った道からすぐ近くの公園に、マルチの姿があった。
 そこそこ大きい公園、平日で太陽もほぼ落ちかけた時間帯。その隅にある、塀の脇の茂み。ちょっとマルチが身を屈めれば、ぽつぽつと通りかかるペットの散歩の人間からも殆ど見えなくなってしまい。そもそも、そんな所に人影があるなどと考えないだろう。
 がさっ。
 そしてマルチが落ち葉の上に買い物カゴを置き、腰を落とすと…音の上からも、マルチの存在はキレイに隠蔽されてしまう。半分つま先立ち、脚を開いた状態の少々はしたない座り方も周りの目からは隠れてしまった。
 マルチは、そうっと自分の紺色のスカートに手を伸ばし…それを、お腹の方にめくり上げていく…
 その下に見える真っ白なショーツは、同じく白の長いストッキングと合わさってマルチの純粋さを示しているように見えた。たとえそれが、開発者の意向によるセレクトであったとしても…
 だがマルチが逆の手でショーツをずり下げ始めると、その純粋さは一転して淫靡な装いを帯び始める。
「(あ…)」
 マルチはそこに指を滑り込ませると、口をほんのわずかに開いて声無き声を出した。
 くっ…くにゅっ、くにゅ…
 少しずりさげられたショーツから見える無毛のスリットを、なぶるようにして指が這い回っていく。そしてある瞬間、マルチのちいさな指がするっ…とスリットの内側に入り込む。
「はぅ…」
 マルチはその一点に刺激が加わった瞬間、ピクリと硬直して熱い息を漏らしていた。
 くりゅっ、くりゅっ…くりゅ…
「あっ…あ…あ…」
 その幼い突起を触り立てながら、マルチは心地よさそうな声を出す。
「んっ…んん…」
 だがしばらくするとマルチは指を止め、買い物カゴの中に手を入れて何かを探り始めた。
 まだほとんどカラッポのそのカゴからマルチが取り出したのは、赤いボールペン。買い物のメモをするためにマルチが持ってきたものだった。
 マルチはそれを書くときとは逆向きに持ち、半脱ぎのショーツへと近づけていく。どうやら、指だけではガマンできなくなってしまったらしい…
 …くち…
 ショーツをボールペンの柄でさらに下げ、潤いを帯び始めたそこへと細いペンを侵入させていく。
 ぐりゅ…ぐりゅっ、ぐりゅ
「あっ…はぁぁっ…!」
 細くて固いそれが膣内をこすると、マルチは惚けた顔になって喘ぎ声を漏らした。
 ぐりゅ、ぐりゅ…ぐりゅ
「ん…ひ、浩之…さん…」
 あの高校で過ごした2週間。浩之が一度「ご褒美」をくれた時の事が思い起こされてしまう…
 そんな事はとっくの昔にメモリーの隅に追いやられていたのだが、今日突然浩之に会ってしまった事で、しかもあかりと自分の家に行くと言っていた事で、あの記憶が一気によみがえってきてしまったのだ…
「んっ…んっ…あむぅっ…」
 マルチはスカートを口元まで持ち上げてきて、くわえる。それによって自由になった手を、再度クリトリスへの刺激に用い始めた。
 ぐりゅっ、ぐりゅ…くちゅくちゅ
 二箇所の同時の刺激に、マルチの官能は一気に膨れ上がっていく。指を動かすピッチも、どんどん膨れ上がっていく。
「あっ…ああーっ…」
 マルチが切なそうに目を閉じた。
「……マルチ、イキそうなのか?」
「…っっっ!!? だっ…誰ですかぁっ!?」
 マルチはパッ! と手を秘部から離して、声を上げる。スカートが、必死に行為を隠そうとしているかのようにぱさっとマルチの下半身を覆っていく。
「なかなかマルチもエッチだよな。こんなトコで、一人でしてるなんて」
「はわっ…わわっ!? ひ…浩之さんっ…あ、あかりさんまでっ…!?」
「………」
 そう、あかりもいた。隣の茂みに二人がいつの間にか来ていたのに気づかなかったのはマルチの不用心さのせいだろうが、マルチは顔中を驚きで満たす。
「んっ…んふぅ…」
「あかり…さん…」
 さらに、あかりが浩之の股間に顔をうずめて敬虔的に頭を動かしている事が、マルチの驚きを頂点にまで上りつめさせる…
「コイツ、フェラは滅茶苦茶上手くてな。俺も、もう出しちゃいそうなんだ」
「ひ…浩之さん」
「だけど、いつもいつもあかりの口の中ってのもなんだからなぁ。せっかくマルチのオナニー見て興奮できたんだし、今日はマルチにしてもらってもいいかと思ってるんだよ」
 ぐぐ…
「んうっ…んんっ! ひ、浩之ちゃん…そんなっ…」
 浩之があかりの頭を押して無理矢理に離させると、あかりは不満を顔に見せる。
「いいだろ? あかりはいつでも飲めるんだから」
「で…でも」
「マルチ、こっち来いよ」
「………はい」
 浩之の声に、マルチはうなずいていた。
 立ち上がった瞬間、透明な液体に濡れたボールペンがぽとっと落ち葉の上に落ちる。しかしマルチはそれを気にせず、そろそろと浩之達の方に歩み寄っていった。落ち葉の上を歩くのだから完全に無音というわけにはいかないが、出来る限り音を殺して浩之の所までたどりく。
「マルチ、くわえろ」
「はい」
 目の前に突き出された、唾液にぬめった怒張をマルチは愛おしい物のように下から見上げる。
 あの学校にいる時に、こうする事を全く夢見なかったわけではない。それでも、メイドロボという立場によってそこまで行くことは出来なかった。そして今日も、浩之とあかりの関係に配慮してマルチは自ら慰める事で済まそうとしていた。
 しかし、浩之が自ら言ってきたのなら話は別である。ロボットは、人間の言うことに逆らう事があってはならない。
「マルチちゃんっ…」
 あかりが自分を呼ぶ声を引き金だった。マルチは、丸く開いた唇で浩之のペニスをくるみこんでいく。
 ちゅぷっ。
「んっ…んふぅ…」
 マルチは口の中を圧迫する大きな肉棒を、ぺろぺろと舌で撫で回した。味覚が存在しないだけに、どれほど大胆な動きも全く苦痛にならない。全部は口に入りきらなかったが、透明な雫をにじませている先端部分を中心に舌で懸命に愛撫する。ちゅうちゅうという音を立てながら吸ったり、口を上下に動かしてしごいたりする事も忘れない。
「あかり、マルチのあそこを触ってやれ」
「えっ…」
「しろよ」
「………」
 命令されたあかりは、ますます顔に不満を浮かべていた。もう嫉妬と言ってもいいかもしれない。
 しかし、浩之に対して逆らう言葉を述べることはしなかった。あかりはマルチの方に少し近づいてスカートをまくり上げると、下がりっぱなしになっていたショーツをさらにずり下げて指を使い始める。
「んんん…」
 マルチは再び加わり始めた自分の体への刺激に目をとろんとさせたが、浩之への奉仕はゆるめる事がなかった。あかりがマルチの突起を執拗にこすり立ててくる快感を覚えながら、浩之を気持ちよくさせるという快感に酔っていく。
「…出すぞ…」
「んっ、んっ」
 マルチは、口をじゅぽじゅぽと大きく前後させる事でそれに応えた。
 その時ちらっと視界に入ってきたあかりは…さっきマルチがしていたように、自分の指で自分の秘部を慰めている。マルチのクリトリスを愛撫しつつ、自らの同じ所も愛しているようだった。
 ちゅぽっ、ちゅぷ…
 まるでメイドロボのような、その報われないあかりの姿が、マルチを奇妙な恍惚に包んでいく。
「マルチっ、イクぞっ…」
「んんっ!」
 浩之はマルチの口の中から一気にペニスを引き抜く。
 びゅぐっ…びゅっ、びゅ…びゅっ。 びゅ…びゅ
「んっ…んふぅ…浩之さんの…熱いです…」
 マルチは呆然とした笑みを浮かべながら、顔面に浩之の放った精を受け止める。みるみる間にどろりとした液体で汚れてしまったその顔は、この上なく幸せそうに見えた…
「あかり、マルチの顔に掛かったのを舐めてやれ」
「ひ、浩之ちゃんっ…!」
 あかりは、はっきりと怒った表情を浮かべる。
「お前、結構独占欲強いみたいだな」
「ど、どくせんよく…って…だって、浩之ちゃんと私は…」
「しないって言うんならいいぞ。さっさと行けよ」
「…ひ、ひどい…よ…」
 あかりの目に涙がじわりと浮かんだ。
「あ、あの、あかりさん…私…その…」
「マルチ、二回戦だ。服を全部脱げ」
「ま、待って…! 浩之ちゃんっ…」
「どうした? あかり」
「す、するから…お願い…わ、私にして…」
「……ま、ちゃんとできたらあとで考えてやるよ」
「………」
 あかりは涙も拭わずに、マルチの顔に唇を近づけていく。
 ちゅる…ちゅっ…ちゅる
 そして、頬の辺りについた精液から少しずつ舐め取っていく。
「ん…あ、あかりさん…」
 マルチは片目を閉じ、少しくすぐったそうな顔をしながらあかりのキスの柔らかさを感じていた…



12/13
「………」
 浩平は砂浜に敷いた安物のシートの上で、茜を見ている。
 そこにはふたつペットボトル。浩平の口に当てられたコーラのボトルとシートの上に置かれた茜のリンゴジュースのボトル。どちらの方も、半分以上なくなってすっかりぬるくなってしまっていた。昼間はジリジリと日光が灼きつけていた砂浜なのだから、仕方ない。一番近い自動販売機さえも歩いて20分ばかり掛かるという状態では、ひとり一つずつの500ミリリットルをちょっとずつ飲んでいくしかなかった。
 そうして二時間、三時間と過ぎ、今は水平線の向こうに赤い日が浮かんでいる。
 その夕日は半分ほど覆われて見えない。左側の方から、孤を描くようにぐいっと岬が突き出ているのだ。その岬は手入れのされていない林やら岩場やらで、先の方に行くのにも一苦労しそうな感じである。浩平と茜は、そこに行くよりもこの狭い砂浜の方を選んだ。
 しかし狭いと言っても、見渡す限りの空間に浩平と茜以外の人間はいないのだ。水平線の向こうで凛と輝く夕日の光、波が打ち寄せる音と引き際に戯れる音、熱く柔らかな砂の感触、そういった物を二人で独占してしまっている。夕日を邪魔する黒い岬のシルエットすらも、なかなか悪くないような物のように浩平は感じていた。
 もちろんそういった物は、夕日の光の中に立ちつくしている茜の姿を彩る物でしかないのだが…
 茜は浩平から10メートルばかり離れた所で、静かに赤い光を浴びていた。向いているのは波の方だから、浩平に見えるのは横顔である。茜の目はその光を映して感傷的なまでに透き通っていた。表情を一切変えないままに涙を伝わせてしまいそうにすら見える儚げな相貌。長い髪を下ろしているから、その様子がますます切なさをにじませている。
 ただ茜が身につけているのは、淡いブルーの小さい水玉が入った、白いビキニだった。岩の陰に隠れた茜に背を向け、見張りをしていた浩平も、着替え終わった茜の方を向いた時それなりに驚いたものである。以前茜が着ていた事のある、タンクトップとスカート型の水着ではないかと思っていたのだ。その水着の中で、何度も見てきたはずの茜の肌は妙に大人びた物に見えていた。
 その時「浩平だけに私の事を見てもらいたかったんです」と言った茜を浩平は思わず茶化してしまったが、細くしなやかなウェストラインが映えるその水着は意外なほど茜に似合っていた。浩平に茶化されてやや恥ずかしそうにしていた茜も、今はもう全く気にしていないようである。他に人目があればどうかわからないが、この砂浜は今浩平と茜だけの物なのだ。
 さっ、さくっ、さっ…
 そして…茜が浩平の方を不意に向いて、シートに向かって歩いてくる。
「もういいのか?」
「ええ」
 浩平が問いかけると、茜はうなずいた。
 「少し向こうの方で夕日を見てきたいんです…」とさっき茜が言ったのは、一度浩平に水着の姿をしっかりと見て欲しかったからなのだろう。浩平も、それは薄々気づいていた。
「今、何時くらいですか?」
「ん…もう6時半回ってるな」
 浩平は荷物の上に置いた携帯電話を見て言う。電波は0本しか立っていない。
「暗くなって、道が分からなくなっても知りませんよ」
「大丈夫、来た道くらい覚えてる」
「でも、やっぱり今日は泊まっていった方がいいんじゃないですか?」
「金ないって」
「私が一応持っていますけれど」
「後で俺が払わなきゃいけないんだから、どうやっても今日中に帰ってみせる」
「新幹線を使っても帰れるかどうかわかりませんよ」
「ここから1時間、1時間、1時間、それから1時間で…ぎりぎりなんとかなる」
「バス、2時間に1本くらいしか来なかったと思いますよ」
「大丈夫だ」
 人気のない海に行くという曖昧極まりない計画は予想通り破綻しつつあるようだった。先週茜と込み合ったプールに行ってこりごりした時に、浩平が突然言い出した計画である。朝の7時に出て、東京から鈍行で西に三時間ばかり、それからバス。目指していたようなビーチに出会えたのは奇跡としか言いようがない。着いたときにはもう午後の3時になっていたが。
「…早くした方が良さそうですね」
 茜は苦笑しながらシートに置いてあったペットボトルをつかみ、キャップを外して中身を飲んだ。そしてそれをシートに置き直すと、浩平の身体の前に座り込む。
「ここでいいか?」
「一度も人は来ませんでしたし…暗くなってきましたし」
「割と大胆だな、茜」
「時間が、ないですから…」
 笑みのような恥じらいのような表情だ。
「………」
 浩平が脚を伸ばして座り直すと、茜はその間に入り込んできて浩平の股間を触った。浩平の勃起がサポーターに抑え込まれているのを確かめるように何度かそこを撫でてから、茜の手が動く。トランクス型の水着から、するりと指が入り込んでいく。
 茜はサポーターのぴったりした生地の中へと指を進めると、激しく熱を帯びたペニスを無造作につかんだ。そのまま、もてあそぶように浩平のペニスを何度か揉み転がす。浩平のペニスが、窮屈に締め付けられたナイロン生地の中ではちきれんばかりに固く大きくなっていく。
 しゅるるっ…
 サポーターの中に手を入れたまま、茜は浩平のトランクスを逆の手で脱がしていった。それから、サポーターをめくり上げるようにして脱がしていく。浩平は腰を浮かせてその動きを助けた。
 …ぶるっ、とふるい立つような感触と共にペニスが外気に飛び出す。
「浩平…」
 茜はペニスを握りなおしてから、しごくような手つきで表面を丁寧に撫でた。そこへ、顔をゆっくりと近づけていく。
 …ちゅ
 小さな唇が、浩平のペニスを少しずつ含んでいった。
 ちゅる…れろっ…
 その動きはあくまでゆるやかな物だったが、茜は顔を浩平の股間にうずめていくと同時に軽く浩平のペニスをしごく手の動きも止めておらず、しかも先端部分を柔らかい舌で小刻みに刺激し始めている。
 ちゅぷっ、ちゅる…ちゅく
 茜の口内にペニスが飲まれていくほどに、舌の動きも手の動きも大きくなっていく。ペニスを握りしめる力も、いつの間にかしっかりとした強い物になってきていた。茜の細く華奢な指が、這い付くようにして浩平のペニスを感じさせる。舌は雁首のラインから先割れの部分までを素早く動き回り、予測できない刺激を浩平に与え続ける。
 さらっ…。…さらっ…。
 茜は降りてきた髪を何度も耳に掛け直しながら、浩平のペニスの半分以上を口の中に導き入れた。
「いいぞ…」
 浩平は全身が外気に触れていて、しかも視界が広がっているという未体験の感覚に酔いながら、茜の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「………」
 茜は髪をかき上げようとして、一瞬止まり…上目に浩平のことを見つめて…
 ちゅぽ、ちゅぽ、ちゅぽ…
 口と手、同時のピストン運動を開始しながら、片手を自分の身体の方に近づけていった。
 ちゅぽっ、ちゅぽっ、ちゅぽ…
 跳ねた髪が、唾液に張りついて口元やペニスに絡みつく。しかし茜はそれを払う事をせず、手をビキニの中へと差し入れていった。
 ちゅぽ、ちゅぽ、ちゅぽ…
 茜の口がうごめき、手がぎゅっぎゅっと強くペニスをしごく動きに合わせて、茜の水着の下でも指が動き始める。ビキニの生地が、茜の指の動きに合わせてぐいぐいと伸び縮みしている。
 その指先が、茜の最も感じる部分にあてがわれているのは確実だ。茜はあっという間に瞳をとろんと悩ましそうな色に溶かしだして、全身を薄紅の色に染め始めた。
 ちゅぽ、ちゅぽ…
 やがて、茜の水着がきゅぅっと吸い付くようにして茜の秘部に張りつく。その張りついた部分だけが変色して、透明な液体に濡れている事をはっきりと示していた。一度も海水に濡れていなかったその生地は、茜自身の恥ずかしい液体でどんどん潤っていく。
 ちゅく、ちゅぐっ…
 既に、茜の口と舌が立てる水音だけでなく、茜の濡れた部分が立てる水音もよく聞こえるようになってきていた。もう茜の水着はぐしょぐしょと言っていいほどに濡れてきている。ぴっちりとした生地だけに、指で持ち上げられていないヴァギナの近くの生地などはにじみでた愛液がぽたぽたとこぼれ始めるほどになってきていた。ビニールのシートの上に、茜自身の粘っこい雫がいくつも生まれていく。
「茜…そろそろ…」
 ちゅぽぢゅぽっ…じゅぷじゅぷ…
 ちゅっ、ちゅくっ、ちゅぐっ
 浩平が言うと、茜は顔を恥ずかしさで一杯にしながらもペニスとクリトリスに加える刺激をさらに強めた。浩平は茜の頭を軽く押さえながら、せり上がってくる快感を爆発させる。
 …びゅるっ、びゅるっ…びゅっ、びゅっ、びゅくんっ! びゅっ!
 ビクッ…ビク…ひくっ…ひくっ
 浩平が射出すると同時に、茜もまた自慰の絶頂に達してしまったようだった。茜が精液を口の中に溜めながら、全身をわななかせているのが分かる。
 ひく…ひく…
 その痙攣が止まらない内から、茜は射出された濃厚な液体を少しずつ喉の奥に飲み込んでいく。ある程度飲んでしまうと、唇の隙間からこぼれ落ちた唾液混じりの精液もしっかりと舐めてキレイにした。
 ちゅぽん…
 茜はそこでペニスを口から離す。
「…浩平…」
 まだ、とても満足しているとは言えない目だった。茜のビキニに潜り込んだままの手が、それをはっきりさせている。
「茜、立てよ」
「はい…」
 浩平が言うと、茜はビキニの中にもぐりこんだ手を使ってそのまま生地をずり下げつつ、立ち上がる。そこから露わになった、茜の濡れそぼった部分。いつもよりも内側に寄っているように見えるヘアも、べっとりと濡れていた。脱ぎ降ろす時にも、糸を引いた部分がきらっと日に光ってしまったほどである。
「はぁっ…」
 茜は海の風の中で胸を覆う生地だけの姿になった自らに、ため息のような声を出す。
 浩平はサポーターとトランクスを全部脱いでしまってから、茜の身体に近づいていった。そして茜の背中に手を回し、身体と身体を密着させる。
 ぬるぬるとした茜の秘部にペニスが押しつけていると、茜の口の中に出してしまったペニスもすぐに回復のきざしを見せてきた。
「茜…ちょっと協力してくれよ」
 浩平はそう言いながら、腰を屈めていく。
「どうしますか…?」
「アレを手で持って、あそこの中に入れてくれ」
「……わかりました」
 茜は一瞬の間を置いてから、こくんとうなずく。
 一度身を沈めた浩平は、そこから少しずつ腰を押し上げていった。ペニスは茜の太股の間に挟まれているような状態である。ある程度の所まで来た時、茜の指がそれをつかんできた。
「いくぞ…」
 浩平はまた少しずつ腰を上げていく。茜の指につかまれ、先端部分の位置が微調整され、茜の潤いきった部分にペニスが急接近していく。
 あと少し、という所で茜もやや腰を落とした。
 にゅるん…
「ああ…」
 何の抵抗もなく先の部分が中に侵入してくると、茜が声を漏らす。
 ぬぷるぅーっ…
「んんっ」
 浩平が一気に腰を上げて直立した状態に戻ると、ペニスがぐりぐりっと茜の中に入っていった。茜は脚が長めの方だが、浩平との身長差はやはり小さくない。浩平も茜も直立している状態では、相当に深い結合を味わうことになる。
「動くぞ」
 ぬぷっ、ぬぷっ…ぬぢゅ
「あっ…ああっ…」
 下からの断続的な突き上げに、茜は浩平の背中を抱きしめながら官能のあえぎを口にする。姿勢が姿勢だけに速い動きにはならなかったが、外で、開放的な広い空間で、立ちながらの行為に及んでいるという逸脱が茜の心を燃え上がらせる。足の裏に感じられる、ビニールシート越しの砂の感触は茜に普段の姿勢との差をよく伝えていた。
 ぬちゅっ、ぬちゅっ、ぬちゅ
「んっ…浩平っ…浩平…ああ…はぁぁ……」
 浩平の首筋に顔を押しつけるようにして、茜はしきりに身体をくねらせる。直前にイッたばかりで敏感な肉体は、浩平のストロークのひとつひとつからはじけるような性感を覚えていた。茜も突き上げの瞬間に腰を押し下げることで、より深い突きを味わおうとする。
「茜…気持ちいいか?」
「は…はい」
「俺も、すごいいいぞ」
 ぬちゅぬちゅっ! じゅぷ…
「ううっ…んっ、んっ…ん…」
 茜は水着の生地に覆われたままの胸を浩平の身体にすりつけた。その乾いた不十分な感触が、茜の快感を膨らませるスパイスになっていく。
 ぬちゅっ、ぬちゅ…ぬちゅぬちゅっ、ぬちゅ…
「はぁ…はぁっ…はぁ、はぁぁ…はぁっ」
 そのすりつける動きと腰の動きを延々と味わっている間に、茜も第二の頂点へと近づいてきた。茜は浩平の身体からやや身を離し、浩平の目を潤んだ目で見つめる。
「茜、俺もまた出ちゃいそうだ」
「わ、私も…私も、また」
「イッちゃいそうか?」
「…は、はい…イッちゃい…そうです…」
 茜が目を伏せながら言って、腰をかくっかくっと振る。じゅぷじゅぷという水音とぬめつく結合部分の感触は、直接見ることはできない状態でも茜の状態を二人にしっかり伝えていた。
「いいのか?」
「はい、今日は大丈夫です」
「そう…か」
 …ぎゅっ。
「んっ!」
 浩平は水着に覆われたままの茜の胸を思い切りつかむ。背中を軽く抱いたまま、右の手で茜の膨らみをわしづかみにする。
 ぐっ、ぐっ…ぐにゅぐにゅっ…
「ああっ…あっ! こ、浩平っ…あ…あっ…!」
 不意に速度を増した快感の増幅に、茜が大きな声を出して喘いだ。
 ぬちゅぬちゅぬちゅ…ぬちゅっ、ぬちゅ…ぬちゅ
「うっ…はぁっ、あっ…あっ」
 身をよじらせる茜の中を激しく突き上げながら、浩平は茜の左の乳房を揉み続ける。
「んああーっ…あっ、ふあ…あっ!」
 茜の中がぎゅぎゅっ、ぎゅぎゅっという収縮をしてくるようになってきた。茜の喘ぎ声が、さらに高く甘くなってきた。
 ぽろっ…
 茜のビキニの背中のひもがほどけ、右の方の胸が半分露わになる。
 ぢゅぐんっ!
「あああーっ!?」
 それと同時の強い突き上げで、茜が絶叫した。
 ビクンッ、ビクンッ…! ビクッ、ビクッ、ビク…ビク
 びゅっ、びゅ…びゅっ、びゅ、びゅ
「うっ、ふぅぅっ、ああっ…あ…」
 浩平が手を離すと、ビキニの生地が滑り落ちて茜は全裸となった。決して小さいわけではない胸が、いつもと違う光の中で浩平の視界に飛び込んでくる。
「…茜」
「浩平…」
 エクスタシーのただ中にある茜の身体を浩平は両の腕で強く抱きしめ…ほとんど沈んでしまった夕日のかすかな光の中で、口づけを交わした。



12/12
(10/25続き)
「………」
 とさり、という軽すぎる音が立って片耳だけに付けられていたイヤホンが落ちる。
 そのコードの先は、まだ再生中であるウォークマンにつながっていた。由綺の元に音を届けなくなった今もなお、くすんだ音を立てながらテープだけはグルグルと回り続けている。
 元々両耳のぶんのイヤホンはついていない、安物のウォークマンだった。15年前から価値だけを著しく落下させてタイム・スリップしてきたような無骨なデザイン。テープを入れる部分も手で開け閉めするような物だった。
 それが弥生の手から渡された。
 たんっ…
 由綺は腰掛けていたベッドから立ち上がり、床を叩くような強い音を立てながら浴室の方に向かって歩いていく。


 サー…
 均一で強い水流が、シャワーノズルからほとばしり続ける。そのぬるめの流れの中にずっと由綺は打たれていた。
 その耳には、水を吸い込んだ髪がべっとりと掛かっている。浴室の狭い空間の中で、さらに由綺の音響空間は狭められていた。さっきのテープの内容にいたたまれなくなってシャワーを浴び始めたのに、ここでも由綺はイヤホンを付けているときと同じ心地にならざるを得なかった。
 しかも、視界も半ば以上遮られているのだ。必然的にその空白に入り込んでくるのは由綺の憂鬱を招いた原因である物に他ならない。
 茶封筒に入れられた数枚の写真と、46分テープの入れられた安っぽいウォークマン。封筒は折り目もついていなかったし、ウォークマンは買ったばかりの物で電池も新品のマンガン電池が入っていたが…弥生のイメージにあまりそぐわないのは間違いない。
 弥生はそれを由綺に渡す時、「藤井さんの事をこれで判断してください」と言った。
 もちろんそこに表情の変化など無かったのだが、そんな渡され方をして安心していられるわけがない。しかもそれを見て、聞いて、由綺が知ったのは予想をはるかに上回っている事態だった。
 予感がなかったと言えば嘘になってしまう。それでも、最後の最後まで冬弥と理奈の事を信じてしまうのが由綺で…その最後の一線をためらいなく崩してしまうのが弥生だった。
 そしてそうなったとしても、理奈と冬弥の事を素直に憎んでしまう事は由綺にはできない。弥生の事を恨むというのも筋違いだ。結局、そのやりきれない感情は自分を責めてしまう。冬弥に気を使う事ができなかった自分、冬弥に一方的に依存していた自分…という所に悲しみが向いてしまう。
 ……ざっ
 由綺は額に張りついていた髪を一気に上げた。
 弥生もフォローしなかったわけではない。「決して、由綺さんが責任を感じられる事ではありません」という、最も端的な形で由綺に諭していた。その後二人で、『エコーズ』とは違う喫茶店に行って長い時間を掛けながらハーブ・ティーを飲んだ。
 あのBMWで送られ、マンションの入り口で別れた時、由綺は弥生に「大丈夫だから、弥生さん心配しないで」と微笑んでいる。
 演技が下手な由綺にしては上出来の笑顔であったはずなのだが…弥生は、長いコートに迎え入れるようにして、由綺を抱きしめてきたのだ。
 ……きゅぅっ。
 ぽたっ…ぽたっ…
 由綺はシャワーの水流をようやく止める。水滴の音すらも、それなりの大きさを持って由綺の耳に伝わってくる。
 シャンプーさえ済まさぬままに、由綺はその音から逃げ出すようにして、浴室から出ていってしまった。


 由綺はまたベッドに戻ってくる。
 既に夜間着に着替えてしまっていた。一応ドライヤーは当ててきたようだが、まだ髪は生乾き気味だ。だが由綺はそのままベッドに上がって布団の中にもぐり込んでしまう。そうしたかと思うと、すぐに目を閉じた。
 それだけ由綺が疲れているのは間違いない。眠気に勝てず、やるべき事を出来ない子供のような行動パターンに従うしかないほどに。
 …それなのに、一度目を閉じてもすっと眠りに入り込んでいくというわけにはいかなかった。
 まるで由綺が聴覚と視覚の領域を自ら好んで空白にしようとしているように見えてしまう。本当はそれから逃れようとしているのに、結果的には由綺が憂鬱な記憶から逃げることはできないのだ。それは由綺の性格による所も大きいだろうが、たとえそれを自覚していたとしても状況が変わるわけではない。
 何も、しなかったならば…
 ………
 由綺が、布団の中に収まっている手を小さく拳にした。
 この状態でも、何かすることができないわけではない。そして由綺がそれをした事がないわけではない。
 もっとも、それを初めてしたのは1週間前のことだが。
 きっかけが何だったのか、由綺自身にもよくわからない。滅多に会えなかった冬弥の態度がますますぎごちなくなったのはもう少し前からの事だし、音楽祭が終わってからはむしろ仕事の負担は少なくなってきているのだから、仕事のストレスにその原因を求めるのも違うような気がする。
 どこからか、いつの間にか忍び寄ってきていた何かにそっと絡め取られた。そんな感じだ。自分の中から生まれた物なのか、外から生まれた物なのかもわからない。気が付いたら由綺はそれをしていて、気が付いたらそれが終わっていて、気が付いたら二回目、三回目をしていたのだ。
 だから、今日が七回目になっても特別驚くようなことではない。憂鬱になるような事が起こったから、といった理由を求める必要はなかった。無論恥ずかしさは消えていないが、だいぶ薄れてきてしまったのは否定できない。どんな行為であるにしろ、ここは閉じられた由綺の自室なのだ。
 ……する
 思考の間にも、由綺の指はパジャマのウェストの部分の内側に入り込んでしまった。そこまで来れば、もう戻れない。
 由綺の指先に少し力が入ると、淡い桃色のショーツの中へと行為が侵入していった。
「………」
 仰向けだった身体が、横に向く。隠そうとしているのか無意識か、由綺は壁の方を向いていた。
 …しゅ、しゅ…
 秘裂のラインに沿って、素早く指が数回動いていく。素っ気のない動きではあったが、それを終えて由綺が指をスリットの中へと導くと指先には滑らかな液体が絡んだ。今の刺激だけで、身体を反応させてしまったようだ。
 ちゅ…ちゅく
 ショーツの中にあふれ出すほどではないにしろ、指をスムーズに動かすのに全く支障がないだけの潤滑液は出てきていた。その密やかなぬめりを指に帯びさせてから、由綺の指が一点を目指して動く。
 由綺自身も自分の目ではっきりと見たことのないその部分は、既にわずかながらも充血し始めていた。由綺は自分の指の先に伝わってくる感触でそれを認識する。
 一週間、七日の間にも由綺の身体はどんどんと敏感になっていくようだった。一日一日の差を見てみれば大した事がないのかもしれないが、まとめて見ればかなりの変化だ。
 くっ…くっ
 由綺はその突起をこする。位置を確かめるような弱い刺激から、段々とはっきりした強い刺激に。横に寝転がった状態から、腰を奥に引き、身体全体を少し丸めて、ただただその一点だけをこすり続ける。布団を剥いでしまったなら、由綺が快感を貪欲にむさぼっているような仕草をしているのが見えることだろう。しかし本人にそれは意識されない。ひたすらに自分の官能に沿った動きをするだけである。
 くっ…くりゅくりゅ……
 ぷちゅぷちゅと蜜液がこぼれ出すのに合わせ、由綺の身体の奥からふわーっと熱い物がこみ上げてくる。由綺は身体をもっと小さく丸め、目を閉じたままかすかに眉をしかめ、その部分を無心に擦り続けていた。初めの頃は不安感に駆られて行為をやめてしまった事もあったが、今の由綺はもう全く躊躇をせずに指を動かすだけの心構えができてしまっている。
 くりゅっ…くちゅ…くちゅっ!
「………っ!」
 由綺が一瞬だけ身体を跳ねさせた。
「…んっ…はぁっ…はぁ」
 息を荒げながら、由綺は指をショーツから出して身体を少しずつ伸ばしていく。そして仰向けの状態に戻ると、由綺のしていた行為の痕跡は消えてしまった。
 だが、濡れてしまう程度も前より大きくなっていきたように思える。ひょっとすると、今もショーツが少し濡れてしまっているかもしれない。
 とは言っても、この行為を終えた時には由綺が心地よい眠りにすとんと落ちていけるのは事実だった。眠りを妨げる要因がある限り、この行為から容易に逃れることはできなさそうだ…そう思いながらも、由綺は美しい睡魔に抵抗をする事はなかった。



