Daily-EROtic はるか

12/26
「ん……」
 はるかの額に手を当てながら、冬弥は身を低くして口づける。
 ………
「熱、移っちゃった…」
「大丈夫だろ、これくらい」
「移っちゃった」
 はるかは布団の中から手を出して、口元を指二本でつぅっとぬぐった。
 それを見つめながら、冬弥は自分の額に逆の手を当てる。
「…平熱だ」
「私、平熱低いから」
「3分や5分違うからってそうそう変わらないだろ」
「変わるよ…」
 はるかは額に当てられた冬弥の手の上にぴったり手を重ねて、それからずずずっと横にずらそうとしていく。
「…冬弥、痛い」
 しかしその手は動かない。
 はるかは、しっかりと額を押さえつけている冬弥の手をわざわざ無理な力まで入れて動かそうとはしなかった。
 …むにゅ
 冬弥はそのままはるかの頬に手を移動させて、頬を指でつまむ。
「………」
 むにゅー…
 両手を使って、頬を左右に伸ばしていく。
「病人なのに」
「あんまり関係ないって」
 言いつつも、さすがに冬弥はバカらしくなったのか手を離した。
「腫れちゃった…」
 はるかは自分の片方の頬だけに手を添えてさする。
「それで、冬弥ガマンできないの」
「…なんでお前は突然ストレートに言うんだ」
「私、いつも通りだけど…」
「じゃあ、いつも通りしたくないってことか?」
「んー…」
 はるかは頬をさする手を止めて考え込む。
「別に、普段もそんな風には思ってないけど…」
「…そーか」
「冬弥、結構気にしていたんだ」
「そうじゃないかって思うんなら、気を使えよ…」
「ふぅん…演技した方が良かったのかな」
 顔色一つ変えずにはるかは言ってのけた。
「……俺が悪かった」
「あはは…私も少し悪かったかも」
 はるかは顔の端に笑みを浮かべながら、冬弥の髪をひとふさつまんでいじくる。
「………」
 冬弥は少しだけ満足そうな顔をしながら、同じようにはるかの髪をつまんでいじくった。
「ねぇ、冬弥」
「ん」
「風邪移っても、お見舞い行ってあげないからね」
「俺は来てやったのに…」
「冬弥の責任だし」
「…ま、いいけどな」
 二人は同時に互いの髪から手を離す。

 熱っぽい体温に満たされた布団の中で、冬弥とはるかは最低限に服を脱いだ。パーカーすら脱がなかった冬弥とパジャマ姿のはるかでは着ている服の量が違いすぎたが、それでも交わるのに必要なだけ着衣をずらしていた。
「いくぞ」
 冬弥ははるかの柔らかな熱に覆われた部分へと、ゴムに覆われたペニスをあてがう。
「うん」
 はるかは発熱のぼんやりとした瞳に戻って、そう言った。
 くちゅ…
「あ」
「どうしたの?」
「はるか、今日は濡れてる…」
「良かったね」
「お前そんな、人ごとみたいに」
「嬉しくない?」
「嬉しい…けど」
 くちゅりっ…
 冬弥はいつもよりもずっと滑らかなはるかの部分に、戸惑いつつも己の分身を挿入していく。
「んっ…ふ」
 はるかはパチンと目を大きめに広げて、口元を少し開いた。
「う…」
 ずちゅぅ…という濡れた感触と共に、冬弥のモノははるかの奥にまでたどりつく。
「どう?」
「な、なんだか…いつもよりいい」
「そう…」
 はるかは実にナチュラルに、自分の前髪をさらりと横に流して、その流した方向へと目をそらした。
「動くからな」
 ずちゅっ…ずちゅ
 抜き差しする動きも、いつもよりも相当にラクだった。
 ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ
 冬弥は次第にリズミカルな動きではるかの身体の深部を突き始める。はるかの身体は薄青いシーツの上で少しずつ移動していたが、身体が動きすぎると元の位置にまで身体を戻していた。
「んっ…はるか」
「…冬弥」
 ぬるぬるとしたはるかの柔い膣壁が、普段とは段違いの優しいタッチでペニスを締め上げてくる。冬弥は心地よさと同時に不安感すら覚えてしまい、はるかの手をぎゅっと握りしめた。
 ぎゅ、ぎゅ…と握りしめる間に、はるかも冬弥の手を握り返してくる。冬弥はそうしている間に安心感が高まってくるのを感じた。パーカーを着たままの重い身体のせいか、はるかと普段と同じように接しているような気すらしてきた。
「………」
 反対に、はるかの方は少しずつ顔に不安そうな色を強くしてきている。
 初めの内は冬弥の手をより強く握り返す事でその不安感を解消しようとしていたようだったが、段々とその握りしめる力は弱くなっていった。
 そうすればそうするほどに、自分の吐息が上がっていってしまうことに気づいたのだ。
「はるか…やっぱり、いつもと違うな」
「…冬弥」
 はるかは改めて冬弥から目をそらす。
 上気した頬は、発熱のためだけでは決してないようだ。はるかの身体は、確実に冬弥の動きに反応をし始めている。公園でじゃれている時のように普段着ないつものSEXとは、確実に何かが違っていた。
 ずちゅっ、ずちゅ…ずちゅっ!