11/18
「………」
「こら、あかり、あんまりそっちに行ったら雅史達に見えないぞ」
「で、でも…」
「ほら、こっち来いよ」
 浩之が、壁に沿って置かれたベッドの隅の方で小さくなっているあかりの体を引っ張る。あかりは壁の方に体を向けてタオルケットで身を隠していたが、浩之は力任せにあかりの体を動かしてベッドの中央まで持ってくる。
 …ばっ。
「あっ…だ、だめっ…!」
 浩之がタオルケットを取り上げようとすると、あかりが必死にそれを押さえて抵抗する。
「今さら何言ってるんだ」
 ベッドの脇で正座している雅史と琴音。二人の方を見ながら、浩之はタオルケットをぐいぐいと引っ張る。
『………』
 雅史と琴音は、浩之とあかりのやり取りに対して両方とも沈黙していた。ただし雅史はほとんど顔を伏せてしまっているのに対して、琴音はしっかりと顔を上げて浩之とあかりの事を見つめている。
「雅史もちゃんと顔上げないと、見えないぞ」
「う…うん」
 浩之がうながすと、おずおずと雅史が顔を上げる。
「ま、雅史ちゃん…」
 ばさっ。
「あっ!」
 雅史の方にあかりが気を取られた瞬間、浩之はタオルケットを一気に引っ張って奪い取る。そしてそれを後ろの方に放ると、一糸まとわぬ姿のあかりの体にのしかかる。
「み、見ないでっ…」
「ばか、見てもらわなきゃダメなんだって」
「あっ、やだ、やだよぉっ…」
 浩之があかりの体を雅史と琴音の方に向けようとすると、さすがにあかりは抵抗を見せる。
「ずっと裸でいるより、さっさとした方がいいだろ?」
「う…」
「それとも、1時間ぐらいたっぷりかけて雅史達にレクチャーしてやった方がいいか?」
「………わかったよ…浩之ちゃん…」
 あかりが、顔をそむけつつも体を雅史と琴音の方に向ける。さすがに秘部と胸は手で覆おうとしたが、浩之に遮られた。
「あ、あんまり見ないで…」
「だから、何度言ったらわかるんだ」
「でもっ…」
 ほとんど涙目のあかり。それを雅史と琴音は、申し訳なさそうに見ていた。ただし、雅史は本当に申し訳なさそうに見ているだけなのに、琴音は申し訳なさそうに見つつもあかりの体の様々な所をしっかりと観察しているという違いがここでも出てきている。
「じゃあ、よーく見とけよ。まず、する前にちゃんと濡らさなきゃだめだよな」
「はい…」
 琴音が返事する。あかりと雅史がぼっと顔を赤らめる。
「まず、指を少し濡らしておいて…」
 浩之は口に指を二本ばかり突っ込んで、べろべろと舐めた。そして、その濡れた指をあかりの秘部に向ける。
「この中の、ここ…」
「あっ!」
 割れ目が左右に広げられると、あかりは悲鳴のような声を出して目を固く閉じてしまった。
「ここだな。この、粒みたいな所。おい雅史、お前が見なくちゃだめだろ」
「え…う、うん…」
 いつの間にかまた下を向いていた雅史が、顔を上げる。
「ここだ。ここ」
 浩之がぐいっと大きく秘裂を広げて、雅史に示した。雅史は顔を赤くしながらも、そこをじっと見つめる。
「敏感だから、最初は軽く触ってやるくらいにして…」
 つん、つん…
「………!」
 浩之はあかりの突起を指の先でつつく。
「こうやって、色々に触っていく感じだな」
 くりゅ…くりゅっ
 撫でる動き、つまむ動き、転がす動き、浩之は比較的ゆるめのタッチで何パターンか示す。
「それで、段々強くしていって」
 くりゅ、くりゅ、くりゅ…
 浩之が言葉の通りに指の動きを強めていく。
「ひ、浩之ちゃあんっ…!」
 くりゅくりゅっ…
「ほら、最初よりもおっきくなってきただろ?」
「はい…」
「ひ、姫川さんっ…」
 あかりは恥ずかしさに思わず叫んでいたが、うなずいただけの琴音を非難しようがない。
 ぐり、ぐり…
「や、やだ…だめっ」
 浩之が指の腹で押し込むような強い圧迫を加えてやると、あかりが腰をよじらせる。しかし背中を浩之の体がしっかりと押さえていて、前には雅史と琴音がいるという状態では逃げようがない。
「だめっ…!」
 あかりがピクンと体を震わせる。
 ちゅ…
「ほら、濡れてきた」
「はい」
「雅史も見えるよな? ほら」
「う、うん…」
「や、やだよぉ…見ないで…」
 ヴァギナの入り口を指で広げられたあかりの秘部には、きらめく液体がはっきりと見えていた。
「もっとしてやってもいいけど、あかりは感じやすいから…これくらいで十分だろ」
 浩之が指を離す。そして、あかりの体を転がしてまた仰向けの姿勢に戻す。
「入れる場所はもうわかってるよな? あとは普通に入れてやるだけだから…」
 そう言うと、浩之はあかりの腰をつかんで持ち上げ、ペニスをあかりの秘裂の中に割り込ませる。そして、ヴァギナの入り口にペニスを当てて腰をスライドさせ、ぬちゅぬちゅという音を立てる。
「こう。雅史も力は弱い方じゃないし琴音ちゃんは軽そうだし、腰の下に枕とか入れてやらなくても大丈夫だろ」
 浩之は琴音と雅史の方に顔を向けて説明した。琴音はこくんとうなずく。雅史も、あかりが仰向けになって直接顔を合わせなくてもよくなったためか、しっかりとあかりと浩之の体の位置関係を観察しているようだった。
「で、入れる…」
 ずちゅ…
「あっ…」
 ずちゅぅぅ…
 粘っこい水音を立てて、浩之のモノがあかりの中に埋没していく。
「ほら、ラクに入る」
「あ…ふあっ…」
 ずちゅっ、ずちゅっ!
「あ、あっ、浩之ちゃん…!」
 あかりが鼻に掛かったあえぎ声を出した。
「で、こいつもちゃんと気持ちよくなっているわけだ」
「ひ、浩之ちゃん…」
「なんだよ、違うってのか?」
 ずちゅ、ずちゅ…
「あああっ…!」
 あかりが目を閉じたまま、ピクピクと体を震わせる。
「な」
 浩之が琴音と雅史を見てウィンクした。
「……佐藤先輩…」
「えっ?」
 そこに、琴音が口を開いて、雅史の脚の上に手を乗せる。雅史は緊張のためか、ビクッと体を震わせてから返事をしていた。
「え…こ、琴音ちゃんっ…!」
「な、なんだか藤田先輩達のを見ていたら…」
 雅史は慌てた声を出す。琴音の手はいつの間にか琴音のスカートの中にもぐりこんでいたのだ。スカートの生地越しにも琴音の股間の辺りがモゾモゾと動いているのが分かる。何をしているのか、訊くまでもない。
「うわ…琴音ちゃん」
 ベッドの間際にまで正座している二人が近づいていたため、浩之もそれには気づいていなかったようだった。浩之は呆れ気味の声を出しつつも、興味深そうに琴音と雅史を見守る。
「わ、私は準備OKですから…ちゃんと…今の内に、確認しませんか…?」
 琴音がスカートのホックに手を掛ける。
「で、でも…! 浩之達の前で…」
「雅史、こっちだって見せてるんだからおあいこだろ? やっちゃえよ」
「浩之…」
 そう言う間にも、琴音はスカートを脱ぎ始めている。そして、雅史が琴音と浩之の顔を交互に見比べて困った顔をしている間に、琴音は下半身の着衣を脱ぎ払ってしまっていた。ヘアが薄目のあかりよりも、さらに無毛に近い琴音の秘裂が露わになる。
 しかしその秘裂からは、既に透明な雫が少しだけだがにじみ出していた。
「ほら、佐藤先輩だけ服来ているのずるいですよっ」
 琴音は淫らな目で雅史のことを見つめながら、秘裂に指を差し込んで自慰行為を続ける。ちゅく、ちゅくという水音がはっきりと雅史の耳に響いてくる。
「そうそう。雅史も脱げ」
 ずちゅ、ずちゅっ…
「ああっ…! 浩之ちゃん…!」
「……浩之、琴音ちゃん……あかりちゃん……」
 雅史は場を覆う異様な雰囲気に飲み込まれてしまったようだった。どこか遠い目をしながら、学生ズボンを静かに脱いでいく。そして真っ白な色をしたブリーフをずり下げて脱ぎ、その二つを綺麗に畳んで床に置く。
「佐藤先輩、来て下さい…」
 それを見届けると、琴音は指を秘裂の間から抜いて絨毯の上に身を横たわらせた。雅史はちらりと浩之達の方に目をやってから、琴音の体の上をまたいで立ち、そのまま体を屈めていく。
 ぐっ。
 雅史が、浩之がしているように琴音の腰をつかんで持ち上げた。琴音は無垢な乙女のように雅史の腕に体を完全に委ね、切なそうな目をする。
 そのピュアーな印象には不相応に濡れ濡れてしまっている琴音の秘部へ、雅史は慎重にペニスを近づけていった。そして、秘裂の中にペニスを入れてヴァギナの入り口を探る。
 ぬちゅ、ぬちゅ…
 琴音の性器は、雅史がそうして探るだけで濡れた音を返してきていた。雅史のペニスの先端は挿入前から熱い粘液に絡まれて、ますます熱を帯び固くなる。
「…いくよっ…」
「はい…佐藤先輩…!」
 …ぬぢゅ…!
「ああっ…!」
 雅史は一気にペニスを琴音の中に突き入れた。
「あっ」
 あまりの勢いに、バランスを崩して転びかける。
「慌てなくていいぞ、雅史」
「う、うん…」
 ぬちゅっ。
 琴音の中にペニスを完全に挿入しきった雅史は、拍子抜けしたような顔をしていた。それだけ、普段琴音と交わる時と違ったということなのだろう。
 ぬぢゅ、ぬぢゅ、ぬぢゅ…
「あ…先輩…佐藤先輩っ…!」
「こ、琴音ちゃんっ…」
 雅史は自分でしている行為が信じられないといったような不安さを顔に浮かべながら腰を動かしていた。
 ぬちゅ、ぬぢゅるっ
 琴音と雅史の結合部分は非常に滑らかにつながっていて、雅史は浩之の最初の動きと比べてもかなりスピーディに腰を動かしている。それが、雅史には信じられないらしい。
「なんだよ雅史達、上手いじゃねーか」
「え、ええと…」
「いつもは、こんなにうまくいかないんです…」
「やっぱり、琴音ちゃんが濡れ足りなかったってことだな」
「ええ…そうみたいですね」
「これからは、雅史が入れる前に琴音ちゃんがオナニーしていればいい」
「そ、そんなの嫌ですよ…佐藤先輩、これからはちゃんとしてくださいね」
「う、うん…」
 ぬちゅぅ、ぬちゅ…
 雅史はうなずきながら腰を振り続ける。
「んっ…んんっ…いいです…」
「良かったね、雅史ちゃん達…」
「…あ、あかりちゃんっ!?」
 いつ目を開けたのやら、あかりが雅史達の結合を見ていた。雅史は思わず腰を止める。
「い、いやです…止めないで下さい…!」
 ぎゅう…
「あ…琴音ちゃん…」
 琴音のヴァギナがきつく締まって雅史を求めてくる。
「よっし、こっちも再開するか」
 ずぢゅっ、ずぢゅ…
「あ、ああっ…浩之ちゃーんっ!」
 あかりが高い声を出して身をよじらせる。
「………」
 ずちゅ、ずちゅ…
「あっ、あっ…佐藤先輩…佐藤せんぱいっ!」
 雅史は何かに衝かれるようにして再び琴音の中をえぐり始めていた。琴音の中が、小刻みにきゅっきゅっという収縮をし始める。
「ひ、浩之ちゃんっ…私…もう!」
「あかりっ…俺もだ…」
 ずちゅ、ずちゅ…
「さ、佐藤先輩、私も…!」
「う、うん…!」
 何かの波動のように、絶頂への流れがひとつにまとまっていく。雅史もその流れとは無縁ではいられなかった。ペニスの根元に熱い脈動がどんどん溜まって、爆発寸前になる。
『あーっ!』
 あかりと琴音、二人の黄色い喘ぎ声が合致した。
「んっ…!」
 …びゅっ、びゅっ、びゅっ…
 それが引き金になって、雅史は琴音の中に白濁液を射出してしまう。雅史はこれまで味わった事がないほどに大きな快楽に包まれ、これまでないほどに大量に琴音の中に出してしまっていた。
 ビク、ビク…
 琴音の膣内も痙攣している。そして、表情は見たことがないほど恍惚とした満足そうなものになっている。雅史はそれを見ていると、背筋がゾクリとするような気がした。
「んっ…んんっ…浩之ちゃん…」
「ちゃんと、舐めろよ」
「う…うん…」
「…え?」
 雅史は聞こえてきたやり取りに、浩之達の方を見る。そして、ぎょっとする。
 あかりは全身のあちこちに白い液体を付着させていた。浩之はあかりの中に出さずに、外で射精してあかりの体に思い切り精液を掛けたらしい。
 …ぺろ、ぺろ…
「あ、あかりちゃん…」
「こういうのをさせるのも楽しいぞ? 雅史」
「ま、雅史ひゃんっ…み、みなひで…」
 あかりは顔を真っ赤にしながらも、体に付着した精液を少しずつ指でこそげ取って口に運んでいた。恥じらいの素振りは見せているが、嫌がっている様子はない。
「あかり、俺のはどうなんだ?」
「お、おいひいよ…浩之ひゃんのせいえき、おいしひよ…」
「…佐藤先輩」
「え!?」
 琴音が静かな声で雅史を呼ぶ。
「私は、口でそのまましてあげます」
「え? え?」
「ふぇらちお…って言うんですよね、そういうの」
「こ、琴音ちゃんっ!!」
 雅史は大胆な発言をする琴音に思わず叫んでいたが、琴音の目に宿ったかすかな嫉妬の色は消えないようだった。



11/16
「………」
 芹香の唇から、ぽそぽそと呪文が紡ぎ出される。
 ほとんど聞こえないほどの小さな声による詠唱ではあったが、少し濡れた唇が動く様子はなにかの言葉を発しているのを感じさせた。巻き舌の発音が多い、日本語とはかなり離れた様子の言葉。それが、途切れ途切れに発せられている。
「………、…………」
 もちろん、途切れ途切れになっているというのは芹香の口の動きがそうなっているというだけのことだ。実際には口をほとんど閉じているように見えても呪文を唱え続けているのかもしれないし、口を開けていても呪文を唱えていないという事はあるかもしれない。
 それでも、芹香の口が閉ざされる時のパターンを見ていると、それが呪文の詠唱とほぼ一致している可能性は極めて高いように思える。
「…………、…………」
 芹香が口を閉ざすのは、決まって芹香の指が動くときだったからだ。芹香の秘部に這わされた、芹香自身の人差し指。それが動く度に芹香の口がきゅっと閉ざされる。芹香が何に反応しているのかは一目瞭然だった。
 その指を当てている所を、芹香は隠そうともしない。もっとも、見られる心配はないのだからそれは当然とも言える。部室のドアにはしっかりとカギが掛けられていたし、分厚い黒のカーテンはいつも閉めっぱなしだ。芹香の行為が誰かに見とがめられる心配はない。
 とは言え、学校の中で半裸になってそういう行為をしているのが、かなり大胆であるのは間違いない。
 芹香の体は魔術師のマントと帽子に覆われていたが、その下に普段は着ている制服がなかった。それは下着やブラウスと一緒に部屋の脇に丁寧に畳まれている。
「……、………、……」
 だから、芹香は体の背中の方や横の方はマントに覆われているのに、前面は裸という極めて無防備な状態だった。胸は谷間の部分が見えているし、ヘアの薄い秘部は割れ目のラインがくっきりと見えている。そこに指を差し込んでいじくっている様子も丸見えだった。中がどうなっているのかまでは見えないが、芹香の指が恥丘の膨らみの下で積極的に動いているのはよく分かる。
「………」
 そして秘裂の中に指を入れているのと逆の手には、銀色の小皿が握られていた。芹香はそれを自分の股の下に持ってきている。脚をそれなりの広さに開いている姿勢は、かなりはしたないものだ。
「……、……、………」
 そこに、時折芹香の蜜液がぽたっと垂れる。指戯が生んだ官能を凝縮したようなその液体を、芹香は何とかして集めようとしているようだった。
 暗い部屋の中、銀皿に溜まった液体が時折ロウソクの光で照らされてきらめく。ようやく小皿の全体に液体が行き渡った、といった感じだった。深さにすれば1〜2ミリ程度、大した量ではない。しかしその液体の由来を考えれば、決して少ない量ではないという事が分かる。
「…、……、………、……」
 それだけ集めるのにどれほど時間を掛けたのかはわからないが、芹香も相当に高ぶってきているようだった。呪文の詠唱が途切れる感覚が短くなり、普段はあまり表情の変化を見せない顔が物欲しそうな色を見せる。
 …とんっ。
 ついに芹香は耐えきれなくなったようで、不意にしゃがみこむと愛液を溜めた銀皿を魔法陣のじゅうたんの上に置いてしまった。そして立ち上がり、指を秘裂の中に差し込む。
 ぐりっ、ぐりっ…
 どこか緩慢だったこれまでの動きとは打って変わって、芹香の指は激しく動き始めた。指の位置からして、明らかにクリトリスを押し込んでいると分かる。逆の手は乳房をわしづかみにして、ぐにぐにと揉みしだいていた。
 芹香は惚けた目で天井を見つめながら、自らの手で性感を突き詰めていく。
 ぐりっ…
「………!!」
 指が、強烈に芹香のクリトリスを押しつぶした。芹香は声無き悲鳴を上げて、わなわなと全身を震わせ始める。
 ビクッ!
 そして芹香は半裸の体を激しく跳ねさせながら、エクスタシーに達してしまった。
 ビク…ビク…
 芹香のマントだけに覆われたなまめかしい体は、絶頂の激しさと相まって、普段制服の上からマントを身につけているときとは比べ物にならないほど悪魔的に見える。
 やがて痙攣が収まると、芹香は魔法陣の中心にひざまづくような姿勢でしゃがみこみ、クリトリスをやわやわと愛撫し始めた。魔法陣の中心に、自らの愛液を染み込ませようと試み始めたのだ。
「………」
 低い姿勢で再び自慰を行い始めた芹香の表情は、淫乱であると同時に何かの目的を感じさせた。これも、芹香にとっては魔法のための大切な儀式なのだ。
 副次的な快感の激しさのあまり、半分習慣になりつつあったとしても…



11/11
「い…いややっ…返して…それ」
「ダメだ」
 浩之が薄手のコートをくしゃくしゃと丸めながら突っぱねる。
「さ…寒ぅて…」
「………」
 智子が、身を縮こまらせて体を手で覆った。浩之はその姿を、上から下まで舐め取るような視線でゆっくりと観察する。
 もう秋もだいぶ深まりつつあり、確かに薄手のコートくらいは身につけていないと寒風が身に染みてくるような季節といえるだろう。しかも、今は深夜の一番冷える時間帯だ。
「そ、それに、誰か来たら…」
 ましてや、申し訳程度にしか体を覆っていない、黒光りする革のボンテージだけでは寒さに震え上がるのも当たり前のことだろう。胸とヒップのラインを強調する目的の方が強調されているような下着だった。胸は乳頭の部分も含めてぽろりと露わになってしまっているし、秘部は下着が恥ずかしい所を隠していると言うよりも、その敏感な部分にぐいぐいと固い紐を食い込ませているような感じだ。
 当然のように、智子の陰毛は綺麗に剃り取られていて、割れ目のラインに沿って黒い革がきつく締め付けているのが丸見えだった。
「か、返して」
 逆に言えば、智子は自分の体を手で覆っているというのに、肝心の一番恥ずかしく強調されている部分を隠していないと言うことだ。
「じゃあ、言うこと聞くか?」
「う…な、何するん…?」
 その原因が、威圧的に振る舞う浩之の存在である事は想像に難くない。智子の眼鏡の奥の瞳は、浩之に対する恐怖のような畏怖のような感情に満ち満ちていた。
 ざく、ざく…
 浩之は公園の砂っぽい土を踏んで音を立てながら、智子の後ろに回り込む。わざわざ音を大きく立てているような浩之の足取りに、智子は気が気でないようだった。
 …ぷちっ。
「あっ…」
 智子の秘部に食い込んでいた革の生地が、はらりと下に垂れる。浩之が、ボンテージの後ろについていた金具を外したのだ。普通の下着で言えばショーツに当たる部分、しかし実際にはただの固い革ひもでしかない部分が智子の体の前にぶらんと垂れ下がる。
 がさがさっ…
「ふ、藤田君…?」
 浩之が智子の後ろで、家から持ってきていたコンビニの袋を漁っている音がする。智子は恐怖に怯えつつも、ただじっと立ちつくして浩之の行動を待っていた。
 カチ。
 ビィィィィィ…
「そっ…そんなのいややっ…!」
 突然鳴り出した振動音だけで、智子は悟ったようだった。数え切れないほどそれで犯されてきたのだから、音だけでも何が準備されているのかは十分わかる。ボンテージの色とお揃いの、凶悪な太さをしたバイブだ。
「動くなよ」
 浩之が、そう言うと同時に智子の太股に何か冷たい物を押しつけた。
「え…?」
 振動していないので、バイブ自体ではない。智子は浩之の意図を探りかねていたが、
 ビビビビっ。
 明らかにガムテープとわかるものが押しつけられた物の上からぐるぐる巻き付けられ始めると、段々浩之が何をしようとしているのか理解し始める。
「やだっ、やめてっ…」
 ヴヴヴヴヴ…
「あぅっ…!」
 智子の声に構わず、浩之が振動するバイブを智子の中にねじりこんでくる。
「はぁっ…あああっ…!」
「濡れてんじゃねーか。あそこに食い込んでるだけで感じてたのか?」
「ち、ちがうっ、そんな事ないっ…」
「ウソつけ。ほら、いいんだろ? 外でバイブ入れられて、感じまくってるんだろ?」
 ヴィゥ…ヴィゥ…
「んはぁっ…!? う…動かさんといてっ…!」
「どんどん濡れてきてるぜ?」
「っ…うううっ…」
 智子は体の中からあふれてくる甘い液体を何とかしてくい止めようとするが、それは膣を収縮させてバイブの振動をさらに強烈に感じてしまう事にしかならなかった。バイブの隙間からじゅくじゅくと愛液があふれているのを、否定しようがない。
「さてと…」
 浩之はバイブを動かす手を止めて、立ち上がる。
「あ…ふ、藤田君、本当に寒ぅて私…」
 刺激が多少収まると、再び突き刺すような寒さが感じられるようになってきた。愛液で濡れた部分は、気化熱でますます冷たく感じられてしまう。
「そ、それ、着させて…」
「なんだよ、今感じまくっていたクセに」
「だ、だって…風邪引いてまう…」
「じゃあ、これから言うことをきちんとしろよ」
「う…うん…」
 浩之はまたコンビニの袋をがさがさと漁る。
 そこから取り出したのは、サイズとしてはあまり大きくない、ピンク色のローターだった。水銀灯の光の中でも、黒ずくめに近い智子の姿に比べればだいぶ派手に見える。
「ほらっ」
 ぽんっ、と浩之がそれを放った。放物線を描いて小さなローターが宙を舞い、公園の端にある砂場に落ちる。
「犬になって、アレ取ってこい」
「…えっ?」
「犬なんだから返事はワンだ。四つん這いになれ」
「………」
 智子は冷たい汗を浮かべて浩之の目を数秒間見つめていたが、比較的素直に浩之の言葉に従って四つん這いの姿勢になった。体自体をいたぶられるよりはマシと思ったらしい。
「ほら、取ってこい」
「わ…わん」
 智子はバイブを生やした秘部を浩之の方に晒して、土の上を四本の手足で歩き始める。
 ヴィーヴィ…
 体の向きが変わったせいか、バイブの当たる角度も少し変わったようだった。変則的な振動が、智子にバイブの存在をより大きく感じさせる。左の太股にきつく固定されたスイッチボックス、秘部をぐりぐりと責め立てる太いバイブ、そして腰から上を相変わらず窮屈に締め付けてくるボンテージ。
 体の要所要所を締める拘束が、智子の快感を内へ内へと封じ込めていく。大きく喘いでしまう事こそしないものの、今にも何かが爆発してしまいそうな、そんな不安感が智子の中にどんどん溜まっていく。
 ざく…ざっ。
 高まる体に、はぁっ、はぁっ…と息を熱くしながら智子は砂場の中に入っていった。そして、ちょうど真ん中の辺りに落ちていたローターを何とか口でくわえこむ。砂も一緒に口の中に入ってしまったが、ムリヤリに口の中に入れてしまう。
「よし、走って帰ってこい」
「ん、んんっ」
 智子はローターをくわえたまま、何とか返事をした。体を反転させて、出来る限りのスピードで手と足を動かす。犬のように走るというわけにはいかなかったが、早歩きをするように四本の手足をがむしゃらに動かす。バイブの高速振動に煽られるようにして、浩之の元に一心に戻っていく。
「んっ…ふぅぅんっ」
 やっとの事で浩之の所までたどりつくと、智子は唾液に濡れ濡れたローターを浩之の差し出した手に吐き出した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
 運動量にすれば大した物ではないはずだが、智子の体を大きな疲労感が包んで、なぜか涙がすぅっと頬を伝っていく。
「ったく…大喜びでやりやがって。濡れたあそこにバイブ突っ込んで、そんな格好してて恥ずかしくねーのかよ?」
「…そ、そん……………わ…わん」
「ケツを振りながら歩いて行ってるの、犬にそっくりだったぜ。バイブをホントのしっぽみてーに振っててさ。嬉しいとしっぽ振るとこまで、犬とおんなじかよ。バイブをぶんぶん振って、感じてます濡れてます嬉しいですって一生懸命言っていたんだな」
「わ、わんっ、わんっ!」
「そうか、『私もそう思います』か」
「わっ…わん…」
 智子の目から、涙がじわじわあふれていく。
 しかし、それと同じか、あるいはそれ以上に秘部から愛液があふれているのを智子は自覚していた。
「じゃあ、ご褒美だ。これ使ってオナニーしろ」
「っ…」
「そんなに外で恥ずかしい事するのが好きなんだったら、オナニーするのなんて嬉しくてたまらねーよなぁ?」
「わ…」
 浩之の悪魔的な笑みに、智子の理性が崩れ落ちる。
「わんっ…わんっ、わんっ!」
 智子は狂ったように叫んで、四つん這いのまま右の手を差し出していた。勢いのあまり、眼鏡が外れて土の上に転げ落ちる。
「よし…」
 かちっ。
 ヴィヴィヴィヴィーッ!
 浩之はスイッチを入れてやってから、ローターを智子の手の平の上に乗せる。
「わんっ…」
 智子はそれをもどかしそうに股間に持って行った。バイブが突っ込まれて蠢いている部分の上、固い突起が眠っている所に何とかローターをめり込ませようとする。
 ガガガガガガっ…
「あっ! はぁっ…あああーっ!?」
「おいおい、ムチャすんなよ」
 二つの振動具がこすれあって、耳障りな音を立てる。それでも、最も敏感な部分を直接ローターで刺激する快感に智子は飲み込まれてしまったようだった。ぐりぐりと自分の手でローターを突起に押しつけて、自虐の快感を引き出す。
「はふっ…あはぁっ…ああっ…」
 智子は、後ろから突き刺さってくる浩之の視線が物質化しているような気がしていた。浩之の視姦、バイブの膣への陵辱、クリトリスによるローターの自涜。3つの快感が、ボンテージの拘束と、鋭い夜風と、夜の公園の静けさによって智子の内側へと濁流のように流れ込む。
「んっ…はっ…はぁぁぁっ…!?」
 それがもはや内面に溜め込めなくなった瞬間、既に全身が性感帯のようになっていた智子の官能が、一気に外側に飛び出した。智子の愛液、痙攣、涙、喘ぎ、全てが外面に放出されていく。
「あっ、あっ、あああーっ!? あっ、あああーっ!? ああっ!!?」
 わなわなっ、わなわなっと幾度か体を震わせてから、完全に裏返った声を出して智子が背中をギュンと反らせた。
 ビクゥビクッ! ビクンビクンビクンッ…ビクンッ!
「イッたな…」
「あっ…あっ…ふ、藤田くぅんっ…私…私…」
「イッたな?」
「う、うん…藤田君に見られて…バイブ入れられて…自分でもオナニーして…私、気持ちよすぎてイッてもーた…」
「まだ、オナニーしたいか?」
「う、うん…したい…私、もっと、オナニーしたい…」
 ゆるみきった関西イントネーションの卑語は、柔らかさと艶っぽさを備えて非常にいやらしく響いた。その言葉に違わず智子はローターを土の上に投げ、今度は自分の指でクリトリスを優しく撫で始める。
「そしたら、あれにまたがってこいよ」
「え…あっ…」
 浩之が指差した児童用の鉄棒に、智子の目がまた溶けそうな色になっていった。



11/5
 ジー…
 茜の手が、俺のズボンのジッパーを丁寧に下げていく。ほとんど外からは音が聞こえてこない、静かな昼下がりの中ではそんな音も結構大きめに聞こえた。
 しゅるっ。
 トランクスを下ろされる。やはり、衣擦れの音がそれなりに大きく聞こえる。俺のアレが外に飛び出す時の「ぶるん」という音まで聞こえてきたような気がした。
 どれも存在感の薄いはずの音だ。それが妙に耳に響いてきたのは…それが、全て茜の耳に響いている音だったからかもしれない。
「………」
 ふぅっ、と鼻腔から抜けるかすかな吐息を漏らしてから、茜がそっと俺のアレを指で包み込む。ほんのりと頬を染めて、冷ややかな感触の指に包まれた俺のアレをしばし見つめ…、
 …はむっ。
 柔らかい唇が、静かに俺のアレを口の中に導いていく。
 全てが静寂に統一された、そんな茜の口づけはオーラでも放っているかのように俺を興奮させた。ただくわえこまれただけなのに、血流が大量に流れ込んでますます俺のアレは肥大化していく。どくんどくんと茜の口の中で脈打っているのが、自分でもわかる。
 茜はそれを口にしたまま、祈るような目で沈黙していた。左手で包んだ幹の部分を軽く握ったり離したりして微細な刺激を与えながらも、口の方は動かしていない。
 俺は、特に急かす事はしなかった。
 そういう微妙な刺激も気持ちいいし、茜の恥じらった顔を見ているのも楽しい。焦る理由は何もない。
 …さらっ
 茜が髪をかき上げる、風がそよぐような音もやはりしっかりと俺の耳に入ってきた。
 ちゅぷっ。
 そして、茜が俺のアレを舐め始めた音はそれよりも数倍大きく響いた。
 ちゅぷ、ちゅぷ。ぺろぺろ…
 先の部分を小刻みに唇でゆすりながら、幹の部分を手でしごく。そして先の部分を舐めながら幹の部分やフクロの部分を優しく揉んでくる。それを短いインターバルで繰り返してくる。
「ふぅ…」
 俺は、ゆっくりと息を吐き出した。
 茜の小さな唇や、細い指にぴったり合っている責め方なのだ。
 決して激しさはないのだが、「何か」をアレの中に送り込んで、代わりに「何か」をアレから吸い取っていくようなフェラチオ。ねちっこい、という形容の仕方はまぁまぁ合っているかもしれないが、少し違う。茜の純粋さをそのまま感じさせるような綺麗なイメージが、それでは失われてしまう。こんなにいやらしい事をしているというのに、髪を下ろした茜の真剣な顔は俺にいやらしさ「以上」の物を感じさせずにはいられないのだ。
 もちろん、茜はいやらしい。
 …ぺろ…ぺろ…
 一度アレから口を離して、熱心にフクロの中の珠を転がし始めたりしているのを見て淫乱だと言わない人間はあまりいないだろう。逆の手で、転がしているのとは別の方の珠もしっかり撫でている。
「茜、準備しておいてくれよ」
 俺がそう言うと、茜は空いた手をおずおずと自分の脚の付け根に持って行く。
 茜はもう服を全部脱ぎ去っている。茜の指はそのまま割れ目の中に入って、あそこを直接まさぐり始める。
 くちゅ…くちゅ…
 すぅっ、と茜の瞳に潤みが差したと思った瞬間、茜の指の触っている所からも水音がし始めた。触り始めてから数秒しか経っていないのに。
 ちゅぷ、ちゅぷっ。ちゅぷ…
 それを誤魔化そうとしているのか、茜は再びアレをくわえこんでかなりの勢いで頭を振り始めた。あたたかな茜の口腔に締め付けられて、ジーンとした快感が駆け巡る。
 ぐちゅ、ぐちゅ…ぐちゅっ
 だが頭の動きを大きくすると、自然に指の方の動きも大きくなってしまうようだった。茜のあそこからは、粘っこい水音がフェラの音に負けないくらいの大きさで聞こえてくる。見なくても、茜がどれほど興奮しているのかよくわかる。
「…よし。茜、ベッドの上に来いよ」
 …ちゅぽん。
「っ…はい」
 俺が言うと、茜は口からアレを出してうなずいた。そして指をあそこから抜いて、下を向きながら息を整え始める。
 その間に俺は腰掛けていたベッドに上がって、ズボンとトランクスを全部脱いだ。Tシャツは、茜にしてもらう前から脱いでいる。
 きゅっ。
 脱ぎ終わった服を畳んでベッドの隅に放ると、スプリングの音を立てて茜もベッドの上に上がってきた。茜はそのまま手と膝で歩いて、いつも枕を置いている辺りに顔を持って行く。尻は、俺の方を向いている。
「よし、いくぞ」
「はい…浩平…」
 茜はうわずった声で答えたが、すぐに脚を開いて俺の挿入を求める。後ろの方から見る茜の恥丘の膨らみからは、はっきりわかるほどに透明な液体が垂れて太股に到達しそうになっていた。
 さらさらの長い髪が白い背中の上に流れているのを見ていると、それだけで茜は美しいと思える。しかし、少し目を下にやれば興奮した性器が目に入ってくるのだ。いつ見ても、このコントラストは魅力的だった。
「こ、浩平…はやく…ください…」
 茜がさらに求める言葉を口にする。
 それが引き金になって、俺は勢い良く茜の上に覆いかぶさり、アレを濡れまくった茜のあそこにあてがった。
「あ…」
 小さく息をのむ茜の中に、ずぶりと突き刺す。
「あっ…はぁっ!」
 俺はぬるんとした茜のあそこの中を一気に突き抜けて、一番奥を思いっきり叩いた。茜が詰まった息を吐いて、それからぎゅぎゅぅっと強烈な締め付けが返ってくる。
 じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ。
「あっ…ああーっ…浩平っ!」
 一定の間隔をおいて突き続けると、茜はあられもない声を上げて反応した。顔を真正面から少し上に向けて反らしながら、ぷるっぷるっと震えているのがよくわかる。
 じゅぽじゅぽ…じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ。
「ああっ、浩平っ…中が…当たって…」
 茜も、ぐいっぐいっとダイナミックな腰の動きで俺に応え始めた。俺は茜の動きに合わせて腰を突きだし、さらに激しく茜の奥を叩くようにする。
「どうだ、茜…感じるか?」
「か、感じますっ…」
「気持ちいいんだな? 後ろから入れられて」
「は、はい…後ろから入れられて、浩平のが入ってきて、気持ちいいんですっ…」
「クリをいじるのとどっちが気持ちいい?」
「そ、それは…両方、好きです…」
 茜は臆面もなく俺に求めてきた。俺はすぐさま結合部分に近い辺りに手を回し、茜の秘裂の中に収まったクリトリスを激しく潰してやる。
「はぅっ、ふあああっ…ああ…」
 ビクっという痙攣を返しながら、茜は意味を成さない言葉を発した。
 じゅぽ、じゅぽ…くりゅっ、くりゅっ…
「んっ…あああっ…浩平…そんなにっ…」
 茜は全身をくねらせるようにして悶えながらも、腰を振る動きを再開する。俺は秘裂にはさまれた指でバイブレーションを加えながら、腰も出来る限りの強さで動かした。茜の中は死ぬほど強く締め付けてきて、ぬるぬるして熱い。さっきのフェラの後にこの刺激は少々強すぎたが、茜も自分の指と俺の指によるクリトリス刺激でかなり快感を加速されているようだ。
「ダ、ダメですっ…そんなにしたら、もう…」
「早過ぎるぞ、茜」
 俺自身も限界に近かったのだが、それを隠して俺は言った。茜も、そう言いながら腰の動きを一向に止めようとしなかった。
「こ、浩平がっ…」
「茜はいやらしいな」
「こ、浩平だからっ…浩平だから、ですっ…」
 茜の声がかすれてきている。俺は思いきって茜の腰をつかむ手を離し、茜の乳房をぐっと手でつかんだ。
「あっ…はあっ!」
 ぐいぐいと揉みしだくと、茜は感極まった声を出して腰をがくがくと振った。クリと胸をいじっている状態から俺が下手に腰を動かすと抜けてしまいそうだったので、俺は茜の動きに全てを委ねて茜の性感帯をぐにぐにと刺激し続ける。
「あ、ああーっ…ああっ!」
 茜のあそこが、最高の締め付けをしてきた。俺の耐性は完全に崩壊する。最後に、茜の胸を潰れるほどに強くぎゅっとつかむ。
 びゅぷっ!
 ビクンッ!
 茜が全身を跳ね上がらせた瞬間、アレから精液が茜の中にほとばしった。
 びゅっ、びゅる、びゅ…
 ビクッ、ビクッ、ビク…
 俺と茜は、全く同じ脈動を行いながら絶頂していた。俺の精液がたっぷりと吐き出されていくのを決して逃さないといった感じで、茜の中が締め付けてくる。俺は胸とクリに弱い刺激を与え続けて、その締め付けをさらに長引かせる。
「こ…浩平…気持ちよかったです…」
「俺もだ」
 性感帯を刺激し続けているせいか、茜の体はまだかすかな痙攣を見せていた。
 これほどに茜が求めてくるようになったのも、茜と俺が共にいる時間が長くなったからだ。
 一回きりの契りでない、エンドレスの交わりが一回きりの契りよりも価値がないという事はないだろう。そういう意味のない禁欲よりも、ただ交わり続ける事の方が今の俺にとってはよほど綺麗な物に映っていた。
「浩平」
「茜」
 呼び交わし合いながら、俺と茜は西日の中でずっとつながったままだった。



10/26
『………』
 沈黙。
「…だ、だめ?」
 郁未が下を向きながらぼそぼそと言う。
「だ、だめっていうか、それは郁未さんの誕生日なんですし、普段からの感謝を込めたいとは思っていますけど」
「そ、そうね」
 晴香と由依が、それぞれに顔を見合わせながら何回もうなずいた。
「郁未さんのびぼーがあるからこそ、郁未さんが一人でやっているお店がうまくいっているんですし」
「そうそう、郁未がいなかったら、私たちはすぐに路頭に迷っちゃうわよね」
「………」
 半分だけ顔を上げた郁未が、晴香と由依の顔を交互に見る。
「こういう風にみんなで暮らせるようになったのも、郁未さんが言ってくださったからですし」
「うん、私と由依が学校行っているのに、郁未ばっかり働かせて、それで郁未の言うことを嫌だなんて言えないわよね」
「…私は自分から学校やめただけだし…」
 郁未はまたぼそぼそ声で言った。
「と、とにかくぅっ、郁未さんの言うことに反対なんてしませんよ」
「そう、そうそう、由依の言うとおり」
 由依と晴香はそう言って、郁未の事を笑顔で見つめて、椅子から一歩も動かなかった。
「…嫌ならいいわよ」
「そ、そんな事っ、一言も言ってないじゃないですか…」
「言ってない、言ってないわよ」
 二人して手の平を左右に振りながら、由依と晴香は否定する。
「…表情と行動見ていると、すっごい嫌だって言っているみたいな気がする…」
「そ、そうじゃなくて…ただ…」
「あ、合図とかなかったからよ」
「そう、そうです、やっぱり急に言われてもなかなか始められませんし」
「…合図したらするの?」
『そ、それは…』
 一瞬会話がハモって、
「し、します」
「する、するから郁未、そんな顔もうしないの」
 二人は慌てて躊躇を打ち消し、郁未の次の言葉を固唾を飲んで見守る。
「…じゃあ。晴香がそこに寝転がって、由依が上に乗って」
 郁未が灰色の絨毯が敷いてある床を指さした。
「え、私…」
「由依が…」
「…うん」
 郁未はテーブルの上に頬杖をついて、黙り込む。
 二人はそのまま郁未のことをうかがっていたが、それ以上の郁未の言葉がない事がわかると、おずおずと椅子を引いて立ち上がった。椅子の脚が絨毯を擦るかすれた音が妙によそよそしく響く。晴香と由依、それぞれの「予想が裏切られた」という思いを暗に示しているようだった。
 そして郁未の真横にあたる位置まで二人は移動すると、晴香がスカートを気にしながら絨毯の上に座り体を伸ばして寝転がる。豊かな波打つ髪が布団のように晴香の体を支える。
「由依は、晴香の膝の辺りに座って」
「は、はい」
 郁未の声に、由依は晴香と同じくスカートを気にしながら、組体操でもしているかのような機械的な動きで晴香の脚の上にまたがる。小柄な由依の体は、晴香の体を組み伏せるような位置にあっても全く威圧的でなかった。
「じゃあ由依、晴香のスカートに手を入れて」
「…はい」
 横目の郁未の命令に、由依は唇を結んでやや緊張した素振りを見せた。そして少しずつ体を倒し、手を晴香のふくらはぎの辺りから段々と滑らせていく。
「………」
 晴香は由依の手の動きを最初見つめていたが、スカートの裾のあたりまで来るとそれとなく顔をそらせてしまった。郁未と逆の方だ。その晴香にも、ついに手をスカートの陰の中に入り込ませた由依にも、郁未はまんべんない視線を送っている。
 由依は手が奥に侵入していくのに合わせて体を前傾させ、それでも足りなくなるとずりずりと体全体を前に動かしていった。やがて、晴香の表情がピクッと動く。
「…由依、そこで、指を動かして」
「このまま…ですか?」
「そう。生地を食い込ませるくらいの感じで」
「ちょ、ちょ…」
 晴香が何か言いたそうに郁未に視線をやる。
「んっ…」
 が、スカートの中からこしゅこしゅという乾いた音が響き始めるとまた郁未とは逆の方に視線を向けてしまった。
「もっと強く、速く」
「はい…」
 由依がさらに体を前にずらし、手を奥深くに突っ込む。こしゅこしゅっ、くしゅっという音はより低くくぐもった音になり、その代わり音と音の間隔はさらに短くなった。郁未が料理の時に手際よくミジン切りをしている時のような、あるいはそれよりも速いかも知れないペースだ。由依の小さな指がかなりの高速で動いているのは間違いない。
「晴香、下着の生地が食い込んでいるのが感じられる?」
「えっ…なんで…」
「質問にははっきりと答えて」
 郁未は言い切る。
「うっ…うん」
 晴香は戸惑いつつも、それを肯定した。
「由依、変化があったら全部それを言うのよ」
「へ、変化…ですかぁ…?」
「そう。変化」
「は…はい」
 由依はなんだかよくわからなさそうな顔をしながら、それでも指の速い動きを止めずに言う。
 そのまま、数十秒ほども経ったところで晴香が眉をすこししかめた。
「晴香、どうしたの?」
「あ、あの…」
「さっき、言ったわよね」
「う…ぬ…濡れちゃいそう」
「そう」
 郁未はうなずいた。
「ちょ、ちょっと…下着が…」
 晴香は脚を閉じたり開いたり、せわしなく動かして郁未に訴える。しかし郁未は何も言わなかった。由依も一瞬だけ指の動きをゆるめたが、何かを感じ取ったのか再び高速に指を動かし始める。
「い、いやぁ…由依、脱がしてよ…」
 こしゅこしゅこしゅっ…
「い、いやっ…!」
 晴香の声と同時に、由依が指を動かす音がぐしゅぐしゅという重い音に変わる。
「あ、あの…晴香さんの下着が、濡れてきました」
 由依は正直に言ってしまった。
「ゆ、ゆいっ…!」
「どれくらい?」
「け、けっこう」
「もっと詳しく」
「ゆ…指で押し込んでいる所だけじゃなくて、もっとその周りまで濡れちゃっています」
「や、やめてよ…由依っ…!」
「じゃあ由依、晴香のスカートをまくって」
「や、やだっ!」
 晴香は叫ぶ。しかし由依は指の動きを止めると、スカートの裾の二箇所をつかんでするするとまくり上げていった。晴香の体の下敷きになっている部分の生地はなかなかまくれなかったものの、由依は前半分を中心に思い切り晴香のスカートをめくり上げてしまった。
「いやあああ…」
 晴香自身からは見えない所で、晴香の下着がどうなっているのかが由依と郁未の視線に晒される。淡い紫をした装飾のあまりないショーツは、由依の表現した通りの部分が濃い紫色に変色してしまっていた。
「舐めて、由依」
「え…? どこを」
「そこよ」
 郁未がすっと指さしたのは、由依がついさっきまで指で刺激していた部分だった。
「わ、わかりました」
 由依はスカートを持ち上げたまま、顔だけを思い切り突きだして下着に覆われた晴香の脚の付け根の部分へと唇を押しつける。
「ひっ…」
 晴香が、脚をぎゅっと閉じた。
 ぐしゅるっ…しゅぐっ…
 粘液に染みたショーツのざらざらした生地を、由依は赤い小さな舌でこすり上げるような強さで舐めた。晴香の秘裂の形状に合わせてショーツが食い込み、そのへこみに舌をすっぽりと入れるようにしてぐりぐりと由依の舌が動かされる。
「いやあ…そんなのって…ないっ…」
 晴香は力無く言うと、最初は強く閉じていた脚を少しずつ開いていった。筋肉が弛緩してしまったらしい。さっきの指の動きよりも刺激自体は格段に少ないはずなのに、晴香は明らかに反応を大きくしていた。
「んっ…んぅぅ…」
 由依はさらに量を増やしてきた酸っぱい液体を、生地に染みた中からじゅうじゅうと吸うようにして舐め取る。
「由依。一度ストップ。スカートをもっとまくって」
「…っ…は、はい」
 段々自分自身の目もとろけそうな色になってきていた由依が、はっと顔を上げた。
 そしてスカートをまくっていく。弛緩しきった晴香は、スカート全体がまくり上げられていくのに全く抵抗をしなかった。
「その、すその部分を晴香にくわえさせるの」
 限界までまくり上げ、晴香の鼻の辺りまでスカートが来たとき、郁未が言う。
「は、はぁ…」
 由依はスカートの生地を動かし、晴香の口元に誘導した。
「うう…」
 晴香は抵抗せずにそれを唇ではむっとくわえこむ。同時に、晴香の目がじわっと潤んだ。
「そうしたら、また晴香のを舐めるの。これ以上ないってくらい強く」
「わ、わかりました」
 由依はするするっと体を後ろに戻して、また晴香のショーツの上に口づける。
「っ!!」
 晴香はびくんと背中をそらすように跳ね上げて、そのまま自らのウェービィ・ヘアの上にばさりと体を落とした。そしてはぁはぁという荒い息を、スカートをくわえた唇の端から漏らす。
 ぺろ、ぺろ…
 上目を使うようにして、だらしなく開けた口から小さな舌をテクニカルに動かす由依の表情は、あどけないが故にますますいやらしさを際だたせていた。リボンのつけられた髪が舌の動きに合わせてさわさわと小刻みに震え、由依の内心の煩悩を表しているようにも見える。
「由依も、自分のスカートに手を入れてオナニーしなさい。下の方からじゃなくて、上から、お腹の方から手を入れて。下着の中に手を入れちゃだめよ。晴香とおんなじように、下着の上から指を当ててこするの」
「は…はい、します」
 はふっ、はふっという動物のような吐息を漏らしながら、由依は太股にぴたっと当てていた手の片方を自分の下半身に向けて動かす。
 ごそごそっ、とスカートのウェストの狭い部分にもどかしく手を通して、由依は自らの無毛の秘裂をショーツの上から激しくこすり立て始めた。
「んはぁ…」
 熱っぽい息を吐き出しながら再び晴香の下着に口をつけ、目を閉じて、んむんむと唇と舌を濃厚に使った愛撫を加える。同時に自分の秘部にも、一番好きなように刺激を加える。
「もっ、もふ…ぬれちゃひましたぁ…」
 由依は変化について、自らの体の物も忠実に報告する。
「そう。どこを触っているの?」
「く、くりひゃんにさわりたいけれど、したひのうえからひゃとどかなふて…そのひょっとへまえくらいのところをさわってひまふぅっ…」
「いい子ね」
 郁未は冷静な表情を変えていなかったが、由依の返答に満足したようだった。
「晴香は?」
「だ、だめ…もう…このままじゃ、私…イ、イッちゃう」
 既に晴香も目をぎゅっと閉じ、頬を絨毯に切なそうな動きでこすりつけながら呼吸を荒くしていた。
「由依、イケそう?」
「は、はひ、らいひょうふれす」
 そう言って、由依は腰をぐんと浮かすとそれと分かるほどにスカートの中の指を強く動かし始める。
「うっ…うう…だめ…郁未…私…イクぅっ…」
「ひっ、…ひきまふぅっっ!!」
 二人の声が重なり、由依が唇と指を同時にぎゅぎゅぅっと押し込んだ。
 …ビクッ…ビク、ビクンッ、ビクッ
 由依と晴香の体は、同時に勢い良く脈動し、晴香は由依の体を跳ね上げそうな勢いで背中をぐいぐいと反らした。由依も、突き上げたヒップをビクビクと痙攣させながら鼻先を晴香の秘裂の中に押し込もうとする。
 …がくっ。
 そして、由依は糸が切れたように晴香の下半身の上に倒れ込み、晴香もやがて痙攣を止めた。
「ありがとう…二人とも」
 郁未の声に、由依と晴香は返事をする事ができなかった。郁未以外の女性の体を感じたのは、お互いにとって初めての経験なのだ。レズビアンラブには既に熟練してしまっていたはずの二人だが、なぜか背徳感のようなものを強烈に感じていた。
「私、部屋に戻るけれど…今晩は、部屋に入ってこないでくれる? お願いね」
 椅子から立ち上がった郁未は、もう一度食い入るように折り重なった二人の事を見つめた。
「それじゃあ…おやすみなさい」



10/21
(レアキャラを探す旅は尽きませんねヽ(´ー`)ノ)
「いっ…いやっ!!」
 美和子が身体を後ろに引く。
 …どっ。
「あ、あ、あっ…」
 そのままクリアケースを抱えて逃げようとするが、美和子はあまりの動揺のために足を自分の足に引っかけてしまった。尻もちを突く形で床に転がり、
 ばさっ…ばさばさっ
 はずみで床に落っこちたクリアケースから、クリップやホチキスで留められた書類がばらばらと散らばった。反射的に、美和子はそれを拾い集めようとしてしまう。生真面目な性格がさせた一瞬の行動だ。
 たっ。
 美和子の顔のすぐ前に、上履きが床を踏む乾いた音が叩きつけられる。
「…ひっ」
 顔を上げ、冷たい月島の目を見つめ、美和子は恐れを口にした。背後は壁。右も左も壁。生徒会室の隅に完全に追い込まれている。
「駄目だね。判断に迷いがあるから失敗する。直感で動かなくちゃいけない時もある」
 コツ、と革靴のような音を立てながら月島がさらに一歩を踏み出す。履いているのはただの上履きのはずだが、そういう音を立てるような歩き方があるのだ。もちろん、それは月島の醸し出す威圧的な雰囲気がなければ成立しない音なのだろう。普段の柔和な様子から豹変した表情、低い声、適度に勿体ぶった仕草。とても美和子には真似できないような代物だ。
「学校の勉強だけでは不十分な事もあるわけだ。長瀬先生は良い事を言うよ。君達も今教わっているだろう? 僕も去年は長瀬先生の授業だったからね」
「………」
 世間話のような会話が、何かの呪文のように美和子の身体を呪縛していく。
「桂木さんも、学年で1番を取るだけで満足していちゃいけない。それに現代文の成績は他に比べれば今ひとつ芳しくない。桂木さんにも、もっと瑞々しい感性が必要だと僕は思う。その点で言えば、吉田さんは優秀だ」
「………由紀ちゃん…ですか…?」
 突然出てきた生徒会のメンバーの名に、美和子は小さい声で問い返した。
「他の教科は今ひとつでも、国語の授業では良い成績を残している。いつも生徒会の仕事ばかりしていて、勉強はあまりしていないようだけれどね。なぜだと思う?」
「え…あ…あ…か、感性ですか?」
「そうだね。桂木さんも、記憶力を生かしたオウム返しは一流だ」
「あ、は、はい…すいません」
 美和子は思わず謝っていた。
「そう、そうやって人に逆らわないのも桂木さんの特技だね」
「………」
「自分がどうしたら人が反応するのかをよくわきまえている。例えばこの三つ編み…」
「あ…!」
 月島は手を伸ばして、美和子の髪を無遠慮に撫でる。
「時代遅れだと自分でも思っているんだろうけど、こういうイメージが先生や家族に喜ばれる事をよく知っている。クラスメイトからも、特に良くも悪くも思われない、ただの地味な女の子で済ましてもらえる事を知っている」
「べ、別に、そんなつもりじゃっ…!」
「僕はこの学校で…いや、知っている高校生で、君以外にこんな髪型にしている子を見たことはないよ」
「こ、こうすると髪の毛が伸びても楽だし、切るときにもあまり気にしなくていいんですっ!」
「早いうちにお母さんをなくして、お父さんも実家の方からの借金が大変らしいね」
「………!!」
「地域社会というのは狭い物だよ。本当にうんざりするくらいにね」
「…そっ…それでっ…」
 美和子の声が震え始めていた。
「それで、私に何をしようと言うんですか…!?」
 最初の、部屋の隅に追い込まれた時の動揺とは違う、歯がみしたくなるような震えだ。普段はほとんど出さない感情を剥き出しにして、美和子は月島の顔をにらみつけていた。同情を買うことには慣れている。同情だけで、実質的な支援を何もしてもらえない事にも慣れている。今の世の中とはそういう物だと、小学生の時から美和子は自分に言い聞かせてきたものだ。
 しかし、面と向かって自分の不幸を口にされると言う屈辱を味わったのは生まれて初めてだった。
「そう怖い顔をするもんじゃないよ。僕は桂木さんにプレゼントをしようというだけなんだから」
「プ、プレゼント…?」
「そう。桂木さんの感性を育てるためのプレゼントだ」
「い、要りません、そんな物」
 美和子は警戒をゆるめずに言う。月島が最初に制服の胸の辺りに触れてきたショックが、未だに美和子を支配していた。感性、プレゼント、聞けば聞くほどに胡散臭い。一度生まれた猜疑心は消える事はなかった。
「わ、私、帰ります!」
 いつでも叫び出せるような心構えをしながら、美和子は床に散らばった書類をまた集め始めようとする。生徒会室は音楽関係以外の文化部の部室の並びにあって、人がいる割にはいつも静かな所だ。そこに女の叫び声がこだますれば、何事かと皆駆けつけてくるはずだった。入り口のドアは閉まっているし、カーテンも閉じたままだが、鍵が掛かっていないのは間違いない。美和子はちょうど今、職員室に鍵を取りに行こうとしていた所なのだから。月島が無理な行動に出るのはまず不可能なはずだ。
「………」
 美和子が紙を拾い集めて、とん、とんと音を立てながら揃えているのを月島は平然とした顔つきで見守っていた。
 それをクリアケースに入れ直し、プラスチックの留め具をきちんと掛け、小脇に抱える。そして、ぱんぱんとスカートを払う。
「鍵、取ってきます」
 美和子は立ち上がり、ありたけの冷たさをにじませて月島をにらみ上げた。
「プレゼントは、結構です」
 ひとつひとつ区切ったような、拒絶の言葉。
 何をしても上手くこなすこの生徒会長に対して、美和子は普段から気後れする物を感じていた。人当たりも良く、勉強もスポーツも一流、生徒会の仕事も無難にこなす。
 その月島を、裕福な人間だという事で憎むことができるとは美和子も思っていなかった。美和子はどこかカタルシスにも似た感情を覚え、今度は皮肉っぽい目で月島の事を見つめる。
『………』
 美和子は、色々と言われたぶんと同じくらいの時間、そうやって月島を軽蔑しているつもりだった。
 ……
 ………
 ちりっ…
「…え…?」
 ちり…ちりちり…ちりっ…
「…え…え…」
 ちりちり…ちりちり…
「…あっ…ああっ!?」
 がたっ…
 クリアケースが滑り落ちる。
 ばさ…ばささっ
 美和子がたった今拾い集めたばかりの書類が、再び床に散らばる。
 ちりちりちり…
 しかし、美和子はそれを嘆く事もせず、かと言ってまた拾い集めようともせず、全身をこわばらせていた。気丈な目が段々虚ろになり、じわじわと涙液があふれ始める。歯や指やまぶた、ありとあらゆる微細な箇所が熱に浮かされたように震え始める。
 ちりちりちり…
「あ…あ…」
 その状態は、十数秒に渡って続いた。それが過ぎると、美和子は少し表情に落ち着きを取り戻す。目の焦点が合い始め、自らの手の震えを押さえ込むようにぎゅっと拳に握る。
 こくっ…、と美和子が口の中に溜まったつばを飲み込んだ。
「な、なにをしたんですか」
 震えを何とか抑えて、美和子は月島に問う。
「言っただろう? プレゼントさ。いつも頑張っているのに恵まれない桂木さんへのプレゼントだよ」
「何の薬なんですかっ…まさか…」
「薬物なんかじゃないよ。第一、僕が桂木さんに一服盛るチャンスがどこにあったんだい? 君は持ってきているお弁当に薬物を混ぜられるほど、荷物を適当に扱っているのかな?」
「じゃ、じゃあガスみたいなもので」
「そんな物が現実にあるのかな。ま、あったとしても、それじゃあ僕まで影響を受ける事になっちゃうね。しかし、僕は見ての通り何ら変化を受けていない」
「だ、だったら」
「いい加減、自分の常識が全てだと思うのをやめにしたらどうかな? ほら」
 ちりちりちりっ…
「あっ…うああああっ…」
「ほら」
 ちりちりちりちりっ!
「い、いやああっ…やめて…やめてっ!?」
「これは僕の意志でコントロールできる。決して薬物なんかじゃないよ」
「う、うーっ、うーっ……っ」
 美和子はぽたぽたと涙を流しながら苦しみの声を漏らす。そしてしゃくり上げるような音を立てると、何か恐ろしい物を見ているような目つきで自分自身の身体を見つめ始めた。
「どうだい?」
「かっ…からだ…が…」
「もっと強くしてあげよう」
 ちりちりちり…
「いっ…や、やめて…くださいぃ…か、からだがっ…!?」
 美和子は身体を飛び上がりそうなほどにひくつかせると、次の瞬間信じられない行動に出た。
 …ずるっ…
 艶めかしい肌が生徒会室の空間に露出する。ふっくらとしたヴィーナスの丘が、あるべきではない所で晒される。
 ぐぐうっ…
「うはぁーっ…」
 何かに貫かれたような悲しい声が響いた。実際、美和子は貫かれたとも言える。無垢のクレヴァスを、自らの指の侵入によって。
 ちゅくちゅく…くちゅ
「んっ、んっ、んっ」
 一瞬の前までは20年前でも通用しそうな丈の長さのスカートに覆われていた部分は、完全なまでに露出され、早くも蜜液で熱く満たされつつあった。常識を逸したレベルの身体の変化である。
 美和子は、保健の教科書すら開くのを嫌がるような少女だったのだから。
「おやおや…こんな所で、桂木さんは何をしているのかな?」
 月島が美和子のおとがいを指先でくいっと持ち上げる。
「う…うっ」
 美和子は絶望と恥辱に染まった真っ赤な顔で月島の事を見つつも、指を止めることは出来なかった。その刺激によって、美和子の身体は初々しい蜜液をとどめようが無いほどに吐き出す。性に明るい少女であったとしても、これほどの反応を示すことなど普通はないはずだ。明らかに、美和子の身体は異常をきたしていた。だが異常をきたしているという事を認識しても、淫乱に振る舞う自分の指を秘部から離す事はできない。身体の奥からにじみ出す粘液を止めることも出来ない。
 そのあふれかえるような液体を美和子は何とか手の平で受け止めようとしたが、時間稼ぎにしかならなかった。たらり、たらりと指の隙間からこぼれ落ちた蜜液が、飾り気のない小学生の履くような木綿のショーツの上に次々とシミを作っていく。
 それを嫌がって美和子は腰を動かそうとしたが、根本的な解決にはなっていなかった。制服のスカートに掛かろうと、安売りしていた白の靴下に掛かろうと、上履きに掛かろうと、はたまた生徒会室の床に水たまりを作ろうと――そうすれば、当然書類もびしょびしょに濡れていく――、その雫の全てが美和子の築いてきた何かを崩していっているのは間違いない。
「さっきまでの元気はどこに行ったんだい?」
「はんっ…はああっ…!」
 月島の言葉に答える余裕など無かった。いつしか、美和子は自分の最も敏感な部分を探り当ててしまっていたのだ。性器の一部分としか思っていなかった部分が、はじけるような快感を産み出す器官だったと知るやいなや、美和子はその部分の虜になってしまう。
 固く尖り始めた部分をくりんくりんと転がすように撫でると、美和子の無免疫な身体は限界を越えた快感の流入を塞ぎ止める事ができなかった。
 月島がピン、と押さえていた美和子のおとがいを跳ね上げる。
 ちりちりっ!
「んああああっ!!」
 動物のような締まりのない声と共に、美和子がお下げ髪を壁に押しつける。そのままぐりぐりと頭を壁に押しつけて悶えた後、
 ビク、ビクッ、ビクっ、ビク…
 美和子は生まれて初めての絶頂を迎えた。
「あっ…あっ…あっ」
 一定の間隔を置いて痙攣する自らの身体を、美和子はどうすることもできなかった。ただ、その肉体的な脈動に身を任せるだけである。それがどういう意味を持っているのか、どうすればいいのか、そんな事はもう美和子にはわからなかった。ただ、これまで感じた事がないほどに美和子は純粋な快感を味わっていた。
「もう、君は逃れられない」
「ふはぁ……はぁぁっ……」
「せいぜい予習と復習に励むことだね。自分の部屋が好きな桂木さんにはお似合いじゃないかな」
「あ…はぁ…」
「あ。そうそう」
 月島は未だに絶頂の余韻にひくひくと身体を痙攣させている美和子を後目に、ズボンのポケットから財布をとりだした。
 くちっ…
「んふぅっ」
「じゃあ僕は帰るよ。後はよろしく」
 媚肉の間に差し込まれた一万円札は、美和子の蜜液に濡れて、膨らんだ敏感な突起に当たって、それでも一万円札だった。