「う…は、はるか…」
「………」
 冬弥がはるかの中を勢い良く突き続けると、はるかはそれから逃げるように身をよじらせた。しかし冬弥ははるかの腰をつかんで、何度も何度も強い打ち込みを行い続ける。
「…はるかっ!」
 …びゅっ!
 冬弥はゴムの中に欲望を吐き出した。
 びゅっ…びゅっ…びゅっ
「………!」
 それと時をほぼ同じくして、はるかは切なそうに目を閉じていく。
 びゅ…びゅ
「え…はるか…?」
 唇を濡らして表情を宙に泳がせるはるかの顔は、冬弥の見たことがない繊細なものだった…



10/11
「………」
 芝生の上。日差しが差してきていて、それなりの温かさがある。もうそろそろ長袖がいらなくなるくらいの季節だ。春のなだらかな陽気と、初夏の青葉の爽やかさが同居しているような匂いがする。土の匂いがする。
 それを十分満喫できるほどに、公園の中には人が少なかった。ちょっと離れた所からの鳥の声がここまで素直に届いてくる。平日の10時過ぎ、とても中途半端な時間だ。
 どこから見ても、冬弥とはるかはヒマを持て余している大学生、そして恋人同士だった。公園の中に走る小道から少し外れた所、椿の木の近く。冬弥は足を投げ出して芝生の上に座り、その上にはるかが頭を乗せて膝枕でうたた寝をしている。そんな平和な光景だった。
 ぬちゅ、ぬちゅ…
 もし本当に近くまで寄らなかったなら、仲がいい恋人としてしか見えないだろう。
 通りかかった人間は、二人を子供っぽい恋人だと思いこんで、はるかの頬が少し膨らんでいることも唇がせわしなく動いていることも見逃してしまうだろうから。
 ぺろぺろ…ぬりゅん…
 鼻から、すんすんという子犬のような息を漏らしながらはるかは口を動かしていた。不自然にならないように根元まで完全にくわえこんでいるため、使えるのはほとんど舌だけだ。あとは口でぎゅぅっと締め付けるくらいしかできない。はるかは外見上の変化が現れないようにしながら、できる限りの激しさで舌を動かす。
「はるか…」
 冬弥がはるかの髪に指を通して、さらさらと撫でた。ナチュラルなつややかさを感じさせる髪の毛は冬弥の指の動きに素直に従ったが、額の辺りは汗でしっとりと濡れてしまっている。
 はるかは目を閉じて眠ったフリを維持していたが、次第に身体が熱くなってくるのは隠せない。ぴっちりとしたロングTシャツとタイトジーンズの下では、自転車で走ってきた時とは全く違う熱っぽさが生まれてきていた。
 ぺろぺろ…
 ペニスの先の部分を一生懸命に舌で転がしながら、はるかはこっそりと腰を芝生に押しつける。ちくちくと突き刺さりそうな芝生の感触が、少しだけジーンズを通して興奮した部分に伝わってきた。
「自転車のサドルってさ」
 冬弥が独り言のように言う。
「結構、まずい部分に当たるんだよな。男じゃなくて、女だと特に」
 ぺちゅ…ぬりゅ…
 髪の毛をくしゃくしゃとかき回されながら、はるかは密閉された服の中に煩悩が沸き上がってくるのをこらえる。全身に服が張りつくように密着しているのが、不自然なほどはっきりと感じられた。発散できない煩悩は圧力を高め、はるかの欲望をジンジンと煽る。しかしはるかは固いジーンズの生地越しに、遠回しな刺激を感じることしかできなかった。
「MTBでもガタガタ道だと結構揺れるだろ?」
「………」
 ぺろっ…ぺろ…
 自転車に乗っていた時の感触が頭の中にありありと浮かび上がってきてしまう。
「はるか、濡れてるな」
「………!」
 はるかは首を横に振ろうとしたが、万が一人が通っていたらという事を考えてできなかった。しかも、
 ぷちゅ…
 その冬弥の辱めの言葉がきっかけとなって、ついにはるかはショーツを恥ずかしい液体で湿らせてしまう。もう否定することすらできなくなった。
「乗っていたときから…それとも、家を出るときくらいからずっとか」
 空の雲でもながめているような透明なまなざしをしながら、冬弥ははるかを辱める言葉を口にする。
 ぺろ、ぺろ