10/8
「はぁ…はぁっ…ふはぁぁっ…」
 自分でも、何をしているのか全然わからなかった。ただ、自分が獣のような息をしているのはわかる。それが耳元に吠えかけてくるように聞こえる。今にも何かで死んでしまいそうな、でもそれがなぜ死ぬのかはわからないような、そういう気分だった。
 ぐちゅぐちゅぐちゅ…
 あそこに、固いものが当たっているのがわかる。引っかき回すように乱暴な動き方で、私のあそこを細い棒状のものが撫でている。さっきまで使っていたシャーペンの頭で、私の手が敏感な所を刺激している。止めたくても止まらない。止めようとした瞬間、全身が壊れてしまいそうな恐怖がある。だから、性器からビリビリと生まれてくる電流のように鋭い快感を止めることもできない。
 ショーツがねばねばした液体で濡れてきてしまっているのを、止めることもできなかった。下ろす暇すらなかった。日記のノートの上から、一直線にショーツの中にシャーペンをもぐらせてしまったのだ。パジャマのズボンの隙間から入り込んだのが、鋭いペン先の方でなくて本当によかった。もし針のように尖ったペン先を頭にして入れていても、私は我慢できずにそれを使っていてしまっただろうから。
「うっ…うぁっ…うああっ!」
 せめて下の方を脱いだり、部屋の鍵を掛けたりしたかったが右手の方も胸を揉んでいる。左手も右手も、私の体をまさぐっていてそれ以外の事はできない。私にできるのは椅子から立ち上がる事くらいだ。それをしても自分の惨めな様子がはっきりするだけだと思い、私は椅子に座りっぱなしで両方の手を動かしていた。
 じり…じり…じり
 頭の中でトースターのタイマーが回っているような気分だった。たっぷりと時間をかけて、脳の中が焼かれていく。そうして取ることの出来ない、「焦げ目」が刻み込まれていく。その間、じりじりじり、と何かが意地悪く摩擦しているような音が頭の中に直接聞こえてくるのだ。
 ぐちゅぐちゅ。
 でも、気持ちいいのも…確かだった。
 ぐりぐり…
「ふぅっ…くぅっ…ううっ」
 どうしても手を押しとどめらない。私の手の角度が、少しだけ上に向く。それだけで、
「あうぁっ…!」
 固くなった突起の部分にシャーペンの先が当たり、はじけるような快感が生まれた。私は耐えきれずに机に倒れ込む。シャーペンの頭が包皮の下まで入り込んでいるのに、痛みよりも快感の方が大きすぎて気にならない。
「っ…ふぅぅ…うぅ」
 ノートの上に頬を乗せて、そのすべすべとした上質紙に頬ずりする。強すぎる快感に悶えて行ったことだったが、一度始めてしまうと気持ちよさのあまり止まらなくなってしまった。
 すりっ…すり…
「う…うう」
 段々と、頬をノートに擦りつける動きと固い突起を押し込む動き、胸を無茶苦茶に揉む動きが一緒になってくる。そのたびに、ねばねばした液が外にぴゅっぴゅっと出てくるような気がした。失禁しているような羞恥感もあったが、全身が熱くなってしまって何がなんだかわからない。自分のあそこが熱いプールのようになってくるのを、ショーツどころかパジャマまで湿ってきているのを、私は呆然と感じていた。
 ショーツを脱いだらむごい事になっているだろう…月島さんに剃られてしまったせいで、二日前から私のあそこは外からの視線に100%無防備になってしまっている。
 ぐりぐりぐり…
 じりっ…じりじりっ…じり…
 突起を押し込む動きを強くすると、頭の中の焼け付く感触は不整脈のように私を襲った。
「はぁ…うはぁっ…」
 涙もよだれも止まらない。ノートが雫で汚れていくのが見える。
 じりじりじりっ!
「!!」
 気絶してしまいそうになった瞬間…何かが一線を越えてしまった事を、私は理解した。
 ぐりぐりぐりぐり…
 機械のように、私はシャーペンを押し続ける。もう自分の意志なのかコントロールされているのかも定かでない。ただ気持ちよくなりたくて、自分の手を動かしていた。
「うっ」
 びくん…
 びくん、びくん…
 頭が真っ白になって、膣が痙攣するのがわかった。
「う…あ…あはっ…あははっ…あははははははははぁぁっ…」
 自分の顔がゆるんで、笑い出していくのを、自分でも気持ち悪く思いながら止めることはできなかった。もう私のノートは濡れて使い物にならなくなっていた。



9/26
「え?先輩、なんだこれ」
「………」
 浩之は芹香の差し出した瓶を受け取りながら訊く。
「あ…ま、そりゃ疲れてるって言ったけどさ、別に大したもんじゃ…」
「…………」
「はぁ…朝か」
 こくこく。
 芹香は浩之の手の中に瓶を預けると、それを押しつけたまま手を引いてしまった。浩之は困った目で瓶を見つめながら芹香の顔をうかがう。
「……」
「えっ…」
 ぺこっ。
 小さくお辞儀をすると、芹香は小走りで駆けていった。
「用って…先輩がそんなに忙しくしてるのもあんま想像つかねーけどなぁ…」
 廊下の奥に消えていく芹香の後ろ姿を見ながら、浩之は一人つぶやく。
 そして改めて、芹香に手渡された瓶に目をやった。瓶の大きさは牛乳瓶を少しつぶして太くしたような形で、中に入っている液体もそれなりの量だった。液体の色は透明。口にコルクで栓がしてある。
 きゅぽ…
 試しに浩之はコルクを抜いてみた。そして、化学実験でもしているような手つきで瓶から匂いが漂ってくるかどうかを確かめる。
「うーん…」
 完全に無臭というわけではない。しかし、そこから漂ってくる匂いは何とも形容し難かった。強い刺激臭というわけではないので、素人考えには害がなさそうな匂いだったが…
 きゅっ。
「あれ、浩之ちゃん?そんなところでどうしたの?」
 コルクの栓を戻した時、背後からあかりの声がした。浩之が振り向くと、ちょうど教室から出てきた所といった様子のあかりの姿が目に入る。
「あ…いや、ちょっとな」
 浩之は適当に言って、瓶をカバンの中に放り込む。
「浩之ちゃんも今帰るとこ?」
「ああ」
「今日も行って大丈夫だよね」
「当然だろ。テスト前に急用ぶちこむほど俺も暇人じゃないって」
「そうだね」
 あかりがにこっと笑いながら浩之の横に並ぶ。
「しっかし、明日は厳しそうだな…教科書問題の答え丸暗記するしかねーか」
「公式を覚えておけば大丈夫だよ」
「そんなうまくいかねーって」
 と、自然に始まった会話を続けながら浩之達は階段の方に向かって歩いていった。


「はい、お待ちどうさま」
「悪ぃな」
 勉強道具が広げられたガラスのテーブル、浩之の部屋である。
 あかりは盆の上にふたつのティーカップを載せて、部屋の入り口に立っていた。浩之の方は床に座って楽そうな姿勢をしている。
「紅茶だけだけれど…」
「仕方ないって、俺がなんも用意してなかったんだから」
「なにか甘いものがあると、勉強もはかどるかもね」
「そうだな…ま、そういうのはあとで気が付くもんだって」
「そうかもね」
 あかりは盆を持って、テーブルの所まで歩いてくる。
「…あ!」
 その時、あかりが慌てた声を出した。
「あっ…きゃっ…」
「あ…バカっ」
 バランスを崩しかけるあかりを、浩之は呆れ顔で見る。床に置いてあったクッションに気づかず、足を滑らしそうになったのだ。
「きゃっ…あっ………ふぅっ…」
 あかりは、必死になって紅茶をこぼさないように体勢を整える。何とか転ばずに済んだようで、こぼれた紅茶もごくわずかのようだった。
「ったく…気をつけろよ」
「ご、ごめんね…忘れてた」
 あかりがばつの悪そうな顔になる。そして、体勢を完全に安定させようとして後ろに一歩下がった。
 どんっ。
「あっ…」
「おい…」
 がたっ…
 ごんっ。ばしゃあっ!
「あっ…あああっ」
「…バカか、お前は」
 浩之は苦笑いをしながら立ち上がる。
 あかりがぶつかったのは黒い棚だった。その拍子に、棚の上に置いておいた瓶が落っこちてきたのだ。瓶はテーブルの角にぶつかって跳ね返り、衝撃でコルクの栓がはずれて中身が完全にぶちまけられた。どうやら、コルクの栓を押し込むのが中途半端だったようだ。
「ど、どうしよう…これって、何だったの?」
「気にすんなって。ただの水だ。それより、お前着替えないだろ」
「うん…どうしよう」
 勉強道具には被害がなかったが、あかりのスカートの辺りは瓶の中身の液体でぐっしょりと濡れてしまっていた。スカートどころか、下着にまで染み込んでいきそうなほどの液体の量だ。床にもいくらか液体が垂れ続けていた。
 かちゃ…
 あかりはテーブルの上に紅茶の盆を置くと、自分のスカートに広がった巨大なシミを見つめた。簡単に乾きそうな状態ではない。制服ではないのが幸いだったが、いずれにしろ帰るときの服に困りそうな状態なのは間違いなかった。
「俺の服じゃ…貸しても着れないな」
「…うん」
「パジャマでも着とくか?洗濯機と乾燥機使えば、帰る事に何とか…」
 すとん。
「………?」
 浩之が洋服ダンスの方に向き直った瞬間、床に何かが落ちる音がする。
「…あかり?どうした?」
「…浩之ちゃん…」
 振り向くと、あかりはさっきの姿勢からそのまま腰を床に落としたような姿勢になっている。スカートの奥が見えてしまいそうだった。普通なら脚を固く閉じて隠そうとするのが当然であるような姿勢で、あかりはなぜか脚を少し開き気味にしたままの姿勢をとっている。
「こけたのか?早く起きろよ」
「ち、ちがうの…脚が…」
「あし?」
「う、うごかない…痺れたみたいになっていて…」
「なんだって?」
 浩之は疑いの目であかりを見つめた。だが、あかりの顔の不安極まり無さそうな表情を見ていると嘘ではなさそうに見える。元より、あかりはこんな事で嘘をつくタイプではない。
「参ったな…」
 先輩…
 浩之は心の中でつぶやいた。
 疲れを取る薬と言われて、脚に触ったときに痺れ上がってしまうような薬を渡されたのではたまったものではない。素直に信じて飲んでいたならあの世行きだったかもしれないと思うと、浩之はぞっとしないものを覚えた。
「ちょっと待ってみて、それでダメだったら何か考えるか…少しマッサージしてやるよ」
「え…あ、あ、あの…浩之ちゃん…」
 浩之があかりに近づいていくと、なぜかあかりが慌てた素振りを見せる。
「どうしたんだ?そりゃ触るとじんじんするかもしれないけど、その方が早く治るかもしれないだろ。子供みたいに痛いのが嫌だとか言ってる場合じゃねーぞ」
「ち、ちがう…の…」
 あかりは顔を真っ赤にして、詰まらせたような声になる。
「あ?他に何か痛いところでもあるのか?」
「じゃ、じゃなくっ…てっ…」
 一言一言の間に、あかりの様子は変化しているようだった。浩之はさすがに顔色を変えて、あかりの元に駆け寄る。
「おいっ!救急車呼ぶなら呼ぶぞっ!あかり、どうなんだっ…」
「い、いや…ひろ…ひろゆき…ちゃん…」
「あかりっ!!」
「へ…部屋から出ていてっ!お願いっ!浩之ちゃぁんっ!お願いぃっ!」
「…へ?」
 あかりの絶叫に、思わず浩之は間抜けな声を出していた。
「う…ううっ…いやぁぁぁ…」
「……あっ……あか…り………?」
 だが、次にあかりの取った行動によって浩之は完全に言葉を失う。
「み、見ないで…あっち…向いて…お願い…」
 あかりは、浩之の目の前で片手をスカートの中に突っ込んだのだ。
「ど、どうしたんだよ…お前」
 スカートの上からでも、あかりの手が動いているのは明らかだった。それも、かなり激しく動いている。掻きむしっているようにすら見える勢いに、浩之はあっけに取られてしまった。しばらくの間、あかりの手が潜り込んでいる辺りを呆然と見つめる。
「うっ…見ないで…恥ずかしいよぉ…浩之ちゃんっ…」
 あかりは逆の手を使って、ずり下がろうとする。しかし脚も動かない状態で、片方の手だけで体重を支えて動かすというのは無理のようだった。今のあかりはかなり無理な体勢をしているし、何より逆の手を思い切り動かしている事で意識を集中することができていない。
「あ…あっ…ああ」
 浩之はうなずいたものの、どうすればよいものかわからずに動けない。
 ちゅぐっ!
「あふぅぅぅぅっ……!」
 あかりが強く眉をしかめたかと思うと、おさげをぶんっと振ってうつむいた。
 ちゅぐちゅぐちゅぐ…
 そこからは、粘液をはじいているのが明白な音がこだまし始める。最初から瓶の液体によるちゅくちゅくという微かな音は聞こえていたが、今している音は明らかにあかり自身があふれさせてしまった液体によるものだった。
「………」
 目の前で展開される、急激な性のショーに浩之はただ戸惑っている。助けてやらなくてはならないという思いと、男としての好奇心が浩之の中ではぶつかっていた。しかしあかりが急を要するほど苦しんでいないように見えることが浩之に安心感を与えてしまっている。最初に、苦しんでいると思って拍子抜けしたせいもあるかもしれない。
「おっ…お願いだから、あっち向いていてよぉ…こんな所、私浩之ちゃんに見られたくない…お願いぃ…」
「なぁ、あかり、お前今気持ちいいのか…?」
「や、やだ…そんなの…」
「今している音って、あかりの中から出てきたぬるぬるだよな…」
「ち…ちが…そんなこと言わないで…」
 あかりは目からぽろぽろと涙をこぼしていた。だが手の動きを止めることは全く出来ていない。むしろスピードと大胆さに拍車がかかってきているようにも見えた。
「うっ…うううう」
 浩之が痴態を見つめる視線をそらさない事にさらなる涙をこぼしながらも、あかりはどんどん行為のピッチを強めていった。既に愛液だけでもショーツの外にあふれてスカート自体を濡らしてしまっているほどだ。いやらしい音を立てる水音は、さらに高く大きくなっていった。
「ああっ…ああーっ」
 しかし、しばらく時間が経ってもあかりは全く解放される様子はない。何かを必死で求めるような顔で指を繰り続けていたが、それに終わりが来ることはなかった。
「…浩之ちゃん」
「なんだ?」
 浩之は自分の声がかすれていたのに気づいたが、言い直すこともなくあかりを見つめる。
「このままじゃ、だめみたい…中の方が熱くって、じんじんしてて……すごい、中に欲しいみたい…」
 あかりはいよいよ顔を真紅に染め、うつむいて顔を隠してしまった。これまで全く交渉のなかった二人の間に、突然絆を求めているのだから当然だろう。
「……いいのか?」
 浩之は訊く。
 正直、あかりと恋人関係になると言うことについて浩之は真剣に考えたことがなかった。それが、突然のハプニングによってもたらされたのである。しかも肉体と肉体が先に求め合っているという状況。無論浩之のペニスは先程から固く勃起してズボンを突き上げていた。
「い、いいよ…浩之ちゃんなら私…それに、もう身体がおかしくなりそうで…」
「…いいって、聞いたからな。もう嫌だって言っても無駄だぞ」
 浩之は自分に言い聞かせるように言う。ここで躊躇をしては、境界線を越える機会が一生なくなるような直感を感じていたのだ。あかりへの恋心を見つめ直すといった事を何もかもすっ飛ばして、ただ一歩踏み出すべきだと非理性が叫んでいた。
 かち…かちゃっ、かち。
 しっとりと濡れた感触のスカートをつかみ、そのホックを外す。
 ぐちゅぐちゅ…
 浩之の目の前に、ショーツの中であかりの手が水音を立てながら蠢いている様子がありありと示された。スカートの上からと違って、あかりの手の形すらわかるような状態である。しかもショーツの生地は水の中に浸したように濡れていた。その濡れた生地が、あかりの手の動きに合わせて変形する。
「………」
 あかりは固く目を閉じている。指は止められないようだったが、それを浩之に見られているのを自らの目で確認するのはあまりに忍びないようだ。
 くちゅ…
 浩之は端を触っただけで濡れた音がするショーツをつかんで、一気にべろっと下まで引きずり下ろした。
「…ああっ…!」
 さすがにあかりは声を出す。
 浩之は興奮がこらえようもないほど膨らんでくるのを感じつつ、あかりの性器の様子を確認した。恥毛はあまり生えていない。そのために秘裂が見えやすく、そこにはあかりの指が侵入して奔放に動き回っていた。秘裂の外にも、そこかしこによだれを垂らしたような透明な液が伝っている。時折のぞくあかりの性器の中は、ぬらっとした光を帯びたピンク色だった。
 浩之はそこをじっくりと観察したいという欲望にかられたが、それを押さえ込んで心を落ち着ける。そして、自らのズボンを下ろし、トランクスを下ろして自分のペニスを露出させた。痛いほどに勃起していたそれは、浩之があかりの身体の上に乗る体勢になるとちょうどあかりの秘裂の辺りに宛われる状態になる。
「あかり、少しだけガマンして指止めろ。そしたらすぐに入れるから、痛くても我慢してくれよ」
 …くちゅ。
 あかりは浩之の声に、指の動きを止める。そして中から指を出して、寝たまま気をつけをしているような姿勢になった。
 はぁっはぁっという荒い息は、押さえきれない欲望を表しているようである。あかりの中に、これほどの欲望が眠っていたのかと驚くほどだ。
 ちゅぱ…
 しかし浩之はそれを観察する暇も惜しんで、秘裂を指で左右に開いた。ねっとりとした感触がして、あかりの粘膜が露わになる。あかりが悶えながら触り立てていたとおぼしきクリトリスは、童貞の浩之にも一瞬で分かるほどにぷくっと膨らんで、光沢を帯びたピンク色になっていた。
 その中の、、透明な液体をはしたなく吐き出し続けているヴァギナを確認して、浩之はあかりの顔を見る。
 目を閉じた切なそうな表情は何をも語っていなかったが、浩之はそれによって覚悟を決めた。
 ちゅぐ…
「あぅっ!」
 浩之が先端をうずめようとしただけで、あかりは身体を跳ね上げる。
 ちゅぐっ…ぐぢゅ…
「ひあっ!うわああっ…!」
 浩之のペニスは、あかりの中を少しずつ押し開いていった。完全に未開通の部分である。あかりは破瓜の痛みを味わっているはずだった。
 しかし、ぴくぴくと身体を震わせながら顔を左右にふるふる振っている様子を見る限りではあかりの反応の主たる原因は快感の充足にあるように思われてしまう。おさげが乱れかけているのを、浩之は妙に興奮して受け止めてしまった。
 ぐぢゅ…ぐぢゅ!
「んっ!ううっ」
 一番奥までペニスが達すると、あかりはびくっと身体を震わせて、それから多少反応を穏やかにした。
「痛いだろ…」
「う、ううん…そんなに」
 これだけ愛液が豊富では、感じる痛みも半減するのかもしれない。あかりの声には、強がりや無理といったものがあまり感じられなかった。
「浩之ちゃんのが入ったら、少し落ち着いたみたい…」
 あかりは目を開いて、ふわふわした声で言う。
「そっか。良かったな」
 ぢゅぐ、ぢゅぐ…
「ああああっ…!」
 だが浩之が腰を動かし始めると、あかりはまた甘い声を出す。
「あんま落ち着いてねーな」
「う、動いちゃったらこうなるよ…ああっ」
 ぢゅぐぢゅぐっ…ぢゅぐぢゅぐっ…
「だ、だめ…強く動いちゃうと…だめぇ」
 あかりは浩之が突き出す度に、身体をビクビクと震わせた。敏感になった身体は、そう簡単には収まらないようだ。
 浩之はぬめぬめとした粘膜の中で抽送を行うことの快感に、ただ酔いしれて腰を動かし続ける。どう考えても、初体験同士でこれほどの快感を互いに感じられることはないだろう。得をしたような、何か騙されてような妙な気持ちになりつつも、浩之は快感から逃れることは出来なかった。
 ぢゅぐ…ぢゅぐ…
 そのまま、数分が経過する。浩之はあかりが限界を迎えてしまうのではないかと危惧していたが、そういうことはなかった。ところがあかりが醒めてしまったかというとそういうことはなく、あかりはひっきりなしに悶えて、全身をひくつかせている。
「っ…あかり…このままじゃ」
「う…うう…わたしも」
 そして、浩之が射精感を覚え始めたと同時にあかりもヴァギナの収縮を強烈にさせ始めた。どうやら、ここに来てようやく限界を迎えそうになってきたらしい。あまりにタイミングがいい事を考えると、何かで調整を受けているのは間違いないようだ。
「………」
 一気に絶頂までの道を駆けのぼりながら、浩之はこの体験を生んだ薬とその主の事を脳裏に浮かべる。そうするとなんだか可笑(おか)しくなった。
「いくぞっ…」
「う、うああ…私っ…ひぁっ!」
 ずるっ…
 びゅく、びゅく、びゅくっ!
「う…あ…あっ」
 絶頂し、全身をビクンビクンと跳ね上がらせるあかりの上に放物線を描いた精液が降りかかっていく。あっという間にあかりの太股から胸にかけては白っぽい液体でいっぱいになり、一部はあかりの顔の辺りにまで達していた。
「…っ…ひ…っ…浩之…っ…ちゃん…っ…」
 途切れ途切れに、あかりがつぶやく。
「は…はは…俺達、しちゃったんだな」
 浩之は未だ吐き出されている精液で汚れていくあかりをぼんやりと見つめながら、言った。
「っ…そうだ…っ…ねっ…っ…」
 あかりは複雑な表情を浮かべつつも、笑む。激烈な絶頂からはまだ解放されていないようだった。


「あ、先輩」
「…………」
 芹香が、おずおずと浩之に寄ってくる。
「え?飲んだかって?あーそうだな、飲んでみたよ。なんともないみたいだったけどな」
「…、………」
 一瞬表情を変えると、芹香はくるっと背を向ける。そして、昨日と同じように廊下を小走りで駆けていった。
「え?先輩…おーい」
 呆然として廊下に立ちつくして、浩之は芹香を見送る。
「浩之ちゃん、先生来たよー」
 あかりの声。
「あ、ああ…」
 先輩が二日連続で急用抱えているなんていったら、前代未聞だな…
 そんな事を思いながら、浩之は教室の中に入っていった。



9/19
「よし、じゃあ商店街寄ってくか?」
「…え」
 栞がぴくんと身体を震わせて、立ち止まる。
「別に、いつもの話だろ」
「そ、それは…そうですけれど…」
 つないだ手を引っ張ろうとする祐一に、栞はうつむいたまま抵抗した。商店街の入り口の方をちらちらとうかがいながら、左の手の指をもじもじとすりあわせる。
「ひ、人が」
「そりゃ土曜だからな」
 商店街は、学校帰りの学生があちこちにたむろして賑やかだった。祐一と栞のように、手をつないで歩く恋人同士の姿もちらほらと見受けられる。祐一と栞がそこを歩いていても、何ら不思議はないだろう。
「だ、だったら祐一さん…」
 だが、栞は祐一の手を引っ張り、道をそのまままっすぐに進んでいこうとする。
「なんだよ」
 祐一は動かずに、ちょっとした笑みを浮かべながら栞の事を見ていた。栞はもっと力を込めて祐一の事を引っ張ろうとするが、祐一は動かない。
「祐一さん…」
 二人の様子は子供っぽかったが、栞の瞳は困惑の色を浮かべた落ち着かないものになってきていた。段々と冗談ではなく、本気で祐一の事を引っ張るような力になってくる。
「い、行きましょうよ」
「アイスは食べたくないのか?」
「食べたい…ですけど、別の所でもいいじゃないですか」
「いつもはここがいいとかあそこがいいとかこだわる癖に…」
「祐一さんっ〜」
 栞は少し膨れたが、そこには多少の紅が見て取れた。栞の透明感すら感じさせる白い頬を知っていれば、普段との差異は簡単に分かるはずである。もちろん祐一も気づいていたが、それを気遣うような言葉はなかった。
 いや、むしろ…
 カチ。
「あっ」
 ぶぅぅん…
「い、いやっ…ダ、ダメですっ!こんなところでっ…!」
 栞は叫び上がりそうな声を必死に押さえて、自分のお腹の辺りを手で押さえる。
「行くか」
 その、力が抜けた瞬間を見計らって祐一が栞の手を引っ張った。栞はバランスを崩して、ふらっと祐一の方に引っ張られていく。
「そ、そんな」
  商店街の中に入ると、すぐに祐一と栞は人混みの中に混じっていった。栞はぐぐぐっと祐一の手を握りしめながら、うつむく。しかし、かえって不自然であることに気が付くとまた顔を上げて、精一杯の平然を装っていた。
「も、もし気づかれたら…」
「そんな小さい音で気づかれやしないって。周りがこれだけうるさいんだから」
「でも…」
 栞は多少内股気味に、雑踏の中を一歩一歩と歩いていく。一度商店街のモザイクタイルの上に足を踏み入れてしまうと、もう戻れないようだった。今方向転換しようとしたなら、栞はかなり不自然な動きをしてしまうことだろう。それで転んだりしたなら、一巻の終わりである。今の栞には、まっすぐに進んでいくのが精一杯だった。
「い、いやです…だ、だめ…」
 だが、次第に栞はまっすぐ歩くのすらおぼつかなくなってくる。その理由は、祐一が右手をポケットの中に突っ込んでいるのを見ればおおよそ察しは付くと言えるだろう。注意すれば聞こえるはずの鈍い振動音は、商店街に入った時に比べてだいぶ大きくなってきていた。
「こ、このままじゃ私…」
「どうなる?」
「そんな事言う人嫌いです…あ…あぅぅぅぅっ…」
 栞が歩きながら、眉をしかめる。栞の中から聞こえてくる音は、少し近づければ分かるほどに大きいものになってきていた。それでも、周りの学生達はおしゃべりやショッピングに余念がなく、祐一や栞のことなどまるで気にしていないようだ。
「あ…!あ…、あ…!」
 とは言え、ますます感じる振動が強くなっていく栞自身はそうも言っていられない。横を通り過ぎる学生服の中学生が、数人で歩いている近くの女子校の制服を着た少女達が、自分の事を注視しているように思えてならない。あるいは、自分の事を噂されているように思えてならない。
 栞は何度もスカートの上を手で押さえそうになりながら、それをぎりぎりの所でとどめていた。そんな事をしたら、ここにいる全員に栞の事を気づかれてしまう。栞は冗談抜きでそう思っていた。
「ゆ、許してください…祐一さん」
 泣き出しそうなか細い声で、栞は訴える。時折、栞は身体を小さく跳ね上がらせ始めていた。
「栞のえっちな匂いがするぞ」
「そ、そんなの嘘ですっ…」
「ほんとほんと。このままじゃ、匂いだけで栞が感じてるってばれるかもな」
「嘘ですぅっ…」
 ついに、栞は目から一粒の涙を落としてしまう。だがそれすらも性感を示す証拠となるものであるかのように、栞は涙を必死になってこらえていた。もう栞には、身体が示す反応全てを押さえ込むことしか出来なかったのだ。
「お願いです…止めてください…」
「じゃあ、その代わりに」
 祐一は栞の耳にそっと口を近づけた。周りの人間が誰も聞いていないのだから、どんなに淫靡な会話であっても耳打ちする必要性はないはずだ。どちらかと言えば、栞が耳元に吐息を吐きかけられて切ない興奮を高めてしまう事の方が主目的のように思える。
「…そんなの…」
 栞は赤い顔で呆然とつぶやく。
 ぶうううんっ…!
「わ、わかりましたっ!だから、止めてくださいっ!」
 これまでよりも一段と強い責め立て。栞はかくんと膝を折りそうになりながら、何度も頭を縦に振っていた。
 歩いている少女にそれほどの変調があっても、周りの人間は気づいていないようだった。

「お」
「祐一さん…」
 込み合ったファーストフードの店の、隅にあるテーブル。ハンバーガーのセットを前に座っていた祐一の前に、栞が戻ってくる。先ほどに比べれば表情はだいぶ落ち着いていたし、振動音もしていない。しかし栞はどこか落ち着きのない様子だった。
「座れよ」
「はい…」
 栞は殊更にスカートを気にしながら、ゆっくりと祐一の向かい側に座る。そして、手提げの鞄を祐一に差し出した。
「どれ」
 祐一は鞄の金具を外して、中を見る。
 勉強道具の入れられている一番上に、かなり大きなシミのついているショーツと、濡れそぼったピンクのローターが入っていた。それが栞の恥ずかしい液であるのは間違いない。栞の淫乱な匂いが、鞄の中にたっぷりと充満していた。さっき外で祐一が言ったのは冗談だったかも知れないが、今の鞄の中はまぎれもない栞の匂いで満ちている。
「そ、そんなに見ないでください」
「すごいぞ。ほら、こうすると糸引いてる」
 祐一が鞄の中に手を突っ込んで、そこから何かを引き上げるように指を上げる。それを、ぺろっと自分の舌で舐め取った。
「栞のえっちな味がするな」
「………」
 栞は下を向いてしまった。
 かちっ。
 祐一が鞄を閉めて栞に差し出すと、栞は少しだけ顔を上げてそれを受け取り、椅子の下に置く。
「約束だからな」
「ひどいです…」
「しなかったら、さっきのを男のトイレの中に置いて帰るからな」
「あんまり…見ないでくださいね」
 栞はそう言うと、固く閉じていた両脚を少しずつ開いていく。祐一は椅子を少し下げて、深く腰掛けた。テーブルがあまり大きくないために、そうするだけでも栞のスカートの辺りがよく見えるようになってしまう。
 すると、スカートの中から何かの灯りが漏れているのが見えてきた。栞がさらに脚を開くと、何か小さな電球のようなものがスカートの下にあるのが見えてくる。
 それは、ペンライトだった。しかし、もちろんそんな物は栞が椅子に腰掛けるまでは無かった。つまり、それは…
「ぶるぶる言わないから、いいだろ」
「こ、これだけでもきついです…」
 栞が言って、指をスカートの裾から中の方に入れていく。そうすると、さらにスカートがまくり上がり、ペンライトが栞自身の秘部に刺さっているのがはっきり見えるようになった。ローターの代わりに、栞の恥ずかしい部分を明々と照らし出す物体が挿入されていたのだ。
「よーく見えるぞ。ぐちょぐちょになってる栞のあそこが」
「…そんな事言う人嫌いですっ」
 そう言う栞の声は、もう余裕を完全に失っていた。栞の指は、もうクレヴァスの一端に触れるまでになっている。にちゃにちゃとした感触を確かめているだけで、栞の性感はぐんぐん高まっていった。
「そんな事してても、終わらないぞ」
「わかって…ます」
 栞の指がクレヴァスを割っているペンライトに絡む。そして、クレヴァスの上端とペンライトの間に空いた隙間に人差し指を差し込んでいった。
 店の中の喧噪の中に、はぁはぁという栞の熱い吐息が響いていく。祐一はそれを固唾を飲んで見守る。既に栞は周囲の視線を見失って、二人だけの空間に入り込みつつあった。
 つん。
「ひっ…」
 栞がビクンと震えて、喉を反らせるほどに頭を高く突き上げる。一瞬遅れてショートカットの髪が揺れ動いた。
「あ…ふぁ…んん」
「どうだ…ここでするオナニーは」
 祐一の声が、栞を現実の世界に引き戻す。栞は耳たぶまでかあっと熱くなったような感覚を覚えていた。
「す、すっごく恥ずかしくて…それでなんだか…」
「興奮するか?」
「か、身体が熱くなっちゃいます」
「栞、本当はいろんな人に見てもらいたいんじゃないのか?」
「ち、違いますっ…私、そんな子じゃありません…」
 言いつつも、栞は自分のクリトリスをねちっこく撫で上げ続けていた。祐一は栞の尖った花芽を見る事は出来なかったが、栞の小さな指がうねるように動き、時折粘液にきらめいているのを見るだけで栞のクリトリスがどんなに容赦ない刺激を受けているのかはすぐわかる。
「こんな事こういう店の中でしてるだけで、もう変態だよな」
「ゆ、祐一さんが言ったんです…!」
「でも、嫌がらずにして、感じまくってるだろ?やっぱり栞は元々好きなんだよ、そういうの」
「嘘です…そんなの…」
 言葉とは裏腹に、栞の指の動きはハイピッチになって露出したピンク色の突起をこれでもかと言うほどにこすっていた。手淫自体にかなり慣れているのは間違いない。あふれかえりそうになった愛液は、辛うじてペンライトによってくい止められ、わずかに椅子の上にこぼれ落ちるだけになっていた。
「あ…ふぅ…ふぅっ」
 栞が、腰をくねらせ始める。ローターによって興奮させられていた栞の性器は、もう限界を迎えてしまったようだ。栞は自分を絶頂に追い込むべく、感じすぎる部分をぐいぐいと指先で押し込んだ。
 がたっ。がたがたっ。
「!!!」
 その瞬間、栞がさっと表情を変えて身を縮める。後ろの方の席に座っていたグループが席を立ったのだ。距離は少々離れていたが、栞は指の動きを止めて硬直する。絶頂に向かうための刺激をキャンセルしようと全力で試みる。
(あ…あっ…あああぁ…!)
 しかし、止まらない。クリトリスに指が触りっぱなしになっているだけで、栞の性感は激しく膨れ上がってボーダーを突破してしまった。後戻りできないレベルに達した性感によって、栞は一瞬で持ち上げられていく。
 …ビク、ビク、ビク…
 そして栞はイッた。
「っ……っ……っ……」
 栞は瞳を思い切り閉じて、自分の反応を最小限に止めようとした。だが、身体がびくんびくんと痙攣してしまうのは避けられない。それでも、栞は何とかして喘ぎ声が出そうになるのを抑え込んでいた。痙攣も、身体が跳ね上がりそうなほどの強いものだったにも拘わらず、椅子にヒップをぴったりと押しつけて我慢する。
 見知らぬ人間の存在を感じながら絶頂を迎えているという、異常な状況に栞は背徳の極みを感じていた。
「…どうだ?オナニー好きの栞でも、ここまでスリルのあるのは初めてだろ」
 ようやくグループが立ち去ったところで、祐一が話しかけてくる。
「はぁっ…そ、そんなの別に好きじゃないです…!」
 ヒクヒクと未だに身体を震わせたまま、栞はやっと充血しきったクリトリスを自分の指から解放した。潤みきった瞳が祐一を見つめる。
「どうだか。今のだって、満足できたわけじゃないだろ」
「そ、それは…」
 栞は口ごもった。
「どうしてほしい?」
 祐一が身を乗り出して聞くと、栞の胸がきゅんと締まる。すーすーと秘部までもが空気に晒されている不思議な感覚に、栞の羞恥心はあっけなく崩壊した。
「祐一さんので…してください」
 浮かされたような栞の声に、祐一は満足げに微笑む。
「よし、これ食べたら行くぞ」
「はい…」
「家に帰って、ローターで栞が連続何回イクか実験だな」
「そんな事言う人、嫌いです」
 栞はうつむきながらも、本気で悲しそうな声で言った。



9/17
(5/25の続きかもしれない…って黎明期だなぁ)
 澪はふらふらとした足取りで、部屋の隅の折り畳み机に向かって歩いていく。スケッチブックを今にも落としそうな、おぼつかない足取りだった。しかし、秘部からのぞいている黒いマジックはしっかりと締め付けられていて、とても落ちそうにない。
「ほら、さっさと歩け」
 こくんっ…と澪は健気にうなずいたが、未だに震えている足はいつまで経ってもなかなか前に進まない。机までは澪の足でも10歩あれば十分な距離だったが、一歩一歩と踏み出す度につぅっ、とマジックを透明な液体が伝い落ちてくるような状態では10歩と言えども非常に長い距離となる。
 ぽたっ。
 半分ほどを歩いたところで、マジックの先から液体が滴(したた)り落ちた。絨毯の上に小さなシミが出来る。
 ぽた。ぽた。ぽた。
 一度垂れ始めてしまうと後は止まらなかった。澪は必死に前へと進もうとしていたが、シミとシミの間隔はどんどん狭まり、ついにはシミとシミがくっついて大きなシミを作るほどになってしまう。
「そんなにいいのか?マジックが」
 ふるふる、と澪は首を振る。振り向いた顔は、涙でくしゃくしゃになっていた。
 しかし、マジックを使うことの出来ない今の澪は何も伝えることが出来ない。立ち止まっていても、自分の下に出来るシミをどんどん大きくしていくだけだ。
 ぎゅぎゅっ、とスケッチブックを身体全体で抱え込むようにしながら、澪は再び前に進み始めた。傍目にも震えているのが分かる足で、二歩、三歩と最後のステップを歩ききる。
 ばたっ!
 最後はスケッチブックごと机の上に倒れ込んだ。
 そのまま、澪ははぁはぁと荒い息を立てていた。しかし、今の澪の体勢は机の上に手をついてヒップを後ろに思い切り突き出した姿勢に他ならない。秘部に突き立てられ、澪の愛液でべっとりと濡れたマジックがはっきりと見えていた。澪の呼吸に合わせて、マジックが微かにうねうねと動いているのが分かる。それは澪の媚肉が未だにひくついている事を如実に示していた。
 …じゅぽっ。
「!」
 後ろからマジックが引き抜かれると、澪が身体を一瞬震わせる。締め付けが強いだけに、単に引き抜かれただけでもかなり強い刺激が走ってしまうのだ。
「ほら、椅子に座れ」
 机の中に入っていた椅子が引き出され、澪の方に向けられる。澪はしばらくの間無反応だったが、やがて身体を跳ね上げるように起こし、また倒れ込むようにして小さな椅子に座り込んだ。それだけでぬちゅ、と澪の媚肉が椅子の天板に絡みつく音がする。
「じゃあやれ」
 マジックが差し出される。愛液でぬるぬるするマジックを、澪は何とか指でつかんだ。
 そのまま澪は呆然とした顔で宙の一点を見つめていたが、不意にくるっと机の方を向く。そして、スケッチブックの上にマジックの先を向けた。机に対して垂直に向けられた椅子から書くのは大変そうだったが、澪は身体全体を動かすようにしてスケッチブックの上にマジックを滑らせ始める。
 透明な液体で濡れたペン先で書かれる文字は最初のうち滲(にじ)んでいたが、すぐに黒いラインがはっきりと出た文字が書かれるようになってきた。
『えっちな気持ちになってるの』
 本当に小さな文字だったが、一文字一文字が何の文字なのかはしっかりと分かる。最初の愛液に滲んでしまった文字を、澪はわざわざ書き直したほどだ。澪は顔を真っ赤にして横からの視線をしきりに気にしていたが、さらにマジックを進める。
『だからおなにーしたいの』
 文字は震えていたが、示されている内容は一切の婉曲が無かった。書いている時にどれほど澪が恥じらいを示そうとも、後から見ればこの上なく直接的で淫靡な表現に見えてしまう。それは澪も理解しているようで、自分の書いた文字からすぐに目をそらしてしまった。そして、正面を向いて上目遣いをする。
「なんだ…」
 えぐっ…と、涙でいっぱいの瞳で澪は懇願していた。だが、すぅっと視線が細くなった瞬間、澪は慌ててマジックをスケッチブックの上に戻してしまう。そして急いで文字を書き連ねた。
『もう、あそこがべちょべちょになってるの』
『おっぱいも、くりちゃんも、かたいの』
『いまから、するの』
 それだけ立て続けに書いてしまうと、澪は空いていた左の手を自分の胸にあてがい始める。
 小ぶりの胸だが、確かに桜色の先端の部分は固くしこって尖っている。そこを澪は小さな指先でつまんだ。そのまま、上下左右に動かしたり、つまむ力を強くしたり弱くしたりの刺激を加える。
『おっぱいをさわると、じんじんするの』
 澪はマジックを走らせながら、つまんでいた指を離すと今度は指の腹で乳首を転がし始めた。澪の顔がとろんと惚けた表情になってくる。最初は左の胸だけだったが、やがて右の胸にも手を伸ばし、同じように乳首を責め立てた。
『もうがまんできないの』
『あそこを、さわるの』
 そう描写すると、澪を見つめる視線は満足そうなものになった。
 澪はつるりとした恥丘に左の手を這わせていく。覆う物がないために、濡れそぼった媚肉の様子は澪が少し脚を開くだけで露わになってしまった。
 ぎゅ。
 マジックを握る手に力が入る。さすがにそこを直視されるのは羞恥の感情を煽られてしまうようだった。しかし澪はもはや諦めたようで、躊躇する事すらなく指を媚肉の中に差し入れていく。
 ちゅく。
 はぅ…と、しどけない吐息が澪の口から漏れた。
『すごくきもちいいの』
 澪は指を少し曲げて、一直線に自分の幼い突起へと狙いを定める。外からでもわずかながら膨らみを確認できるそこは、未発達なはずの澪の性器の中で不自然なほど快感の神経を発達させていた。
 つんっ。
 少しだけつつくと、澪がかくっと首を垂れる。
 つん、つん…ころころっ。ころころ…
 細い指先が優しく転がし始めると、澪のか弱い身体は甘い性感の膨らみにあっという間に屈してしまった。澪は取りつかれたように指先で集中的にその突起をいじり始める。
「……!……!」
 じゅくっ、じゅくっと一定の間隔を置いて豊富な愛液がほとばしり出た。澪の座っている椅子にはすぐに水たまりのように愛液が広がり始める。
「右手がお留守だぞ」
 そう言われると、澪は息も絶え絶えになりながら顔を上げる。そして、右手のマジックをスケッチブックの上でぐりぐりと大きく動かし始めた。
『くりちゃんがかたくて、ぴんぴんしてて、かんじちゃうの』
『あそこからじゅっじゅっておつゆがでてるの』
 既に澪は文字を小さくするような余裕もないようだった。この上なく恥ずかしい言葉を、スケッチブックの上に大きな文字で記していく。
『またいっちゃうの』
 最後にそれを書き記すと、澪はマジックをスケッチブックの上に放り投げ、一瞬にして右手を自分の性器にあてがった。
 ぢゅく、ぢゅく…
 澪は左手で突起をこすりながら、右手の指を二本ヴァギナの中に突き刺して、ぐりぐりと膣壁の一点を撫でる。間もなく、澪は顔をぐぐーっと反らせて強烈に指を動かし始めた。
「イクんだな?」
 澪の口がぱくぱくと動いて、がくがく頭を縦に振る。きゅうっとヴァギナが収縮して自分自身の指を締め付ける。
「!!」
 澪は、反らせていた頭を一気に前の方に垂れた。
 ビクンっ…ビクンっ…
 身体をくの字に折り曲げながら、澪は絶頂を迎える。リボンのついた頭がピクピクと震えていた。お尻の辺りまで愛液の海に浸からせながら、澪は真っ白になった意識の中で強烈な快感を感じる。
 突き刺した指を引き抜くことすらせずに、澪は数分間もそのまま身体をひくつかせていた。
 びびびっ。
「………」
 理性がわずかに戻ってきたのは、何か紙を切り取るような音が聞こえてきた時だった。



9/10
『由綺、ブラ取って?』
「うっ…うん」
 由綺は耳に受話器を当てたまま、左の手だけで背中のホックを外そうとする。
「え…えっと…ちょっと…待っててね」
『焦らなくていいって。俺がちゃんと見ているんだから』
「…うん」
 冬弥が言った瞬間、由綺は背中に冬弥の視線が生まれたような感覚を覚えてしまう。実際、ベッドの上に乗った冬弥がベッドに座っている由綺の後ろに回って愛撫するというのはあり得るケースだ。
 すると不思議に指の動きもスムーズになった。「冬弥の視線」が見ているはずの光景が、網膜に浮かんでくる。うまく引っかからなかった指が紐に触れて、ホックの部分を押しつぶすようにして弄くり回していく。
 …ぷっ。
「あ…」
『取れた?』
「うん」
 かなり無理のある体勢だったにも拘わらず、由綺のミルク色のブラジャーは由綺の肌を離れて脚の上に落ちていった。
「はぁ…」
 多少疲れを覚えた由綺が、ため息を吐き出しながら太股の上に乗ったブラジャーをつまんでベッドの上に置く。
『…じゃあ』
「う、うん」
 だが、冬弥の思わせぶりな口調が受話器の向こうから聞こえてきた瞬間、由綺の身体は一気に緊張する。そうなると、疲労感が一気に身体の熱さのように感じられるようになってしまった。
『まずは、右…』
「みぎ?」
『右の…』
「あ、あっ、うん」
 由綺があわてて右手を自分の乳房の所に持って行く。受話器を持っている方の手だ。
「あ、あっ」
 ぽろっ。
 …がたっ!
「あ…」
『もしもしー?由綺ー?』
 焦って左手に持ち替えようとして、受話器が床に落っこちる。遠い声が受話器から聞こえてきた。
「ごっごめん冬弥君っ!」
『焦んなくていいって』
 転がるように床の受話器に飛びついて、床に座ったまま由綺が謝った。もちろん、誰もいない空間に向かって頭を下げている。
『由綺、深呼吸』
 はぁー…
 返事すらせずに、由綺は受話器を耳に当てたまま大きく息を吸い込む。そして吐き出す。
『もーいっかい』
 はぁー…
『で、下も脱ぐ』
 しゅる…
「………」
『………』
 由綺は息を吐き出しながら、ショーツを膝の辺りまで下げてしまった。
「え、えっと、冬弥君」
『………』
 沈黙が返ってくる。
「と、冬弥君?」
 由綺は不安そうに問いながら、ショーツをさらに下げて、足首から抜き取る。そして半分に畳んで床に置く。
「もしもし?もしもし?」
 ぺたんと床の上に正座しながら、由綺は冬弥に呼びかけた。脚に伝わってくるひやりとした冷たさが由綺の緊張感を高めていく。
「もしも…」
『胸触って』
 不意に冬弥が言い放つ。
「…うん…」
 由綺はどきどきと高鳴り始めている事がわかる自分の胸に、そっと手を添えていく。今度は自然と左手が動いて、左の胸を触っていた。
 そのまま由綺は次の冬弥の言葉を待っていたが、冬弥は何も言おうとしない。由綺はその間乳房の表面をおざなりに撫でているだけだったが、自分で判断しろと言われているのだと気づくと指の動きを強める。
「ん…」
 由綺は鼻腔からわずかに息を漏らした。
 柔らかくこねるような指の動きは、膨らみ全体を撫で上げて最後にニプルをこすりながら抜けていく。決して弱くない刺激だが、強すぎることもない。本人の一番望むレベルの愛撫だ。
『今、どうなってる?』
「さ、触ってるよ…」
『もう立ってきた?』
「す、少し…」
『本当に少し?』
「少し…もうちょっとかも…」
 由綺の声は段々うわずってきていた。
『ふぅん』
 冬弥は冷静に返事する。
「ほ、ほんとだよっ…!」
『ふぅん』
「も、もう…!」
 由綺はちょっと怒った声になりながら左手での愛撫を続ける。さっきに比べると乳房を揉み上げる動きが小さくなり、代わりにピンポイントにニプルをこする動きになってきていた。
 ピンと尖って指の刺激に敏感に反応し始めたニプルは、既に由綺に明確な快感を与え始めている。充血の度合いも十分なようだった。
『………』
 それ以上何も言わず、冬弥はまた黙り込む。由綺はニプルの勃起がもう限界に来ていることを感じつつも、愛撫を続けざるをえなかった。少し苦しげに目を細めながらも、全く指の動きのペースを落とさずに刺激し続ける。
『…そろそろか?』
「うん…」
 上がってしまった吐息を隠しきれなくなってきたところで、やっと冬弥が言ってくれた。由綺は素直にうなずき、痛々しく腫れ上がったニプルから手を離す。
『じゃ、脚開いて』
「………」
 由綺は息を少しずつ吐き出しながら、正座した脚を開く。
 そして次の言葉を待ったが、やはり冬弥は何も言わなかった。由綺はこくんと唾を飲み込みながら、左の手をヘアの間に忍ばせていく。そのまま、割れ目に沿って指を上下に動かす。
 もうかなり高ぶっていた由綺の身体は、その刺激にすぐに反応した。割れ目の奥に隠れている粘膜の神経も研ぎ澄まされ始める。それに加えて、由綺の蜜壷の入り口もゆるみ始める。
『由綺、感じてる』
「そ、そんなっ…」
 冬弥がささやくように、しかし断定的に言うと由綺の身体はあっという間に決壊した。
 じゅく…
 にじみ出るように、恥ずかしい液体が割れ目の中にとろけ出す。
「………」
 由綺は頬を真っ赤に染めながらも、自分の指を割れ目の中に侵入させた。そして粘つく液体をたっぷりと指先に絡めると、包皮の下に隠れている小さな突起に指先を触れさせる。
「……!」
『…クリ、触った』
「ち、ちが…」
『触ったでしょ?』
「…ち…ちがっ…ちが…ちがわ…ないよ…」
 ぐりぐりと指を突起に押しつけながら、由綺は認めてしまった。はぁはぁと恥ずかしいほどに息を荒げているのを聞かれては、否定のしようがない。
『由綺、クリ剥いて』
「う…」
 まだ刺激し始めたばかりの状態だったが、由綺はおとなしく冬弥の言葉に従った。潤滑液の豊富さにまかせて、クリトリスを包皮の中から剥き出しにする。中途半端な勃起を見せている、ピンク色の突起が露わになった。
「あ…あっ、ああっ」
 由綺がそこをいじくると、強すぎるほどの快感が由綺を襲ってくる。直接クリトリスを刺激し始めるにはまだ早かったかもしれないが、少し感じる痛みすらも快感を際だたせるスパイスになってしまっていた。由綺はあられもない嬌声を、受話器を通じて余さず冬弥に伝えていく。
 それは、冬弥の指の幻想が段々と由綺を包み始めていたからかもしれない。細やかな自分の指の刺激であるのは間違いなかったが、時折聞こえる冬弥の声だけで由綺は冬弥の指が自分の敏感な部分をこすっている幻想に浸ることが出来た。
『どれくらい濡れてる?』
「そ、そんなに濡れてないよぉ…」
 乱れきった息を吐き出しながら、由綺は言う。無論指は一心不乱にクリトリスをこすり続けていた。
『じゃあ、受話器あそこに近づけて』
「!!」
『そうしたらわかるじゃん』
「あ…あの…ごめんなさい…濡れてるよ…」
『少しじゃないでしょ?』
「う、うん、かなり…」
『ぐちょぐちょ?』
「ぐちょぐちょ…」
 いやらしい擬音を自ら口にすると、由綺の興奮はますます高まってしまう。ほとんど熱に浮かされているように、由綺は耳に当てていた受話器を自分の性器に近づけていった。
 ぐちゅぐちゅぐちゅ…
 人差し指と中指でこすっていたクリトリスは親指でこするようにして、中指と人差し指で密壷の周辺を撫で始める。あふれ出た恥ずかしい液体がはぜる音は、受話器の向こうに全部聞こえている。
 ちゅぐっ!
「っ」
 由綺は二本の指を中に突っ込んでしまった。
 ちゅぐちゅぐちゅぐっ。
 そのまま、中を思い切りかき回す。さっきよりもややくぐもった音が、受話器を通じて響いていく。
「……と、とうやくぅん…」
 興奮が最高潮に達してきた由綺は、受話器を再び右の耳に当て直した。胸はこの上無いほどに早鐘を打っている。しかし由綺は左手の指を止めることはしなかった。
『エッチ』
「だ、だって、冬弥君に聞かれているって思ったら…」
『由綺、俺に隠れてしているでしょ?』
「し、してないよ!本当!」
『嘘っぽいなぁ』
「し、していないから、こんなになっちゃったの」
 恥ずかしさに独り顔をうつむかせながら、由綺は必死に声を絞り出した。
『しているから、そんなになるんじゃないの?』
「ち、違うの…こんなことしたの…生まれてはじめてだよぉ…」
『癖になりそう?』
「と、冬弥君が…聞いて…いてくれるなら…癖に…なっちゃう…かもっ…」
『由綺って、思ってたよりエッチだったんだ』
「冬弥君…だから…だよっ…!」
 由綺の声が段々途切れ途切れになってくる。一見してすぐにわかるほど、由綺の身体は快感で満たされていた。
『わかったよ…最後まできちんと出来たら、これからも聞いていてあげる』
「う、うん…ありが…とう…」
『嬉しい?』
「は…恥ずかしいけれど…冬弥君だから…嬉しいよ…!」
 由綺は目をぎゅっ…と閉じて、押し殺した声で言う。
『最後、どうすればいいかわかる?』
「わかると…思うよ…」
 由綺の腰が、ピクッピクッとひくつき始めた。しかし左手の指の動きはますます速まりつつある。
『きちんと出来なかったらだめだから』
「う、うん」
 ちゅぐっ…ちゅぷちゅぷ。
 由綺の中から漏れる水音が一層高くなり、クリトリスは充血してぬらぬらとした光を見せていた。由綺の絶頂が近いのは明らかだ。
「と、冬弥君っ…」
 由綺は叫ぶように言う。
『………』
「私…私…!」
『………』
 冬弥は無言を貫いた。
「イ、イクのっ!気持ちよくて…イッちゃうのっ!」
『何をして?』
「ひ、ひとりえっちして…ひとりえっち冬弥君に聞いてもらって、イッちゃうぅっ…!」
 由綺は脚を閉じて、身をぐぐっと縮めた。だが、脚の間に挟み込まれた指の動きは全くゆるめず、自ら容赦のない最後のとどめを刺していった。
「イっ、イっ…イクっ、イクっ!冬弥君っ!私、イクっ…!」
『由綺…思い切り、イッていいよ』
「う…ああぁっ!」
 ビクンッ!
 悲鳴のような叫びが上がり、由綺は胸を思い切り自分の脚に押しつけた。頭の先は床につけられ、跳ね上がった髪の幾筋かが床に流れる。
 ビク…ビク…ビク…
 全身を激しく痙攣させながら、由綺は絶頂した。吹き出すような勢いで恥ずかしい液体が密壷から飛び出してくる。
『イッた?』
「う、うん…イッたよ…」
 呆然としたまま、受話器をすがるように握りしめて由綺は答えた。
『聞いてるだけですごいエッチだった』
「だ、だって、冬弥君が…」
『言わないことまで由綺がしてくれるから』
「も、もぉ…」
 まだ身体はビクビクと痙攣していたが、由綺はちょっと笑いを浮かべながら抗議する。
『じゃあ、これからしばらくはこれでいくか』
「そっ…そうだね…」
『全く、森川由綺がこんななんだって知ったらファンがどう思うか』
「と、冬弥君の前だけだもんっ!それだって、恥ずかしいんだよっ…!」
『冗談冗談。じゃあ、ツアー頑張れよ』
「うん…」
『今日はもう寝た方がいいだろ。明日に差し支えるし』
「うん。お休みなさい」
『ああ』
 プ…ツー、ツー…
 由綺はしばらくの間、その機械音を耳にしながら惚けた顔で床にうずくまっていた。



8/30
 ちゅくちゅくちゅく…
 浴室の中へ、ひっきりなしの水音が響いていく。
「はぅーっ…」
 ぼうっとした目の繭が、息を吐き出したような、何かの感情を表現したような微妙な声を出した。
 浴室の床に脚をぺたんとついて、大きく広げた状態。膝の辺りに泡にまみれたタオルが乗っかっていた。髪も濡れっぱなしの状態がそのままになっていて、湿気を取っておこうというような配慮など全く見えない。そして、身体の後ろ半分は泡だらけで、前半分は綺麗になっている。
 ちゅくちゅく。
 どうやら、前半分だけを流してそのままにしているらしい。
 興味が散漫な繭にとってはよくあることだが、浴室では他に興味を引くようなものなどあまりないし、普段は洗っている途中に別のことを始めるなどという事はない。
 ちゅくちゅくっ。
 ただ、自分の身体自体に興味が移ってしまったのであれば、それは仕方ないことだろう。繭はつるんとした割れ目の中に指を突っ込んで、小さな突起を無心にいじり回しているのだ。
 水音がしているのは流した時の湯が残っているだけの話だ。真水なので多少滑りの良さには欠けていたが、繭の指を潤滑させるには十分なようだった。逆に言えば、それだけ繭の性器が性感に敏感になっているとも言える。
「んー…うー…」
 指を動かしながら、繭はたまに声を出す。それは顔をしかめながらであったり、ほわっとゆるめながらだったりしたが、どうやら嫌な感情よりも嬉しい感情の方が全体には勝っているようだった。
 ちゅくっ…
 周囲の状況をかんがみる能力においては繭は未だ不十分だったが、これをするのはなぜか浴室に限られていた。繭は個室というものを持っていない。だから初めての時は廊下の隅で始めそうになったのだが、なにかむずがゆい感覚を覚えて、浴室の中に飛び込んだのだ。
 それ以来、浴室の中でこれをするのが日課のようになっている。
「んっ…みゅーっ…」
 突然繭がぽかんと口を開けて、声を出した。
 …にちゃっ。
 動いてなかった左手が性器に触れると、粘っこい液体が絡む感触がある。
 にちゃにちゃ、くちゅくちゅ。
 繭はそこを指の先で触りながら、突起を同じペースでいじり続けた。繭の突起はまだ未発達ではあったが、それなりに勃起して包皮から剥けている所を見ると、繭はかなり気持ちよくなっているのは明白だった。
「みゅ、みゅ…」
 段々、何かをこらえるように繭が身体をよじり始める。それと同時に、繭が手を動かすスピードも上がり始めた。いつもの要領を得ない動きとは違う、無駄のないスムーズな動き方だ。
 繭の秘裂は、透明な雫でしとどに濡れていた。それはぽたぽたと垂れては床に広がった湯と混ざり合っていく。見た目には区別できなかったが、もう床にはかなりの量の愛液が混ざっているはずだった。
「みゅーっ!みゅーっ!」
 最後にひときわ大きく叫んでから、繭が自分の突起をぐいぐいと押し込んで脚をじたばたと動かす。
 それからしばらくの間、繭の幼い肢体は、快感にぴくぴくと打ち震えていた。
「はうぅー…」
 石鹸の泡が繭の背中からほとんど滑り落ちそうになった頃、繭がぶるっと震える。湯冷めしてしまったようだ。
「んしょっ…」
 繭は浴槽から湯桶に水を汲んで、思い切り背中にかける。
 ばしゃあっ!
 そして、泡と繭のオナニーの証拠は排水溝に流れ落ちていった。
「みゅっ」
 湯がまだ流れきらないうちに、ざぶん、と繭は浴槽に飛び込む。そしてほとんど口元まで湯につかって、身体を温めていた。
 最初はなんでこんな行為を始めたのか、繭には分からなかった。ただ、すごく気持ちいいのは間違いないので続けてきただけだ。それでも、最近はそれとは別の、何か懐かしいような感覚を感じるようになってきていたのだ。
「みゅー…」
 繭はどことなく寂しそうな声を、湯煙の中に吐いていった。


8/25
 空がうっすらと白み始めていた。
 この季節である。もはや明け方というより、朝と言った方がいいような時間帯だ。事実、新聞配達のバイクの音はもうずっと前から聞こえ始めていた。テレビをつければ普通にニュース番組を流し始めている、そんな時間だ。
 しかし、わずかに明るみ始めた部屋の中で、舞は新しい一日が開始されているという感覚をまるで感じられなかった。
 …ごそっ…
 もう何十回目かわからないような寝返りを打つ。制服のままだ。しわくちゃになったその生地が、舞の疲れ切った身体を体現していた。昨晩から一睡もできていないのだから、無理もない。
 目には涙がにじんでいる。それは、寝不足と中途半端な眠気から来るものだけではないようだ。
 舞にとって、今という時間は昨日の延長線上に過ぎなかった。昨日という日が幕を降ろさずに、ここまでずるずると伸びきってしまっているのだ。
 苦しい。
 睡眠という救いによって、傷ついた佐裕理の姿と側にいた祐一の姿を忘れる事ができないほどに、舞は誠実なのだ。だが、悲劇なのはそれは舞自身が心から望んだものではないという事である。
 もう助けて欲しいと心のどこかでは思っても、無意識が舞を休息から遠ざけているのだ。
「ゆう…いち…」
 かすれた声で、舞がつぶやく。
 傷つけて欲しいと言っても傷つけず、無言で優しく慰めてくれた祐一の姿…しかし、それはかえって舞を罪の意識から解放させないという結果をもたらしていた。
 いっそ抱いていてくれたなら、舞もわずかながら救われていたのかもしれない。だがそんな可能性に頼ることすら、今の舞には許されないことのように思われてしまうのだ。
 どうすればいいのか、わからない…
 祐一に言った言葉が全てだった。舞は、どうすればいいのかわからない。
 そうやって数時間を過ごす中で、傷つき、汚れるという負の欲望が際限なく拡大していった。
 だったら、そうすればいい?
 手段はあった。ただ、舞の理性がそれを頑(かたく)なに拒み続けてきたのだ。理由を見つける事は難しい、直感的な拒絶だ。
 それは一瞬の負荷に対しては有効な抵抗だったかもしれないが、長時間に渡って精神が苛まれる内にどんどん力を失っていった。今では薄い紙のような脆弱な壁しか残っていない。
「う…」
 うつぶせの身体を動かそうとした瞬間、豊かなバストがベッドに擦れた。
「………」
 それがトリガーとなる。
 血流の巡りの悪くなった手が、緩慢な動作で舞のスカートに忍び寄っていった。
 そのままブラウスとスカートの間に侵入して、すぐに下着の中に入っていく。風呂に入る時に独りで服を脱いでいる時のような自然な動作だった。実際、指先が性器のごく近くに触れているのがわかっても、ほとんど違和感はない。身体感覚が麻痺しきっているのだ。
 舞はクレヴァスを無造作に広げて、指を中に入れていく。意識は、生理用品を替える時のような日常的空気に満たされていた。
 指は、ごくわずかにぬめった感触のそこから正確に一箇所を見出す。自分の身体なのだから、見えなくてもそれを探ることなど簡単だった。舞の清潔な処女地だ。
 …ずっ
「あぅっ…」
 痛みが走った。舞が声を出す。
 その痛みで、理性の働きが戻ってきた。舞は自分のしている行為の意味を反芻(はんすう)して、心が苦しくなるのを感じる。
 ず…ず
「…う…くっ…」
 しかしそれは一瞬だった。舞は指を中に押し進め始める。
 唾液に濡れてすらいない指の、性的な興奮も一切ない状態での挿入である。人差し指一本でも、乾燥した膣壁との摩擦が舞に鋭い痛みを与えた。さらに進めると、取れやすい皮膚を無理矢理剥がす時の痛みを倍にしたような痛さも加わってくる。
 舞の全身が、少しずつ汗を帯び始めていた。だが、自らしている行為だと言うのに、舞は一向に指を引こうとしたり、躊躇したりすることはない。少しずつだが、確実に指を中に入れていく。魔物との戦いで痛みに慣れている舞だからこそかもしれない。普通の少女なら、自分で自分に痛みを与える行為を動揺せずに行うことなどできないだろう。
 ずっ。
 そして、人差し指が根元まで中に入る。もちろん、奥まで届いているわけはない。それでも、かなりの圧迫感と異物感が舞を支配していた。
「…祐一」
 次の瞬間、舞の唇からそんな言葉が滑り出す。
 なぜそんな事を言ってしまったのかと思う前に、昨日の晩の祐一が思い出されてきた。
 この指は、祐一だったかもしれないのだ。
 ふわっ、とくすぐったい感覚が舞を包んでくる。
「う…あ…」
 それは満たされる感覚だった。痛みと屈辱を実行するための指が、とても嬉しいものに感じられてくる。
 すりっ…
「ふぁ…」
 舞は身体をよじったが、それによってブラジャーの中の乳房が刺激され、舞にさらなるくすぐったさを与えた。いや、既に快感と言ってもいいかもしれない。舞のバストは、サイズ相応によく感覚も発達させていたのだ。これまで一度も性を感じたことのない少女に、甘い感覚を覚えさせるほどに。
「だ、だめ…」
 意図と違う行為。だが、舞は恐る恐る胸を左右に振ってすりつけ始めていた。それを支えるのは、舞を犯している自分の指と、そこに張り付いた愛しい人の幻想だった。
「さ、さゆり…許して…」
 舞の目から涙が伝った。


8/18
(前振りが長すぎるという説が。)
「…で、なんなんだ?話って」
「は、はい」
 栞がぎごちなく受け答えする。
 人気のない校舎の裏。日が落ちかかり、そこにいる二人の影はゆらりと長く伸びている。そして、制服のリボンが上級生と下級生という関係である事を告げている。
 二人のルックスも考えれば、なかなか画になる状況と言えるだろう。栞が小柄で二人の間に身長差があるのも好条件である。
「あの…」
 おずおずと胸の前で両手を合わせている姿も、実に健気(けなげ)だった。真っ白な頬を染めているのは、夕日か恥じらいの感情か。
 小さな音を立てて、栞が祐一に歩み寄る。もう二人の間の距離は50センチとなかった。初対面同士でここまでに近寄る事自体、ひとつの態度の表明だ。
「…これ」
 栞が小さなこぶしを裏側にして祐一に見せる。中に何か入れていると言わんばかりに。プレゼントと見るのが自然だろう。
 祐一が視線を落とし、その栞の手に注目する。
 …ぎゅっ!
「!」
 が、栞は次の瞬間思い切りそのこぶしを祐一の胸に押しつけていた。
 ばしゅぅっ……!!
 その、握った栞の手からまばゆいばかりの光が幾筋もほとばしる。その中に握っていた物体が強烈な発光を見せたようだ。しかし、栞の手の平の中に収められる物体のサイズには限界があるはずである。それを考えれば、明らかに異常とも言える発光量だった。
「…くっ」
 たっ!
 祐一が小さく声を漏らすと、素早い身のこなしで栞は大きく後ろに飛ぶ。そして綺麗に着地すると、手の中の小さな物体を構えるようにして祐一の事を鋭い目でにらみつけ始めた。それは、臨戦の状態に他ならない。
 栞が手に隠し持っていたのは、やや細長い形状をした宝石のようなものだった。さすがに宝石にしては大きすぎるが、不断に鈍い光を放ち続けている所を見ると尋常の物体ではない事は明らかだ。それを右手で構えて、祐一に向けている。
「容赦はしませんよ…」
 栞は言った。一方の祐一は平然とした顔でそれを聞いている。
「ほう」
 祐一の手は紫色に変色していたが、それは体調の狂いを示すものではなさそうだった。まるで塗り込めたような、人工的で深い紫なのだ。そして、栞の構えている物体と同じように、鈍い光を放ち始めている。人外の領域に達しているとしか思えなかった。
「魔鉱石の結晶…そこまで大きいものがこの世界にあるとは思わなかった」
「私も思っていませんでした…でも、これを手に入れたからには」
 栞がきっ、と祐一を見据える。
「負けません、絶対にあなたには」
「だったら、不意をついて俺に何か打ち込めば良かったんじゃないのか?」
「確かめたかっただけです…9割9分そうだとは思っていましたが」
「甘いな」
 祐一が冷笑を浮かべながら言う。
「そんな事言っていられるのも今の内ですっ!」
 すっ、と栞が結晶を天にかざす。
 ばっ!
 結晶は先ほどと同じような、強い光を放ち始めた。今度は先ほどと違う、渦巻くような攻撃的な紅の光が生まれている。栞はそこに左手を添えて、前に突き出し、何かを撃ち出すような体勢を取った。
 栞のショートカットが後ろに吹き流され、制服がばたばたと激しく揺れている事からもエネルギーの奔流が生まれつつあるのは分かる。
「お姉ちゃんをあんな人にしてしまったあなたを…私は絶対に許さないっ!」
「香里か…あいつが覚醒せずに、お前が覚醒する…皮肉なもんだな」
「黙りなさいっ!」
 栞の表情が怒りを帯びたものになり、光の奔流は一層激しくなる。
「いきますよ…」
「だからお前はいつもツメが甘いと言うんだ…」
「はったりです…この状態であなたが避けられるはずがありません!」
「だったら、なぜこの場にあゆを連れてきた?」
「…え!?」
「いっ…いやあぁっ!?」
 びゅぅっ!
 祐一が空中で何かをつかむような動作をした瞬間、栞のはるか後方から悲鳴が上がる。
「うぐぅっ…いや、いやあっ!」
 校舎の陰から引きずり出されたのは、確かにあゆの姿だった。祐一の術によって、空中を勢い良く飛ばされているのだ。
「あ…あゆ…さん…」
 栞が後ろを向いて、呆然とした顔になる。すぐに慌てて視線を前に戻したが、その表情には明らかな動揺が走っていた。
「あれだけ…あれだけ来ちゃだめって言ったのにっ…」
「う、うぐぅっ…栞ちゃん…ごめんなさい…心配だったから…どうしても…」
 空中を飛ばされているあゆは栞の横を通り抜け、祐一の方に向かわされる。そして祐一の身体をちょうど防ぐような位置でふわふわと浮遊させられた状態になってしまった。
「祐一君…下ろしてよぉっ!」
「こいつの行動パターンも計算に入れないで出てくるんだからな…これで俺を倒すとか言うんだから、呆れたもんだ」
「あ…あゆさんを離しなさいっ!」
「魔鉱石をよこすんだな」
「………っ!」
 栞がエネルギーを維持したまま、ぎりっと歯を噛みしめる。
「バカでかいエネルギーをぶっ放すしか能がない奴が、どうやってこの状況を崩せるのか…聞かせてもらおうか」
「ひ…卑怯者っ」
 栞は気丈に言うが、その表情には既に弱さが生まれていた。祐一の言う事は全て事実だったからだ。
「祐一君の言うこと聞いちゃだめだよっ!栞ちゃん!」
「じゃあ、あゆは栞の術の犠牲になって死ねるというんだな?」
「うっ………うぐぅ…」
 …しゅぅっ。
 栞のコントロールしているエネルギーが収束し、消滅した。
 …ぽんっ…
 そして栞が力無くうなだれながら、魔鉱石を祐一に向かって投げる。それはあゆの身体の上を通り抜けて、しっかりと祐一にキャッチされた。祐一が無造作に魔鉱石をポケットに突っ込むと、栞は地面に崩れ落ちる。
「全部…ボクが悪いんだよね」
 泣きそうな顔であゆが言った。
「そんなことないです…私も相沢さんの術をきちんと見極めていれば…」
「そうだ、お前が全て悪い」
 祐一は栞に言い放つ。
「あゆの覚醒を待ってから二人で闇討ちでもすれば良かったものを…無駄で性急な行動でダメにするんだからな」
「これ以上…あなたを放っておくわけにはいかなかったからです…」
「下級な奴どもの数人がなんだと言うんだ…情に走って大局を見誤る辺りはこの世界でも変わっていないようだな」
「………」
 栞は下を向いたまま返事をしない。ただ肩を震わせているだけだ。魔鉱石を失った以上、抵抗の手段はないのである。
「さて、どうしてやるか」
「…あゆさんだけは許してあげてください…私がいなくなれば、覚醒することはないです…」
「ムシのいい願いだな」
「お願いです…私はどうなっても構いません」
「…じゃあ、こっちに来い」
「…はい」
 栞はのろのろと立ち上がり、歩いて祐一の所へと向かう。あゆの事も見えていないようだった。あゆは申し訳なさと心配さで一杯の表情で栞と祐一を見比べるばかりである。
 長いような短いような時間の後、栞は顔を伏せて祐一の前に立つ。
「手を出せ」
「…?」
「いいから手を出せ。両方だ」
「はい…」
 栞は祐一の方を見ずに、ただ両手を差し出した。
 すると、左手の指先にひやりとした感触が生まれる。少しおいて、右手の指先にも同様の感触が生まれた。
「………?」
 顔を上げて、栞は何が起こったのかを確認する。
「これは…」
 指の先だけが、紫の色に染まっていた。さらに鈍い光も放っている。つまり、祐一の両手と全く同じようになっているのだ。しかし、それ以上の変化は特に現れていない。精神的にも肉体的にも、これといった変調は感じられなかった。
「お前自身の手によって堕ちてもらう」
「え…!?」
 しかし祐一の言葉によって、栞の顔はさっと青ざめた。
「意味は分かるだろう?」
「そ、それは」
「お前がそうするなら、俺はあゆに手を出さずにいてやる。絶対だ」
「だ、だめっ!祐一君の言うことなんか聞いちゃ…それじゃ、前とおんなじになっちゃうんだよっ!」
「前と…?」
「お前は黙れ。これ以上言ったなら、こいつの首を吹き飛ばすぞ」
「うぐ…」
 あゆは言いそうになって、慌てて自分の口をふさぐ。
「本当に…本当に、あゆちゃんを助けてくれるんですね…?」
「お前がするなら、俺は絶対に手を出さない」
「…わかりました」
 未だ祐一の拘束の中にあるあゆが、その瞬間目を見開き、両手のこぶしをぎゅぎゅっと握る。今にも叫びだしそうだったが、そうする事はできないのだ。
「それと。俺の方を向いたままだ。姿勢を大きく変える事はするな」
 こく。
 栞は無言でうなずいた。
 …ごそごそ。
 それから、指先が変色した栞の手が動き始める。スカートの中に。
 どうやらそのままショーツの中まで指を侵入させてしまったようだった。さすがに栞の顔も恥ずかしさで真っ赤になる。憎い敵の前・緊張状態と言えども、他人の前でこの行為を平然とできる15歳の少女などいないだろう。
「うぅ…」
 そして、スカートの中から服と服が、服と肌がこすれる音が聞こえ始める。幾分ためらいがちの動きである事は音からも分かったが、動かしている事は間違いないし、手探りの不安定さのようなものがない。
「慣れてるな」
「………」
 栞は返事をしなかった。恥辱に頬を染めながら、一心不乱に指を動かしていくだけである。
 幸いにして、祐一がそれ以上の露出を求める事はなかった。と言っても、栞は祐一の正面を向いているのである。激しい屈辱感が栞を襲うが、それ以上に屈辱的だったのは栞自身が気持ちよくなってしまっているということだった。
 かと言って、全く気持ちよくなれなければいつまで経っても行為が終わらない。栞は自分の最も感じるように性感帯を触らざるを得なかった。まだ身体が未成熟の少女によくある事のように、それはほぼクリトリスと同義である。
「はぁ…」
 その小粒の突起をくりくりと転がしている間に、栞の呼吸は段々速く荒くなってきてしまった。それを隠す事は出来ない。少女の熱い吐息は、周囲の人間に栞の興奮を正確に伝えていく。
 じわっ…
「…!」
 さらに悪いことに、栞はショーツの中で愛液をほとばらせてしまった。無論見た目ではわからないが、ショーツとスカートの触れる音、ショーツと性器が触れる音が、ややくぐもったものになる。
 じわっ…じわっ…じわじわっ…
 少量であれば誤魔化せたかもしれないが、突起への刺激回数に比例して愛液の量はどんどん増していった。いつしか、ショーツは生暖かくてぬるぬるとした液体でぐしょぐしょになる。
「こいつ…濡れてるみたいだな」
「はぁっ…はぁっ…はぁ」
 栞は何とか無反応を貫こうとする。濡れた唇からあふれ出す吐息を出来るだけ抑えようと試み、身体の奥からの液体もとどめようと全力を振り絞る。だが、それらは全て時間の問題に過ぎなかった。
「…なんだこれは…」
「!」
 祐一が、スカートから見えている栞の膝を撫でる。すると、ぬるりとした感触が栞自身にも感じられた。あまりに濡れて液体を吸収できなくなったショーツから、太股を愛液が伝っていったのだ。
「自分で毎日どれだけ楽しんでいるんだ…変態が」
 栞は辱めの言葉に泣きそうになったが、もうそんな余裕もなかった。既に栞の身体は頂点に向かって一直線に流れつつあったのだ。
「あ、あ、あ」
 ついに栞が小さく声を漏らしながら、ぴくぴくと身体を震わせ始める。あゆはそれを見て、絶望的な表情になってしまった。
「………!」
 ビクビク…
 栞が立ったまま、全身を激しく痙攣させる。痙攣に合わせてかくかくと首が縦に振られ、ショートカットが揺れた。
 その瞬間、意識が暗闇に落ち込んでいったのだ。
 しかし気絶するわけではない。そのブラックボックスの中で、様々なものが再構成され、構築されていく…

 どん。
「うぐっ…」
 突然地面に落とされて、あゆは声を漏らす。慌てて祐一の事をうかがうが、
「もうしゃべってもいいぞ」
 祐一はそう言った。
「し、栞ちゃん…?」
 尻もちをついたまま、あゆは絶頂したままの姿勢である栞に声を掛ける。
 …ごそっ。
「栞ちゃん!」
 スカートの中からべとべとの手を抜き、ゆっくりと顔を上げる。栞の手ははっきりした紫に染まっていた。
「あゆさん…」
 近づいてくる。一歩一歩、ふらついた足取りで。姿形は栞のままだったが…
「や、やっぱり…」
 どう見ても正気ではない。あゆは、はっきりと絶望を感じた。
「一緒に…気持ちよくなりましょう…」
「だっだめっ!そうしたらっ!そうしたらっ!」
 ずりずりとあゆは後ずさりするが、栞が軽く手を回すだけであゆの身体は動かなくなる。
「約束だからな。俺はあゆには手を触れない」
「し、栞ちゃん!目を…目をさましてぇっ…うぐぅっ…」
 栞の柔らかな唇が、あゆの唇に重なった。


8/13
 右手の指で挟み込まれたニプルが、ぷるぷると弾かれて揺れる。
「んん…」
 その快感を固定するかのように、理奈は数回乳房を揉んだ。サイズは特別に大きいというわけではないが、白く滑らかで張りがあり、形良く整っているバストだ。水着姿のグラビアなどで、ごく稀にその一部分が目に触れるだけの場所…そこを、理奈自身がいじくっているなどと純粋なファンは想像しないだろう。
 だが白とベージュを基調にした、柔らかな照明に彩られる部屋の中で理奈は独り全裸になっていた。髪も完全に下ろしている。普段の、演出で映えている彼女とは全く違う極めて普通の20歳の女性としての姿である。私服であっても理奈自身のハイセンスに基づく演出が介在してしまう以上、その束縛から解放されるためには全裸しかあり得ないのだ。
「あ…」
 もっとも、それを理奈が望んでいるかどうかは別問題である。
 左手がクレヴァスに触れた瞬間、理奈が見せた表情は恥ずかしさの中に憂鬱をたっぷりと湛えたものだった。もしそれが服に身を包んだときの表情だったなら、部屋のムードと相まって品の良いドラマのワンシーンのように見えた事だろう。
 しかし、ややつり目がちの美女が落ち着いたコーディネートの部屋の中でソファーに座りながら自慰をしていた場合、そのちぐはぐさはどこに行き着くのだろうか?
「あ…!あ…!」
 指がクレヴァスを開いて、一点を集中的にこすり始めると、理奈が目を固く閉じて押し殺した声を出した。
「うっ…うっ、ああーっ…はぁっ」
 右手で胸を揉む動きと合わせて、左手が性器を責める。動きは右手の方が大きかったが、感じ方は左手のもたらす方が断然大きい。胸は少し熱くなるような感覚が生まれるだけだが、性器のもたらす快感は理性を奪っていくような強烈さがあるのだ。
 見た目にも、理奈が段々指の動きを強めていく様子は、性器の生む快感に理性を奪われていくプロセスに感じられる。どんなにハードなスケジュールや、ライブの後でも残しているはずのクールさと余裕というものが、今の理奈には全くなかった。
 だから、身体の変調にも気づけなかったのだろう。
 くちゅくちゅっ…
「…え?」
 少しずつ顔をそらせ、行為に溺れていく状況の中で生まれた水音。理奈は我に返って、自分の性器を見つめる。
 ちゅく…
「………」
 性器から抜いた指は、粘った液に濡れていた。
 おそるおそるクレヴァスをくつろげてみると、ピンク色の粘膜がぬめりのある透明な液体に濡らされているのがわかった。まじまじと怖いものを見るように見つめている様子からすると、初めての経験だったらしい。理奈の顔が真っ赤になっていた。
 実際二十歳の誕生日を処女で、性に完全に無垢で迎えた理奈にとっては愛液を見る経験が初めてであっても不思議ではない。
 ぽた。
「あっ、あっ…」
 理奈が慌てて腰を持ち上げる。クレヴァスの間から、液体が糸を引いてソファーの表面に垂れたのだ。
 ぽた、ぽた。
 しかし、それでも少量ながら液体は垂れ続けた。ミルク色のソファーの上に、小さなシミができる。理奈は手で液体が垂れるのを何とか防ぎながら、立ち上がった。
「………あぁ…」
 ちょっと身長が高めのはずの理奈が、とても小さく見える。きちんと直立していないという事もあるのだろうが、それ以上に弱々しく見えるのだ。
 くちゅ。
 再び理奈が秘裂の中に指を戻す。
 くちゅ…くちゅ、くちゅくちゅ…
「んぁ…」
 激しいこすり立てを始めながら、理奈は淡い光を放っている天井の照明にぼんやりとした視線を向けた。垂れてくる液体は右手で受け止める。あまり量は多くなかったために手の平からあふれるという事はなかったが、あられもない理奈の姿は何かを強制されているかのような惨めさがあった。
 いつもと違ったぬるぬるした感触が秘核を責める。理奈は、興奮するのを禁じ得なかった。ねばねば、ぬるぬるという感覚はおよそ理奈の美的センスからは遠いものだが、それゆえに狂おしいような性感が理奈を襲うのだ。
 2分もしないうちに、理奈は昂(たかぶ)りきってしまった。
「ひぃっ…」
 ぐりっと秘核を押し込んだのをとどめに、理奈は絶頂を迎えてしまう。ビクビクと腰が震えるのが自分でも分かった。軽い痙攣なら経験した事はあるが、全身が崩れ落ちてしまいそうな痙攣など初めてのことである。
「あ…ああっ…あぁ…」
 痙攣が収まってから、理奈はやっと顔を下げた。
 ちゅぷっ。
 左手を出して、テーブルの上にあったティッシュを数枚連続で引き抜く。何枚かはあっという間に液体で湿ってしまったが、枚数を重ねていくうちに乾いた部分が残るようになってきた。
 理奈はそれでまず右手を拭いた。そして右手が綺麗になると、クレヴァスの周りを拭き、それから中の方もそっとふき取る。
 終わる頃には、巨大なティッシュのボールが出来上がってしまっていた。
「…はぁ」
 冬弥に抱かれるのが近いと思っていたときに始めていた習慣だけが残り…冬弥は去っていった。
 他にも残ったものはある。由綺との友情、私情を優先しないというプライド、アイドルとしての名声、兄。積み上げていった時に、冬弥と比べてどちらに天秤を傾けるのか迷ったもの達だ。
 理奈が知らなかったのは、手に入らなかったものは重みを永遠に増し続けるという事である。
 それに比例して、副次的な習慣もまた重みを増してしまったのだ…


8/11
 湯煙が立ちこめている。
 シャワーを流し始めてから、もうかなりの時間が経っていた。美咲の髪はそこまで長くないのだから、洗っているとしても少々長すぎる。事実、もう美咲は自分の髪にタオルを巻いてしまっていた。そして洗面器の中には濡れたタオル。身体も洗い終わっていると考えた方が良さそうだ。
 なのに、美咲は浴槽に戻ろうともせず、シャワーも流しっぱなしである。普段から電気やらガスをこまめに節約している彼女の性格から考えると、不自然な行動だった。
 だが単調な水音の先がどこに向けられているのかを見れば、事態は概ね見えてくる。
「はぁっ…」
 温水と湯気で紅に染まりつつある美咲が、大きく息を吐き出した。いや、温水と湯気のためだけというのは間違いだろう。
 シャー…
 シャワーの湯は、洗い流すのとは明らかに違った目的で美咲の恥ずかしい部分に当てられていたのだから。それも、かなりの長時間。
 ぴしゃぴしゃと絶えず跳ね続ける水によって、その部分がどうなっているのかは覆い隠されていた。しかし脚がそれなりの間隔で開かれているのだから、シャワーが止まってしまえば豊富な水分をたくわえた秘部が中まで露わになってしまう事だろう。
 変形し続ける不安定なヴェイルは、美咲の身体を隠す最後の抵抗であると同時に、美咲の身体を辱める道具でもあった。相反しているような働きの共通点は、そのどちらも美咲が望んでいるということだ。
「あ…ああぁ…」
 震えた声が出た。それに共ずるように美咲の身体がぷるぷると震え、シャワーのノズルを動かそうとする。その度に美咲は、辛うじて思いとどまっていた。
「だ、だめ…」
 だが今回は理性がギリギリの所まで追いつめられていたようで、自ら制止を口に出し、左の手でノズルを持った右手を押さえていた。
 美咲がしそうになりつつ踏みとどまっている行為とは、水流をやや上の方に当てる事に他ならない。そうすれば、水流は美咲の官能をはっきりと引き出すはずだった。無論それはオナニーの誹(そし)りを免れる事が出来ない行為である。
 それを抑え込んでいるのは、美咲のプライドに加えて、脳裏に浮かんでいた人間の顔である。
「助けて…ふじい…くん」
 震える唇から滑り出る言葉。
 意識から張り付いて離れない人との想い出は、たった一度の性交を美咲に思い出させずにはいられなかった。しかし、それは冬弥に対する冒涜でしかないと美咲は思っていたのだ。
 それでも冬弥の事は忘れられないし、冬弥のことを思い出せば性交の記憶が美咲の中に甦(よみがえ)り、身体の奥に疼く炎を産み出す…激しい拘束状態は、美咲の気力をあっという間に奪っていく。
 ひとつの言葉が美咲を助ける事は、彼女自身がよく知っていた。そして、それが誤魔化しに過ぎない事も美咲は熟知していた。
「あぁ…」
 泣きそうな顔になりながら、美咲が顔を右に左に振る。
「わ、私…最低…だよね」
 誰に言ったのかも分からない言葉…
 その瞬間、意思とは無関係にシャワーのノズルは上を向いていた。
「ひぅ…あ…ぁ」
 一瞬美咲は身体を跳ね上がらせたが、その後は満たされたような、惚けたような表情が生まれてくる。直接感じる部分に水が当たる感触は、端的な快感を美咲に与えた。
「や…いやだよ…」
 美咲は目をつぶり、言う。何も見たくはなかったのだ。
 だが照明がわずかな明るさをもたらしている真っ暗の視界の中に、浮かんでくるのは冬弥の顔だった。
「た、助けて…もう…」
 美咲の身体感覚は、シャワーの湯とは違う熱い液体が生まれつつある事を教えていた。そのぬめった液体は一瞬にして水流に紛れていったが、いつまで経っても止まる事がない。弛緩しきった美咲の秘部は、恥ずかしい液体の分泌を抑える事が出来ないのだ。
 かと言って、水流の中途半端な刺激でエクスタシーに達する事ができるはずもない。しかし指で直接触れる事は、美咲には絶対に出来なかった。理由はわからない。ただ、間接的ではない、直接的なオナニーに手を出した瞬間に何かが崩れる気がしていたのだ。
「あ…ぅ…」
 熱気で意識がもうろうとするのを感じつつも、美咲は水流を止める事が出来なかった。



8/5
 …バヂッ
「ひぅぅっ…!」
 バヂッ バヂッ…
「あぐっ…や、やめてくださいぃっ…」
「俺に従うか?」
「そ、そ…」
 バヂヂッ!
「うわぁぁ…」
 マルチが全身をくたりとさせて、倒れ込みそうになる。全身の拘束のために床に思い切りぶつかる事は避けられたが、そのままならば受け身も取れずに全身を床に叩きつけてしまっていたに違いない。
「どうだ?」
「…ぅ…」
 小さく声を漏らす。それでもシステムがストップする事はなかったようだ。手足の先を小刻みに震えさせながらも、目は薄く開いている。
 ヂ…ヂッ
「ふぁっ…も、もうや、やめてくださいぃ…」
 目の前で鈍い音を立てて飛び散る青白い火花に、マルチが顔を引きながらおののく。
「どうする?」
「し、したがいますっ…ご主人様ぁ…」
「よし…」
 男はマルチの前で仁王立ちになる。しかし手に持った道具を離すことはなかった。
「じゃあ、忠誠の誓いとして…オナニーしろ」
「そ、そんなことっ…!」
 だが、男が手に持った道具を少し動かしただけでマルチは大きく目を見開き、硬直してしまった。
「します…しますぅっ…」
 マルチは電撃で痺れた手を、恐る恐るに股間へと持って行く。
 そこに指を触れさせてみても、電撃のためか痺れきった感覚しか生まれない。恐らく、全身のどこに触ってもそれは変わらないだろう。
 しかしマルチは指を割れ目の間に突っ込んでいった。
「そうだ…」
「み、みないでくださいぃ…」
 無遠慮な視線が、無毛の秘裂に向けられる。これまでずっと見られてきた部分とは言え、自分で触っている所を見られるのは全く意味が違っていた。
 くりゅっ…
「あぅ…」
 それでも小さな突起を転がすと、ピクンと快感が頭をもたげてきた。
 くりゅっ、ピン、ピン…
「はぁぁぁ…」
 数回いじるだけで、マルチの身体は甘い性の感覚に支配されてしまった。
「もう感じていやがる…淫乱め」
「いや…言わないでください…」
 そう言いつつも、マルチは必死で小さな突起を指で転がし続けていた。やがてそこはごくわずかながら勃起し、指の愛撫をますます敏感に受け入れるようになっていく。
 ぷちゅ…
「あぅっ…」
 マルチが恥ずかしそうな声を漏らすと同時に、透明な蜜がにじみ出てきた。それは瞬く間に量を増し、割れ目の間からもあふれて男の視線に晒される。
「こんなに濡らしやがって…恥ずかしくないのか?」
「はっ、はずかしいですぅっ…えぐっ…」
 顔を真っ赤にしつつも、マルチは行為の手をゆるめる事がなかった。蜜は量をますます増して、つるんとしたマルチの恥丘が液体に濡れてぬらりと光を帯びていく。性器の外観が幼いだけに、そのいやらしさは際だっていた。
「あ…あっ…!」
 マルチは先ほどのショックなど忘れたかのように、顔を悦楽に染めて突起を自ら責め立てる。見た目には、強制されてオナニーしているのか、自分の性欲を満たすためにオナニーしているのか区別がつかなかった。
「イク時はちゃんと言うんだ」
「え…あのっ…」
「なんだ?」
「も、もうイっちゃいました…」
 マルチが申し訳なさそうに、でも恥ずかしそうに言う。
「お前、イッたのにまだオナニーしていたのか?」
「ま、まだちょっとしかイッてなかったんですぅっ…ごめんなさいっ…」
「勝手にひとりでイキやがったのか…しかもこんなに早く」
「ひぃ…」
 にらまれて、マルチは恐れの表情を浮かべる。
「お前みたいな淫乱にはオナニーがお似合いだな…そのまま10回イクまでオナニーしろ」
「そ、そんなに出来ません…」
 言いつつも、マルチは突起を擦る動きを再開していた。


8/2
「せんぱい…」
 葵は沈み掛けた夕日の方をぼんやり見つめながらつぶやいた。
 うっすらと汗をかいている。だが、普段の葵の練習後ならば、全身が汗ぐっしょりになっているはずだ。それと比べれば、今の葵はほとんど運動していない事は明らかだった。
 もっとも、全くやる気が感じられない葵の目を見れば、それだけで練習など出来るような状態ではないことはわかる。それでも無理矢理練習しようとして、結局うまくいかずにやめてしまったという所だろう。
「ふぅ…」
 ため息をつきながら、体育座りの脚の間に顔をくっつける。閉じた目の後ろには、愛する人間の顔が浮かんで離れなかった。葵はそのまま、さらに深いため息を漏らす。
 太股に当たる吐息のこもった熱気が、自分の物ではないように感じられた。まるで幻覚の中にいる浩之の吐息のように感じられてしまう。
「…せんぱい」
 葵は顔をさらに強く脚へと押しつけた。そして、片手を自分のブルマの裾に向かって動かしていった。
 そこから、指を侵入させる。わずかに進むだけで、葵の指は自らの秘裂を捉えていた。
「あはぁっ…」
 葵が嬉しそうに声を出す。浩之の幻覚は未だ消えていなかったのだ。
 ぴっちりと包まれた空間の中で指を動かし、何とか秘裂の間に割り込ませる。窮屈なだけに半ば強引な動かし方になってしまったが、身を小さくした状態での身体感覚と、狭苦しい場で動かされる指は妙にフィットしていた。
「うっ…」
 全身がじわじわと締め付けられるような感覚の中で、葵は透明な液体を滲(にじ)ませてしまった。
「あ…あ…」
 葵は必死でそれを止めようとしたが、身体自体は緊張しているのに秘部だけは弛緩して仕方がなかった。ブルマの表面にはじゅわ…とシミが広がっていく。それは見る見る間に大きくなっていってしまった。
 ただ、葵は愛液のあふれは必死で止めようとしていたが、指の方が快感を求めて這い回る動きは止めようとしなかった。
 自分でも敏感だと知っているピンク色の花芽を優しく、しかし集中的に擦る。普段葵が闘っている時のようなストレートさとは打って変わった、ねちっこいオナニーだった。
「はぁっ…はぁっ…」
 伏せた葵の顔が次第に余裕を無くしてくる。速くも包皮は剥けてしまっており、花芽の核に直接刺激が与えられていた。今の葵が行為を中断させられたなら、ブルマの生地でツンと勃起した花芽が擦られる事になるかもしれない。
 無論、そういうマゾヒスティックな快感をむさぼる程に葵は汚れていないが。
「せんぱい…せんぱいっ」
 葵が悲痛な声で言いながら、顔をぐいぐいと自分の脚に押しつけて、滅茶苦茶な勢いで花芽を擦り立てた。
 …ビク、ビク、ビク…
 全身をぎゅぅっと縮めながら、葵は身体を震わせた。まるで罰を受けているようにすら見える。実際、葵はほんの少しの涙をにじませていた。
 しかし、顔にはやはり絶頂の愉悦が見え隠れしていた。それは恐らく、浩之の事を夢想するあまりの事であろうが…
「あ…」
 ひくひくという震えがだいぶ収まってから、葵が顔を上げて声を出した。
 ざっ…
 葵は慌てて立ち上がり、境内の裏に隠れる。
 すると、草むらの方に足を踏み入れる音が聞こえてきた。やがて急ぎ気味にブルマを下ろす音がして、すぐ勢いの良い水音がし始める。
 綾香さん…
 このままじゃ私…かえって、藤田せんぱいに嫌われちゃうかもしれません…


7/31
(Dailyって、最初はこういうのを書いていく場にしようと思っていた気もするなぁ…物足りないデスカ?)
「ふぅ…」
 琴音は穏やかに息を吐き出した。
 うつぶせの体勢で、枕に横顔を押しつけている。まだ完全には乾ききっていない髪の毛が、枕を湿らせていた。服は上下ともピンク色をしたパジャマで、風呂上がりにそのまま寝てしまいそうになっているといった様子である。
 髪の毛が痛んでしまうと思いつつも、琴音は身を起こすのが億劫(おっくう)だった。全身がほのかに熱を帯びていて、このまま寝てしまいたいという欲望に満ちている。彼女のようなロングヘアーでそうする事はまず出来ないのだが、心地よい眠気にはなかなか抗し難かった。
 する…する…
 琴音は無意識のように脚を動かす。
 その間にはクッションが挟まれていた。パジャマ越し、下着越しとは言え、琴音の脚の付け根の所にクッションが当たっているのは間違いない。
 する…するするっ…
「ふわ…ぁ…」
 琴音がゆっくりとしたあくびをする。今にも眼を閉じてしまいそうな状態だった。それを必死にこらえつつも、睡魔の誘惑はどんどん大きくなっていく。脚を動かすのも、それを紛らわすのに十分ではない。ほとんど無意識でやっているようなものだし、そこには抱き枕の延長線上のような安心感もあった。
 快感でないわけではない。ただ、それはとても微細なものだったし、琴音はあまりにこの行為を長年繰り返してきてしまったため、習慣のようになってしまって、興奮も緊張もないのだ。
 性器に直接触る自慰は…怖くて悪い行為のような気がしてしまって、好きではない。そもそも、琴音はクッションを挟む事をオナニーだとは思っていなかった。誰かに聞かれれば、自信を持ってしていないと答えるだろう。
 それでも、これをする時にはドアの鍵をしっかり掛けている。
「ん…」
 完全に半開きになってしまった目で、琴音は床に転がるドライヤーを見る。そこまで行かなくてはという思いと、寝てしまわなくてはという思いを比較すれば、どう見ても後者の方が大きかった。
 ぎゅっ、と強めに琴音がクッションを挟み込む。
「はぁ…」
 生まれた快感に、思わず目を閉じてしまった。
 琴音の意識はますます薄くなっていく。もはや、琴音は半分以上諦め始めていた。明日の朝早起きしてシャワーを浴びなくてはならないかもしれないが、仕方がない。今このまま眠る事が出来る方が何倍も魅力的だった。
 でも、クッション挟んで寝ると、いつもエッチな夢見ちゃうのに…
 そう思いながら、琴音は吸い込まれるように眠りに落ちていった。


7/24
 ごそごそっ…と、制服の生地が擦れ合う音が立つ。静やかに着衣を取り払う時や姿勢をゆっくりと変える時のような微細な音ではない。もっと乱暴な、どちらかと言えば生活臭のようなものが感じられる音だ。
 一通りその音が立つと、今度は静かになった。しかし、よく耳を澄ませれば、かすかな衣擦れの音が聞こえてくるのが分かる。と言っても、その響きは静やかでも微細でもない音だった。音のデシベルだけは小さかったが、今し方の生活臭が感じられる音に近い。しゅるしゅるという、滑らかで薄い生地の上を規則正しくこするような音だった。
「………」
 郁未は正面を見つめる。
 そこには、制服姿のままスカートの下へ手を突っ込んでいる髪の長い少女…自分の鏡像があった。
 鏡に映った姿を見ているだけでは、スカートの下に入れられた手が何をしているのかはわからない。そのままだと、全く動いていないようにも見えた。
 表情はどこか冷たく正面を見据えているし、きりっと結ばれた口元は何か真剣に物事に取り組んでいるような雰囲気を漂わせている。それに加えて非の打ち所のないほどに整った顔立ちが、彼女にこの上ない自信を与えているように見えた。
 でも、違う。
 郁未の左手が動いて、スカートに手をかけた。同時に郁未の視線が上に動いていく。郁未の視界の中には、鏡に映る自分の胸から上の部分しか入ってこなくなる。
 そして郁未が自分のスカートを下げる。すると、鏡の中の郁未がにやり、と笑みを浮かべた。
 続けて郁未が右手の指をショーツの下から取り出すと、じわりとショーツに舟形のシミが広がる。さらにショーツを両の手でゆっくりと下ろしていくと、秘裂の外側にもぬめった液体をあふれさせている郁未の秘裂が明らかになった。
 鏡の中の郁未がさらに笑みを深くする。もちろん、鏡の中の郁未は胸より上しか映っていないのだから、鏡中の郁未の下半身がどうなっているのかは見えない。だから、郁未は一方的に自分の痴態を見られていることになる。
 ショーツとスカートを下げたまま、郁未の指は秘裂の中に入っていった。鏡の中の郁未は表情ひとつ変えなかったが、郁未の身体には痺れるような快感が走る。
 くちゅくちゅというはっきりした水音を立てつつ、郁未は秘部の至る所を撫でていった。やがて左の指も加わり、密壷の中への挿入が企てられる。
 ぬぷり、とした感触と共に郁未は抵抗なく自分の指を受け入れていった。さらに中指までを合わせて挿入してから、右手はクリトリスを集中的に撫で立て始める。
 速いピッチのクリトリス責めと、ヴァギナの中のぬちっ…ぬちっ…というゆっくりとした愛撫。郁未は既にヴァギナの中で最も良い部分を探り当てているようだった。腰が砕けてしまいそうになるのを、必死で抑えている。
「………」
 鏡の郁未は多少頬を火照らせているようには見えたが、基本的には冷笑するような表情を崩していない。その端正な顔の上に浮かんだ表情を見つめているだけで、郁未の身体の奥からは止めどもなく熱い液体が溢れてきた。
「はぁっ」
 郁未が、目をぎゅっと閉じて熱い吐息を漏らす。そして、身体をゆっくりと折って床に腰を下ろし、そのまま身体をフローリングに横たえた。
「あっ…」
 自ら大きく開脚し、ピンと伸ばす。左の手も同様にばたんと床に投げて、やはりピンと伸ばす。すると、その三箇所は動かなくなってしまった。暗示的な拘束とも言える。
 くちゅくちゅ…くちゅ…
「んっ…だめっ…郁未さん…はぁっ」
 鏡の中から抜け出た少女を夢想しながら、郁未は必死で指を繰る。自分で指を動かしているという感覚はなかった。あくまで、「郁未」が自分を責めているのだ。
 自分の身体にのしかかってくる少女と肌をぴったり合わせる感触すら幻覚しつつ、郁未はあっという間に高ぶっていく。唇を自分でしきりに舐めるのが、キスの代替だった。
「す、好きっ…郁未さん…大好きっ…抱いてっ…抱きしめてっ…」
 ぎゅっ。
 郁未は左の手で自分の身体をきつく抱きしめ、両の脚を閉じて激しくすり合わせた。拘束の幻覚に反しているが、既にそんな事は気にならない。もはや郁未の身体はクライマックスを迎えようとしていた。
「いっ、郁未さーーんっ!」
 ビクっ!
「は、ああっ、郁未さんっ、郁未さんっ、郁未さんっ!」
 ビクっ、ビクっ、ビクっっ!
 自分の身体を抱きしめて痙攣しながら、フローリングの上をごろごろと転がり回る。そして、最後にはぐちゅぐちゅになった生の秘裂を思い切りフローリングの上に押しつけ始めた。
「んーっ、んふぅ、んふぅ…」
 ぬちゅっ、ぬちゅっ…
 胸が押しつぶされる感覚も合わせて味わいながら、郁未は絶頂の余韻に浸る。フローリングの床がべたべたになってしまっていた。
 でも、いいのだ。汚れたショーツを洗濯するのも、ひとりには広すぎるリビングのべたべたを掃除するのも自分。それを見ていたのも自分だし、気持ちよくなって濡れたのも自分なのだから。
 コトン。
 その時、玄関のドアの郵便受けの中に郵便物が入れられる音がした。


7/23
「う…」
「あははーっ、祐一さん、気分はどうですか?」
「と、止めてくれ…死にそうだ…」
「でも、こっちは嫌そうにしていませんよ」
 佐祐理が無造作にペニスをつかんで、思い切りしめつける。少女の力とは言え、全力で締め付けられれば痛くないはずがない。
「う、うっ…や、やめてくれ、佐祐理さん…」
「だったら、なんで縛られる時に嫌だって言わなかったんですかーっ?」
「そ、それは…舞が」
「ひとのせいにする悪い子はおしおきですよっ」
 バチン!
「あぐっ!」
 バチン!
 佐祐理が平手でペニスをはたく。決して弱い力ではない。
「ゆ、許してくれっ…佐祐理さん、俺が悪かった…だから、後ろのを…止めて…くれ…」
 ペニスは叩かれる度に左右へ大きく振れたが、その度に力を増しているようにも見えた。
 ヴヴ…という音を立てて祐一の身体の中で蠢いているのは、細長い形状をしたバイブだ。ローションが塗りたくられていたとは言え、生まれてはじめて異物を挿入されたのである。挿入の瞬間は、子供のような悲鳴を上げていた。
「でも、最初に比べれば随分慣れてきたみたいですよーっ」
「そ、そんなことない…もう限界だ…だから」
「女の子のはじめてはもっと痛いんですよ。ね、舞?」
「さ、佐祐理…」
 佐祐理の向いた方には、舞の姿があった。二人の様子をじっと見つめながら、片手は乳房に、もう片方の手は秘部に当てている。そして、全身を大きく動かしながらの自慰行為に耽っていた。
 くちゅくちゅくちゅ、とひっきりなしの水音が響く。床は漏らした愛液が水たまりのようになってしまっていた。物欲しそうに二人の行為を見つめながら、二箇所の敏感な突起をいじくる。だが、ピンク色の大きな真珠のような陰核への刺激では、舞は完全に満たされることはない。舞の瞳は、とても満足しているとは言えなかった。
「さ、佐祐理、もう…祐一のが、欲しい…」
「だめですよ。舞も、もっとお預けです」
「ゆ、許して…頭が、変になる…」
「ちゃんと、祐一さんが変態さんなのを見て、何回もイカないと許してあげませんよ」
「佐祐理っ…」
「さてとっ…祐一さん、お尻の穴だけでも、もう出ちゃいそうでしょう?」
「そ、そんなはずないっ…」
「じゃあ、佐祐理の前で証明してくださいねーっ」
 佐祐理がさっきしたように、祐一のペニスをぐぐっと握る。
「う…ううっ」
「佐祐理は握っているだけですよ?全然、動かしたりしてませんからねっ」
 そうして十秒もすると、祐一が腰をよじらせ始める。
「あれ、どうしたんですか?祐一さんっ」
「な、なんでも…くっ」
「舞、祐一さんがイッちゃいそうだって言ってますから、よく見ていないとダメですよ」
 佐祐理がペニスをつかんだまま、ぐっと祐一の腹に近づけるようにする。
「さ、佐祐理」
「佐祐理さん…ゆ、許してくれっ」
「なんでですか?祐一さん、なんでもないって今言ったばかりじゃないですか」
 佐祐理がじわりと力を強くする。
「そ、それは…うっ…うっ、うーっ!」
 どびゅっ!
「うっ…」
 どびゅっ!びゅっ!どびゅっ!
 祐一の激しい放出は、佐祐理の指で向きをコントロールされて彼自身の顔に掛かった。
 びゅっ…びゅ
 やがて勢いを失ってくると、祐一の腹に力無く白い液体が落ちる。
「あははーっ、祐一さん、やっぱりお尻の穴だけでイッちゃいましたね」
「うっ…ううっ…」
 屈辱と、未だ中で蠢いているバイブの感触に、祐一は力無くうなだれつつ身体を震わせる。
「嘘つきさんにはお仕置きですよっ」
 バチン!
「うう!」
 再び佐祐理が平手で叩く。だが、その瞬間ペニスはむくりと頭をもたげた。
「祐一さん、叩かれて気持ちいいんですねっ」
「ち…ちが…」
 だが、みるみる間にペニスは勢いを取り戻してしまった。
「自分で出したのを全部舐めなくちゃダメですよっ。それまで、これです」
 佐祐理がポケットから何かを取りだした。
「や…!?やめてくれっ!」
「口答えすると、ふたつにしますよ」
「た…たの…」
 祐一の声の末尾がかすれて消えていく。
 ぐっ、と佐祐理が指でそれを開いて、ペニスにつけてから離す。
「ぐぅぅっ…!」
 洗濯バサミだ。
「はい、舐めてくださいねっ」
「……」
 ついに祐一は口答えすらせずに、口の周りに付いた自分の体液を一心不乱に舐め取り始めた。
「舞、ほら、祐一さん、こんなに変態さんなんですよ」
「………」
 だが、舞は全身から力を抜けさせて、ぐったりとしていた。どうやら、オナニーで達してしまったらしい。
「あははーっ、舞、一回だけじゃダメですよ。早く佐祐理を満足させないと、祐一さんのこれが立たなくなっちゃいますよ」
「う…佐祐理、ひどい…」
 舞は力無くつぶやきつつも、再び自分の秘裂に指を這わせ始めた。


7/21
「わーっ!わーっ!ノ、ノックぐらいして入ってきなさいよっ!!わっ、わっ、わーっ!」
 どたっ。
 真琴がバランスを崩してひっくり返る。
「…何やってるんだよ」
「あうーっ…祐一が何も言わずに突然入ってくるからでしょぉっ…あっ」
 尻餅をついたまま抗議して、それから開いていた脚を慌てて閉じる。同時に身体を丸くして、裸の下半身を全身で隠す。
「ス、スケベーっ!へんたいっ、祐一ーっ!出てきなさいよーっ!!」
 目を閉じて、全力で叫んでいた。
「…場所が変わっても結局言うことはおんなじなんだな」
「ほ、本当なんだから、仕方ないでしょっ」
 上目遣いに目を開ける。祐一が部屋の中に入っていくと、真琴は少しずつ身体をずらして、何とか露出している肌があまり祐一の目に入らないように努力していた。
「ち…近づかないでよっ」
「…なんだこりゃ」
 真琴の警戒とは裏腹に、祐一が目をやったのは真琴の後ろに置いてあった雑誌だった。つまり、部屋に祐一が入ってきた時に真琴が見ていた雑誌である。
「勝手に見ないでよぅ…」
 言いつつも、真琴は身体を隠す方で必死である。その雑誌を気にしつつも、手を出して押さえるというわけにはいかないようだった。
「俺の部屋に侵入できないから自分で用意したのか…」
「知らないっ…」
「お前みたいなガキに、よくエロマンガが買えたもんだな」
「ガキじゃないもん」
 よく見ると、部屋の隅にコンビニの袋があった。祐一が冗談でそういう本を買いに行かせた時は、間抜けな質問をする真琴を店員が何かの勘違いをした子供だと思ったのだろう。だが堂々とコンビニでそれを買っている人間に対しては、コンビニの店員がわざわざ気を使う事もないというわけだ。
「なんだこれ、女の子同士のじゃないか」
 開かれていたページには、制服姿の少女が惚けた顔で互いの身体をまさぐり合っている漫画が描かれていた。
「知らなかった。お前はそういう趣味だったのか」
「ちっ…違うわよっ!」
「じゃあなんでこんなページ見てるんだ」
「え…えっと…そ、その子がちょっと真琴に似てるかなって思ったから…」
 しどろもどろになりながら真琴が言う。
 確かに、ショートカットの少女の上に覆いかぶさっている少女の髪型は真琴に似ていたし、ややきつい目つきも少し似ているかも知れない。髪の毛が黒髪ではない事も真琴に近かった。
「だからってな…」
「あう…も、もういいでしょっ…出てってよぅ…」
「ううむ…」
 祐一の中には様々な判断が交錯していた。良心的な物、真琴の将来を考えたもの、好奇心、私怨、自己本位の物、etc。
「罰が必要だな」
「…なっ…なんで……そうなるのよぅ…」
 真琴は不服そうな顔をしつつも、どこか元気が無かった。
「これまで俺にあれだけイタズラを仕掛けてきて未だ反省をしていない真琴には、少し罰を与えなくちゃダメだと思わないか?」
「なっ、なんで真琴に聞くのっ…!?」
「だが痛めつけるのは忍びないし、怒ってもまるで効果がない」
「なに考えてるのよっ!」
「そう言えば、18歳未満でこんな本を買ったという事で、青少年条例への違反もある」
「ゆ、祐一もおんなじでしょ…」
「以上から導き出される結論は」
「い、いい加減にしなさいよっ、ゆういちっ!」
「俺の前で今やってた事を続けるということだ」
「……!……!………!」
 真琴は目をまんまるにして、何事か叫ぼうとした。だが声にならず、口をぱくぱくさせるだけである。
「じゃあ開始だ」
「バ、バカーーーーッ!祐一、最低っっっ!」
 ようやく真琴が思い切り叫ぶ。
「しないのか?」
「しないわよっ!」
「お前、立場を結構分かってないな」
「あ、秋子さんに言いつけたら、怒られるのは絶対祐一に決まっているんだからっ」
 少しは判断能力があるらしい。
「名雪もいるからな」
「…え」
「この本を持っていけば、名雪も納得するだろ」
「ゆ、祐一の本だと思うかもしれないじゃない…!」
「残念なことに、ここにレシートがある」
「だから何なのよぅ…」
「今日の日付がついてるだろ。今日家の外に出たのはお前と秋子さんだけだ」
「っ……!」
 今日の昼、祐一と名雪はずっと今でテレビを見ていた。その時、どこかそそくさと真琴が家を出ていくのを、祐一も名雪も目撃している。
「あの時お前の態度おかしかったからな。名雪も絶対納得するぞ」
「あ、あぅ…」
「あいつみたいな奥手の奴にとって、こういう本見てひとりエッチしている女なんて軽蔑の対象でしかないだろうな」
「あ…あぅーっ…」
 それは、嫌らしい。真琴が悔しそうな悲しそうな顔になる。
「や、やっぱり祐一みたいな変態と一緒に暮らすのが間違いだったのよっ…」
 真琴は歯をきりきりと食いしばりながらも、恐る恐るに上半身を上げて脚を開いていく。
 やがて、粘液にぬめった真琴の秘部が少しずつ露わになってきた。
「前は履いたまましてたよな」
「うぅ…」
 何事か抗議しようとするが、全く意味がない事に気づいたらしい。真琴は潤んだ瞳で祐一をにらんでから、指を股間に這わせていく。
「じろじろ…見ないでよぅ…」
「罰だからな」
「そんなの嘘なくせにっ…」
 だが、そう言うと同時に真琴は指を秘裂の中に差し込んだ。ついに観念したらしい。くちゅ…と水っぽい音が聞こえる。
「随分濡れているんだな」
「…見ないでよぉ…」
 真琴は祐一の目を見たり、すぐに慌ててそらしたり、落ち着かない素振りで指を上下に動かす。
「あ…あぅ…」
「感じてるのか?」
「そんなわけ…ないでしょぅっ…」
 しかし真琴の秘裂は、言う先から負け惜しみだと言うことが分かるような状態だった。たっぷりとあふれ出した透明な粘液は、真琴が指を動かす度に、まるで中からかき出しているように外へ出てくる。ぴたりと合わさった割れ目の中はあまりよく見えなかったが、外側の部分からも真琴の状態を十分過ぎる程に判断できる。
 祐一の部屋でしていた時はショーツの下にあって見えなかった部分だったが、明らかに前よりも性感の高まり具合が違う事は祐一にも理解できた。
「う…う…うぅ…あぅーっ…」
「なぁ、真琴、ひょっとして帰ってきてからずっとしてたのか?」
「ち、違うっ…んんぅーっ」
 真琴が息を荒くしながら答える。だが、よく見ると、真琴の周りの床は、かなりの広範囲に渡って何かの液体できらきら光ってしまっていた。出てくる答えはひとつしかない。
「…感心したな」
「……ひくっ…」
 真琴が少ししゃくり上げる。泣き出しそうな様子は無かったが、涙が出てきているのは間違いない。
「………」
 くちゅくちゅっ、くちゅくちゅ…
 不意に真琴が指の動きを速めた。
「我慢できなくなったのか…」
「も、もうこんなの早く終わらせたいだけよぅっ…!」
「すごいな…そこまでぐちゅぐちゅになるほど濡れているのか」
「…バカッ…!」
 真琴は短く叫んで、指をとある一箇所に当てて激しく動かした。ごく小さな円を描きながら、押しつぶしているような動きである。
「そこが一番感じるのか」
「…うっ…あっ…あうっ…あうぅっ…ふ…あっ!」
 ピン、と真琴の身体が伸びた。指を割れ目の中に差し込んだまま、全身をぐぐっと反らせる。顔には不安きわまりないといった表情が浮かんでいた。
 …ビクンッ!
 そして、一気に痙攣する。がくんっ、と真琴が身体を折って、ビクビクと身体を震わせる。
「あ…あぅーっ…あう…」
 責め抜かれた後のような憔悴しきった真琴の表情は、意外と大人っぽくも見え、しかしやはり子供っぽかった。
「ご飯よー」
「あ…」
 階下から聞こえてきたその声に、真琴が我に返る。
「だそうだ。俺は先に行ってるから、後始末してから来いよ」
「ゆ…祐一っ…はぁ…はぁ…今日の夜は…眠れないと思いなさいよぉっ…」
「…お前、意味を理解して日本語使っているか?」
「言葉通りよぅっ…はぁ…ぜはぁっ…」
 いっぱいに涙を浮かべた目で祐一をにらみながら、真琴は息を整えるのに必死だった。


7/20
「んんーっ、あ、あ…」
 押し殺した声が漏れていた。
 顔を枕に突っ伏して、お尻の方を高く上げた体勢。少女の年格好も考えれば、まるでそこを叩かれる事を予期しているかのような姿勢だった。
「あっ、あっ」
 佐裕理はなにひとつとして衣服を身につけていない。強いて言えば、髪をポニーテールにまとめあげているグリーンのリボンだけだ。鍵の掛けられる一人用の部屋を、この年で与えられているからこそ出来る格好である。
 実際、角度によっては、佐裕理のまるで未発達な秘裂がはっきりと見えてしまっている。そして、そこには細く小さな指があてがわれ、一生懸命に動かされていた。
「ん…ふぅ」
 逆の手は、膨らみなどまるでない胸の先端に当てられていて、優しくそこを転がしていた。そちらは副次的な刺激といった様子である。
「あ…あ」
 佐裕理は自分の最も感じる部分――あるいは、ほとんどそこでしか性感を感じられないのかもしれない――に指を当てて、無我夢中にいじめ立てていた。そこまでして大丈夫なのかというような、力加減もほとんどない責め立てである。自分自身のギリギリの所をわきまえて、気持ちよくなろうという意図があまり見えなかった。
 それでも、
「………!」
 ぷちゅぷちゅっ。ぷちゅ…
 佐裕理が顔を強く枕に押しつけたかと思うと、ピンク色の粘膜の間からとろりと液体があふれてきた。ほんの少しも濁っていない、少女の純粋な愛液だ。
「………」
 そして、恐る恐るといった様子で佐裕理がそこに指を近づける。その狭い膣孔は、少女の小さな指でさえ受け付けないように見えたが、
 …くちゅ…
「ああっ…」
 佐裕理は構わずに突き入れた。突き入れる瞬間は、慎重にというよりも、まるで別の力に衝き動かされているような、乱暴な動きだった。
 ぶるぶる…と佐裕理は震えていた。痛いのは間違いないだろう。分泌された愛液はごく少量だったし、あくまでイレギュラーなものだったようだ。それ以上に多く愛液が出てくる様子はない。
 だが、出血をしたりする様子はなかった。
「ご…」
 狭い狭い膣内で、佐裕理が指を前後に動かし始める。
「ごめん…なさいっ…ごめん…なさいっ」
 そして、声変わりすらしていない幼い声が、悲痛なつぶやきを漏らし始めた。にじんだ涙が枕に染み込んでいく。
「佐裕理は…わるい子です…」
 胸を撫でていた手が、代わって下りてくる。そして、先ほどしていたように、微少なピンク色の突起を懸命にこすり始める。
「う…うぅ…ごめんなさい…佐裕理はわるい子です…だから、かずや、もっといじめて…悪いお姉ちゃんを、もっといじめて…」
 枕に伏せた顔の向こうに、何を映しているのか。だが、佐裕理は言葉を吐いて自らを辱めていく中で、ますます指の動きを激しくしているようだった。もはや自分でコントロールしているようには見えない。佐裕理を動かしているのが佐裕理ではないようだった。
「う、うっ…いたいけれど…かずやの、きもちいい…お姉ちゃん、いけない子だから…きもちいい…」
 佐裕理は時折ポニーテールを振りながら、ぐっぐっと顔を枕に押しつけた。何かにむしゃぶりついているようである。現に、佐裕理は舌を出して枕の表面を舐めているようだった。
 細い腰が、少女とは思えないようないやらしいグラインドを見せている。
「だ、だめぇ…佐裕理、もうだめ…」
 ちゅぷ…
 また、透明な雫が生まれて挿入していた指に絡みつく。そして、
 ピクッ!
 佐裕理が一瞬身体をこわばらせた。
「………ん…はぁ、はぁ、はぁ…」
 そして、すぐに全身を脱力させて、ぺたりとベッドの上に身体を落とす。わずかばかりにあふれていた愛液がシーツの上に小さなシミを作ってしまっていた。ポニーテールの先端が、汗でべっとりと背中に張り付いてしまっている。
 佐裕理の感じたのはエクスタシーには程遠い感覚だったが、この年の少女がまがりなりにも恒常的に小さな絶頂を迎えられるという事実が驚異に他ならない。
 性教育の低年齢化と、自傷的な性格が生んだオナニーは…十年近くも続けられた後に、ひとつの帰結を産み出すのだろう。


7/19
「………」
 ほんのわずかな衣擦れの音だった。この部屋が沈黙しているからこそ聞こえてくるような音だ。だが、しゅっしゅっという、規則正しくスピーディな音は妙に存在感を持って部屋の中に響いていた。
 恐らくそれは、はるかがダウンベストとジーンズを身につけていたからだろう。どちらも、身体を動かすだけでこすれる音が立ちやすい衣服だ。
「はっ…くっ…」
 絞り出すような、小さな悲鳴のような声が漏れる。
 はるかの頬はうっすらと紅潮し、瞳は宙の一点をぼんやりと見つめている。だが、その普段の延長線上のようなぼうっとした様子とは打って変わって、はるかの手は素早く動いていた。
 自分の性器の上で。
「あ…」
 はるかがため息のような声を出して、かくんと頭を後ろに反らせた。柔らかい髪がふわりと動く。それでも指の動きは止まっていなかった。
 それから、思い出したようにさらっとした透明な愛液がにじみ出した。どこかシンプルな構造のはるかの秘部の中を伝って、蛍光灯に反射して光る。
 はるかは、ほとんど着衣を脱いでいなかった。ジーンズのチャックを下ろして、ショーツをチャックと同じくらい左手で押し下げているだけである。ダウンベストも、外で歩くときのままの状態だった。
 指は、一箇所だけを集中してこすっている。秘裂の一番上端のところだ。ほとんどヘアも生えておらず、中の襞もあまり発達していないはるかの性器の中で、そこにある米粒ほどの突起が目立っていた。
 その部分を、人差し指と中指が交互にこすり立てる。そのリズミカルでスピーディな動作の度に、服が乾いた音を立てていた。
「お…」
 はるかが切なそうに目を潤ませる。頬の紅みが心なしか増したようだった。
「…お兄ちゃんっ…お兄ちゃんっ…」
 きゅっ、とはるかは目を閉じてしまった。片目から、涙の一粒がこぼれて頬を伝う。自慰から来る快感のためだけではないだろう。
「お兄ちゃんっ…」
 どこかボーイソプラノを感じさせるようなはるかの声だった。高くうわずった声は普段とは全く違う女性的なものなのだが、それでもどこか中性的な色を残さずにはいられない、はるかの声。
 はるかが突起を擦るスピードが一層上がる。はるかは恍惚としたような、悲愴なような、複雑な想いを内包した表情になっていた。
 どこか機能的なようでいて、自己主張しないセンスの良さが随所に込められているようなはるかの部屋。まるで気の利いた一人暮らしの男の部屋のようだ。
「お兄ちゃん…私っ…私っ…」
 こんなに余裕のない、高いトーンの声ではるかが「私」と述べる事などない。この部屋以外では。
 今行われているのは、はるかにとって、絶対に他人に見せる事が出来ない、内反射的な場だった。
「う…うぅ…」
 少しずつ量が増えてきた愛液が、ショーツを押さえつけているはるかの左手にたらりと触れる。はるかの指が、とどめとばかりに自分の突起をぐりぐりと激しく責め立てる。
 はるかが、はぁっ、はぁっと荒い息を上げながら、背中を反らせていった。
「んっ…お兄ちゃん…お兄ちゃん…私をっ…!」
 最後に、二本の指の先で強烈にバイブレーションを加えた。
 ……びくっ…!
 ぐぐっ…と身体を硬直させてから、観念したようにはるかが小刻みに身体を震わせる。
「お…おにいちゃ…だ…だめ…こない…と…や」
 ぴく…ぴく…と痙攣し、なおもあふれ出す液体を左手でなんとか受け止めながら、はるかはしばらく動く事もできなかった。


7/14
「おいおい…」
 思わず祐一は小声でつぶやいていた。
 直後にしまったとばかりに口を押さえるが、それでも全く真琴は気づいた様子がない。
 真琴はベッドの上で四つん這いの姿勢だった。ちょうど祐一からはスカートの方が見える。そして真琴の顔の横辺りに積まれているのは…祐一が隠しておいた雑誌だった。
 クローゼットやら机やらの引き出しは泥棒でも入ったかのように開けっ放しにされている。部屋に入ってきて、手当たり次第に探したのだろう。いたずらに使える何か、あるいは隠してしまっていたずらにする何か。
 確かに、あの本達が真夜中にリビング辺りに移動させられていたなら、祐一はしばらく秋子に頭が上がらなくなっただろうが…
 すり…すりすり…
 服の生地が擦れる音が聞こえてきている。真琴のスカートの下で、真琴の指が動き回っているのは明白だった。不自然な体勢ながら、差し入れた手は一生懸命に動いているようだ。
 最初に祐一が声を出してしまったのは、真琴の指が服の生地の上で動くすりすりという音が一端途絶えて、ごそごそという音が聞こえてきたからだ。恐らく、その時にショーツの中に指を入れてしまったのだろう。
 ぺらっ…
 真琴が一瞬指を止めると、左手で本のページをめくる音がする。
 そして、真琴は一層激しく指を動かし始めた。勢いのあまり、スカートがめくれて見えそうになったり、ずり下がってきたショーツの端が見えたりしてしまっている。
「あ…あぅ…」
 真琴が小さく声を漏らす。それ以来、指を動かすときにする音はすりすりという乾いた音ではなく、ぬちぬちという濡れた音になった。
 あ…あいつ、前からこんなことしてたのか?
 祐一も、さすがに呆れて見ているというだけでいる余裕がなくなってきた。ズボンの下で、分身が頭をもたげてきているのがわかる。
 特に考えずに真琴はこういった方向に疎いと決めつけていたが、どこの馬の骨とも知れないのだから、見かけによらずという可能性も否定できない。
 祐一の視界には、くちゅくちゅという水音とリズミカルに揺れる真琴のヒップがあった。まるで祐一を誘っているかのように。
 でも…
 祐一は自問する。
 こういう事に詳しい人間が、男の部屋に忍び込んでエロ本漁ったりするか…?
 祐一は真琴の事をじっと観察した。表情は全く見えない。しかし、その向こうに妖艶な笑みを浮かべた真琴がいるとはとても思えなかった。戸惑いと恥ずかしさでいっぱいになったまま、食い入るように本を見つめているとしか思えない。
 くちゅくちゅくちゅ…
 真琴は指を動かすピッチを速めていた。身体を前傾させるようにして、ほとんどあごがシーツについてしまっている。
 ………
「いや、なかなかいいものを見せてもらったな」
「えっっ!!?」
 部屋に足を踏み入れた祐一に、真琴は電光石火の速度で振り向いた。
「あうっ……わ、わわ、わーっ、祐一〜〜〜っ!」
 真琴は向き直ろうとしたが、足を絡ませて無様に転ぶ。取り乱しきっていた。
 ベッドの上で、真琴は尻もちをついたまま祐一に真っ正面から向き合う体勢になってしまう。
「あっ、あうっ、あ…だ、だめ…」
 かくんっ。
 真琴が首を折って、ぴくぴくと身体を震わせ始めた。
「あ?真琴?おい?」
「う…あぅ…」
 ビクンッ…
 真琴が、ひときわ大きく体を痙攣させた。そしてもう二、三度震わせてから、ぐったりとする。
「あ…はぁぁっ…」
 どうやら、祐一が声をかける直前に、崖っぷちまで来てしまっていたらしい。行為をやめても、絶頂に達するのを止められなかったのだ。
「…真琴、思いっきりパンツ見えてるぞ」
「えっ…見、見ないでよぅっ!祐一、スケベ、変態っ!」
 だが、祐一はそんな言葉をかけてしまっていた。真琴が両脚を閉じて、祐一のことをにらみつける。ぐしょ濡れのショーツは、一応祐一の前から見えなくなる。
「真琴の方がよっぽど…」
「あっ、秋子さんに言いつけてやるもんっ」
「それって、墓穴を掘るってわかってるか?」
「………お、覚えてなさいよぅ」
 その前にどうやって真琴の自慰を秋子に証明するかなのだが、真琴はすごすごと引き下がってしまった。ふらふらしながら立ち上がり、ドアから出ていく。
「やれやれ…」
 生まれて初めて女の子のオナニーと絶頂を目の前にしたというのに、全く感慨もなかった。
 祐一のベッドに残ったのは、少々のシミと、自慰をしている少女の写真が載っている雑誌の一頁だった…


6/29
 ぐちゅっ。
 琴音がブルマを半分下ろしてそこに指を入れてみると、もはや誤魔化しようの無いほどに恥ずかしい液体があふれ返っていた。
「……」
 嫌悪に顔を歪めながらも、琴音は指で秘裂の中をかき回し始める。ちゅぷちゅぷ、ちゅぷっという派手な水音が立って、甘美すぎる感覚が琴音の背筋を這い上がっていった。それでも、琴音は少したりとも愉悦や淫乱の表情を浮かべる事はなかった。ブルマや体操服が愛液で濡れるのを神経質そうに避けながら、黙々と指を動かしている。
 だが本人の意思を無視して、愛液はとめどもなく生まれ。滴り落ちるのを防げ無さそうになってくる。薄暗い校舎の裏の空間に、甘い愛液の香りが漂い始めた。
 ごそ…
 やむなく、琴音はブルマを完全に下ろし、アスファルトの上に四つん這いの姿勢になって指を繰り始めた。あふれかけていた愛液が、堰を切ったようにたらりたらりと糸を引いてアスファルトの上に落ち始める。
 片手と両足で体重を支えながら、琴音は右手を必死に動かしていた。恥辱感を感じながらも、琴音は自らの敏感なポイントに可能な限り強い刺激を与える。校舎の裏とは言え、誰も来ないとは言い切れないのだ。自分を出来る限り速く追いつめなくてはならないのだ。
 くりゅっ…くりくりっ
 聴覚を最大限に研ぎ澄ませている琴音の身体は、性感においても鋭くなっていたようだった。ついに琴音の身体が解放される瞬間が近づいてくる。琴音は絶対に認めようとしなかったが、それは白昼の野外自慰という異常な状況が生んだ興奮であったかもしれない。
「………!」
 琴音は顔をぐっと下げ、歯を噛みしめながら最後の刺激を与えていく。
 びくっ…!
 ぷぢゅっ。
「ふぁ…!」
 琴音がかすれた声を上げたのと、痙攣したのと、液体が勢い良く噴き出したのは同時だった。
 力つきたように、琴音はアスファルトの上に倒れる。秘部をべっとりアスファルトにつけているのも気にしなかった。
「ふじた…さん」
 たかだか小さなケンカで数日会っていなかったことと、琴音の超能力がまだ完全にはコントロール出来ていないこと。琴音のわがままが生んだ、あまりに皮肉な罰だ。クラスメイトの女の子達の前で気づかれないながらも秘裂を濡らし、こんな所でオナニーに耽る羽目になったのだから。
 バレーボールをしているコートに帰る気力は、なかなか琴音には戻ってこなかった。


6/24
「はぁっ…」
 投げやりな声が、部屋の中に響く。
 壁を覆い尽くすように貼られたポスターはほとんどがミュージシャンのもの、アイドルからロックバンドまで、男だろうが女だろうが関係なく貼られている。共通性があるとすれば、今売れているミュージシャンに限られているという事だろうか。
 カラーボックスの中には雑誌が所狭しと並べられている。それから、手帳が何冊も並べられていた。色彩で言えばひたすらに暖色系、ピンクやらオレンジやら赤やら、そんな色ばかりだ。
 志保が机の上に広げているのは、その中の雑誌のひとつであるようだった。表紙だけ見れば某女性アイドルグループの写真が載っているし、表紙に書かれている記事のタイトルを見ても、芸能界の話と思しきものがほとんどである。しかし実際の雑誌の中身は、ほとんどが性の話で占められていた。読者の体験やら初体験の注意やら、要するに女子高生、女子中学生を主なターゲットとしたセックスの雑誌である。
 志保はそこにある投稿記事のひとつをながめながら、指をうごめかせていた。ジーンズのチャックだけ開けて、ショーツの中に無理矢理右手の指をねじ込んでいるという感じである。
「はぁ…」
 また大きく息をつきながら、志保はページをめくる。
『カレの指がぎごちなく私のアソコに』
 必要以上にカナ書きを多用している文体も、むしろ志保にとっては情景をリアルに描写するものらしい。動作自体は投げやりだったが、志保の頭は妄想に冒され始めているようだった。
 志保は指を動かしている内に、段々と身体の高まりが押さえられなくなってくるのを感じる。しばらくはそのまま我慢していたが、ついに志保はジーンズとショーツを大きく脱いで、剥き出しのヒップを椅子に直接乗せる状態にしてしまった。
 我慢したぶんを取り返すように激しく指を動かすと、すぐラブ・ジュースがあふれ出してくる。服を濡らす心配が無くなった志保は、それに構わず秘裂の中をかき回した。液体のはぜる音がぴちゃぴちゃと立てられる。
『クリちゃんを触られた時、ズーンって』
 ぐりっ。
「あ…ヒロ」
 志保は夢想した声を上げながら、陶酔した顔で良く発達した性器官をまさぐり続ける。
『カレが、「いいか」って耳の近くで』
 一瞬指の動きを止めた。しかし志保にとってそれは実行に移せない行為だった。結局突起を激しくこするだけで満足するしかない。
「ん…ヒロっ、ヒロっ」
 志保は雑誌を閉じて目を固くつぶり、自分の指を錯覚することを試みた。慣れた動作で上下左右に往復させるうちに、その幻覚は段々形を結び始める。
「い、いいっ、ヒロ、もっとっ」
 椅子に腰を押しつけ、喉を反らせる姿は本気で快感をむさぼっているという事をよく表すものだった。次第に志保は身体の中の熱が抑えきれなくなり、意識がかすれてくるのを感じ始める。
「も、もうダメっ…」
 志保はピクン…と身体を跳ね上げて、意識を飛ばした。
「んふぅ…」
 満足げな声を出し、志保は力つきたように椅子に腰を落とす。そして、薄く目を開けて机の上のティッシュに手を伸ばした。
 自ら秘裂を清めている動作の中で、志保は空しさと新たな性欲の高まりを同時に感じていく。
「ヒロ…あかり…」
 計画を実行に移すべきか、移さないべきか…普段から大胆な志保とは言え、容易には決断できないことだった。




6/7
 ぶ…
 低い振動音が響き始める。
 震えているのは、苺を象(かたど)った自慰用の玩具…つまり、ローターだ。普通の苺ならば極めて大粒であると言わざるを得ないが、きちんと苺の形をしている真っ赤なローターである。
 震えるそれをつまんでいるのは、名雪。
 だが、本来独りで楽しむべきこの状態を見ている人間がいた。祐一だ。
 上半身はシャツだけという姿にされ、下半身からは全ての着衣を取り去った状態。名雪はそれでベッドの上に座っている。両脚を固く閉じているために秘部が直接晒される事は無かったが、ほとんど裸に等しい格好だ。
 そして右手の指でローターをつまんだまま、名雪はずっと逡巡していた。低いモーター音だけが名雪の部屋に響いていく。祐一はそれをじっとながめていた。
「…や、やっぱりできないよ、祐一」
「何を言ってるんだ」
「お願い、許して」
「あのなぁ、名雪」
 祐一はそれらしく腕組みをして名雪の事を見下ろす。
「別に、秋子さんの目に入るところにそれこっそり置いておいてもいいんだぞ」
「えっ…」
「びっくりするだろうな。さすがに秋子さんでも」
「だ…だめっ!!」
 名雪が身体をこわばらせながら叫ぶ。
「だったら、諦めるんだな」
「ひ、ひどいよ…祐一…こんな事する人間だと思ってなかったよ」
「俺も、名雪がこんな事する人間だと思ってなかった」
「………」
 墓穴を掘った名雪は、絶望的な表情で右手に震えるそれを見つめる。
 そして、唇を噛みしめながら両脚をゆっくりと開き、姿を現した秘部にローターを近づけていった。どこかあどけなさの残る名雪の顔、それなりに成熟した名雪の身体、真っ赤なローター。その対比はひどくエロチックだった。
「そ…そんなに、みないで」
 少女として、最も恥ずかしい行為…
「わかってると思うけど、隠すなよ」
 名雪の懇願も全く受け入れられない。
「それから、目を閉じるのも駄目だ」
「そんな…」
 恥辱に染まった表情を浮かべながらも、名雪は露わになった自らの秘部を見つめざるを得ない。
 そこに、名雪はローターをそっと這わせていった。表面をくすぐるような、微かなタッチである。それでも、モーター音がわずかに低くなった事で名雪の身体に振動が伝えられているのははっきりわかる。
 そのあまりに直接的な刺激を受ければ、見られているという異常な状況下でも性的な感覚を感じずにはいられない。眠っていた神経が目を覚まし、段々と名雪の身体を熱くしていく。
 身体に一度火がついてしまうと、収まる事はない。名雪がいかに刺激を小さくしようとしても、少しずつ快感が蓄積されて名雪の判断をおかしくしていく。いつものように快感をむさぼりたいという欲望が、ちろちろと頭をもたげてくる。
 もちろん、祐一が見つめているという事態は変わらなかったのだから、名雪はそう簡単に意識を暴走させる事はしなかった。だが、そのために我慢が我慢を呼び、名雪はどんどん追いつめられていく。表面を撫でているだけなのに、普段感じないような、今にも爆発しそうな欲求が風船のように膨らんでいく。
「名雪…濡れてるじゃないか」
「え…!」
 唐突に声をかけた祐一に、名雪は驚く。
 次の瞬間、それが紛れもない事実である事を知り…名雪が必死で耐えている間に、シーツにシミを作るほどに愛液は垂れてきていたのだ…名雪は顔を真っ赤に染めた。
「我慢するなよ」
「………」
「思いっきり、やっちゃえよ」
 普段想像もしていなかった、残酷な言葉…
 それが名雪の何かを壊した。
 ヴゥン…
 名雪は、ローターを秘裂の中に押し込む。
「うぅ…!」
 待ち望んだ快楽が生まれた。ローターは無造作に名雪の秘裂を割り開き、先端がクリトリスに触れて強烈なヴァイブレーションを加えていく。既に固く張りつめていたその部分は、名雪に激烈な快楽を与えていった。
「あ…ああっ」
 名雪は指でつまんだローターを小刻みに操る。愛液でべとべとになった秘裂の中で、ローターは自在に動いて名雪の性感を刺激した。ぷちゅぷちゅというくぐもった水音が響きわたる。名雪はもはや祐一のことを見ていない。ただ、いつもしているような自慰行為に耽っていた。
 あっという間に快感は膨れ上がり、名雪は限界まで近づいていく。我慢を重ねた分、膨れ上がった快感は圧倒的だった。
 祐一が何か揶揄の言葉を口にしたが、名雪にはまるで聞こえていない。身体をばたんとベッドに倒し、無茶苦茶にローターで秘裂をかき回す。
「…………っ!!」
 そして、背中を大きくのけぞらせて、身体を硬直させた。
「は…あ…はっ…」
 ぽと…
 何も考えられなくなった名雪の手から、力つきたように濡れそぼったローターがこぼれ落ちた。




6/12
 薄暗い部屋。二枚重ねにされたカーテンのうち、薄いベージュのカーテンだけが閉められている。外からはほんの少しだけの光が差してきている。それを見れば、外はよく晴れているだろう事は容易に想像できた。
 その部屋の中にいる栞の姿は、普段ならば暗く沈んだものに見えたものだろう。
「………」
 今のように、手で秘部と胸をまさぐっているような状況でさえなければ…
 栞の手はブラウスの裾とスカートの裾からそれぞれもぐり込んで、服の下でモゾモゾとうごめきながら刺激を加えていた。決して指を自由に動かせるような状況ではないのだが、栞はふにゅっ、ふにゅっと空白を挟みながら瞬間的に強い刺激を与え続けている。
「あ…ふぅっ」
 栞が、こてんと頭をベッドにもたれさせた。天井を見つめるようにしながら、同じようにゆっくりとしたペースで性感帯を刺激していく。
「んぁ…」
 目を閉じ、艶めかしい声を上げながら、身体をよじらせる。脳裏に浮かんだ妄想はどのようなものなのかわからなかったが、自ら声を上げている事でその妄想を演出している事は間違いない。栞は色素の薄い肌をうっすらと火照らせながら、口を小さく半開きにする。
「あっ、あっ…」
 高くかすれた声を上げながら、栞が段々腰を持ち上げていく。そして、ぐぐっ…とベッドをこすり上げるようにして首を横に曲げた。妙に「ねばっこさ」を感じさせる動作である。栞の容姿の幼さと相まって、そこにはむせ返るほどのエロティックがあった。しかし、すっきりとしたショートカットのせいか、その仕草はただの鈍重に貶められず、どこか清潔な爽やかさを失っていなかった。
「あ…あーっ…」
 栞が、腰をいよいよ高く上げて、左右によじらせる。それを追いつめるようにして、秘部にもぐりこんだ指の動きは最大限まで強められていた。暗闇の中で捉えられたクリトリスが、強引なまでに転がされ刺激される。
「あっ!」
 ひときわ高い声が響き、栞はがくんと腰を落とした。
「はぁ…はぁ…」
 がちゃ…
「………!?」
 びくんっ!と身体を跳ね上げ、栞はドアの方を見やる。両の手が慌てて服の下から取り出される。
「………」
 ドアを開けて部屋の入り口から栞をのぞいていたのは…香里だった。半分だけ開けたドアの向こうから、軽蔑したような視線が見下ろしている…
「あ…」
 栞は何か力つきたように、手を床に下ろしていった。右手の人差し指だけは、愛液で未だぬらぬらと光っている。
「あんまり、そんな事してるとバカになるわよ」
 ばたん。
 冷たい声と共に、香里はドアを閉じた。
 かくん…と栞は頭を垂れ、あまりに惨めな自らの状態に一人涙していった。




5/30
 かちゃ。
 ドアのカギを掛ける。緑色の表示が赤に変わり、確かにドアが閉められている事を示していた。あたかも、ここで今から何かが為されるという事を内部の人間に知らせるかのように。
 それを知っているのはこの約1m四方の空間にいる人間だけだった。もっとも、こんな狭いところに、複数の人間がいるわけもない。ここにいるのは藍原瑞穂ただひとりなのだ。
 彼女はもどかしそうにスカートのホックを外し、下に下げる。ショーツも同じように下げる。そして和式の便器に座った。公立高校だけあって、この学校には未だにひとつも洋式のトイレがないのだ。
 しかし、その体勢になっても瑞穂の性器から排泄が行われる様子は一向に無かった。だが、足を開いた事によってぱっくりと露わになってしまっている秘裂の間から、何も出てきていないわけではない。そう、尿などよりも数倍も性的な液体が分泌されていたのだ。
 瑞穂はその体勢のまま、しばらくじっとしていた。どうやら耳を澄ましているらしい。だが、今は授業中でもあり、トイレに誰か来るような様子はなかった。
 そして瑞穂は眼鏡を取って、床に置く。
 次の瞬間、瑞穂は左の手で水のレヴァーを押していた。同時に右の手が秘裂に伸びる。
 ジャーっ…
 特有の激しい水音。その音に隠れるようにして、瑞穂は秘裂の中に忍び込ませた右手の指を激しく動かした。緩慢な動きなど必要ないほどに、瑞穂の秘部は潤っている。よく見ると、下ろされたショーツの生地にもじっとりとした愛液のシミが出来てしまっていた。
 クリトリスの包皮を剥いて、ぐりぐりと転がしたり、ヴァイブレーションを加えたりする。レヴァーを下ろした左手もオナニーに加えると、ヴァギナにかぎ状の指を侵入させて一箇所を集中的に撫で回す。ぷぢゅ、ぷぢゅっと吹き出すようにして愛液が垂れ、トイレの水流に飲み込まれていった。
 そして水流が収まる頃、瑞穂は大きく身体をのけぞらせてびくびくと痙攣する。頭に痺れるような感覚があり、瑞穂は絶頂した。
「あ…はぁ」
 ひととおり満足したような声が上がる。
 しかし、一度この痺れるような感覚が生まれると、そう簡単に逃れられない事を瑞穂は知っていた。真夜中の性宴だけでは満足できなくなっているのだ。生徒会の中で繰り広げられる、男女関係無しの性交が始まるまで、渇きをこうして癒さなくてはならないのだ。
 瑞穂が再びレヴァーに手を伸ばすまで、そう長い時間はかからなかった…




5/26
 カッカッカッ…
 数式が黒板に次々と書き込まれていく。大半の生徒はそれをぼんやりとながめており、ごく一部の人間だけがそれを律儀に書き取っている。芸のない数学授業の典型だった。
 寝ている生徒、膝の上に置いたマンガを読む生徒と授業のやり過ごし方は様々だった。教室の最も左後ろの席に座っているあかりは…左手だけで持った、机の上の教科書にぼんやりと目を落としているようだ。
 いや、視線はもう少しあかりの身体に近い方に向けられているようにも見える。
 その原因は…少し注視してみれば明白だった。膝の上に置かれているように見えた右手は、実際にはスカートの中に潜り込んでいたのだ。目的もすぐにわかる。スカートの生地はちょうど足の付け根のあたりで盛り上がって、不自然なうごめきを見せているのだ。
 動きは非常に緩慢だったが、責めているのは核心の部分、あかりが最も感じることのできる部分だった。
 その刺激を、授業が始まってからすぐ始めたのだから、あかりの身体には隅々に性感が行き渡ってしまっている。乳首もブラジャーを突き上げるように尖っており、切なすぎる刺激をあかりに与えていた。
 あかりは落ち着かなさそうな表情で、しきりに隣の席をうかがう。その席には浩之が座っていた。浩之は何事もないような、飄々とした表情であかりの事を見ている。真横から見ているのだから、あかりの行為に気づかないはずはない。
 だが浩之は特に興味のあるような素振りは見せていなかった。しかし、視線をそらす事もしなかった。
 あかりは今にも誰かに気づかれるのではないかという危惧に震えながら、それでも行為を続けざるを得なかった。最低でも絶頂を一回迎え、かつショーツを愛液でぐっしょりと濡らさなくてはいけないのだ。
 びくっ…
 不意にあかりが痙攣し、かくんと頭を垂れる。
 キーンコーン…
 ほぼ同時にチャイムが鳴り響いた。
 「間に合った」という安堵感と、これから始まる褒美の期待に胸を高鳴らせつつ、あかりは席を立つ。
 椅子の上にはぬらりとした愛液のたまりが出来てしまっていた。