 はるかは閉じたまぶたの中で涙を潤ませるが、それを冬弥に見せることすらできない。ただ無心に、冬弥のペニスをぐちゅぐちゅとあたたかな口の中で揉み転がす。
 ぶぴゅっ…
「…!」
 何の前触れもなく、冬弥のペニスが脈動した。
 そしてゼリーが爆ぜたようなけだるい射出が起こり、どろっとした液体がはるかの口内に吐き出される。
 ぴゅっ……ぴゅるっ
 こく…こくん
 淫行を第三者に悟られないためには、はるかは一滴たりとも零さずにそれを飲み込まなくてはならなかった。スポーツをしても日焼けの目立たない白い喉が震えて、熱い精液をけなげに飲み下していく。
 …ちゅぽ
 永い眠りから醒めたような惚けた表情ではるかが口を離すと、冬弥は素早くジッパーの中にペニスをしまい込んだ。
「よし、帰るか」
「うん」
 はるかはばさっ、と頭を後ろの方に振って髪の毛を整えると、傾斜になっている坂道を軽いステップで駆け下りていった。



7/19
「………」
 ほんのわずかな衣擦れの音だった。この部屋が沈黙しているからこそ聞こえてくるような音だ。だが、しゅっしゅっという、規則正しくスピーディな音は妙に存在感を持って部屋の中に響いていた。
 恐らくそれは、はるかがダウンベストとジーンズを身につけていたからだろう。どちらも、身体を動かすだけでこすれる音が立ちやすい衣服だ。
「はっ…くっ…」
 絞り出すような、小さな悲鳴のような声が漏れる。
 はるかの頬はうっすらと紅潮し、瞳は宙の一点をぼんやりと見つめている。だが、その普段の延長線上のようなぼうっとした様子とは打って変わって、はるかの手は素早く動いていた。
 自分の性器の上で。
「あ…」
 はるかがため息のような声を出して、かくんと頭を後ろに反らせた。柔らかい髪がふわりと動く。それでも指の動きは止まっていなかった。
 それから、思い出したようにさらっとした透明な愛液がにじみ出した。どこかシンプルな構造のはるかの秘部の中を伝って、蛍光灯に反射して光る。
 はるかは、ほとんど着衣を脱いでいなかった。ジーンズのチャックを下ろして、ショーツをチャックと同じくらい左手で押し下げているだけである。ダウンベストも、外で歩くときのままの状態だった。
 指は、一箇所だけを集中してこすっている。秘裂の一番上端のところだ。ほとんどヘアも生えておらず、中の襞もあまり発達していないはるかの性器の中で、そこにある米粒ほどの突起が目立っていた。
 その部分を、人差し指と中指が交互にこすり立てる。そのリズミカルでスピーディな動作の度に、服が乾いた音を立てていた。
「お…」
 はるかが切なそうに目を潤ませる。頬の紅みが心なしか増したようだった。
「…お兄ちゃんっ…お兄ちゃんっ…」
 きゅっ、とはるかは目を閉じてしまった。片目から、涙の一粒がこぼれて頬を伝う。自慰から来る快感のためだけではないだろう。
「お兄ちゃんっ…」
 どこかボーイソプラノを感じさせるようなはるかの声だった。高くうわずった声は普段とは全く違う女性的なものなのだが、それでもどこか中性的な色を残さずにはいられない、はるかの声。
 はるかが突起を擦るスピードが一層上がる。はるかは恍惚としたような、悲愴なような、複雑な想いを内包した表情になっていた。
 どこか機能的なようでいて、自己主張しないセンスの良さが随所に込められているようなはるかの部屋。まるで気の利いた一人暮らしの男の部屋のようだ。
「お兄ちゃん…私っ…私っ…」
 こんなに余裕のない、高いトーンの声ではるかが「私」と述べる事などない。この部屋以外では。
 今行われているのは、はるかにとって、絶対に他人に見せる事が出来ない、内反射的な場だった。
「う…うぅ…」
 少しずつ量が増えてきた愛液が、ショーツを押さえつけているはるかの左手にたらりと触れる。はるかの指が、とどめとばかりに自分の突起をぐりぐりと激しく責め立てる。
 はるかが、はぁっ、はぁっと荒い息を上げながら、背中を反らせていった。
「んっ…お兄ちゃん…お兄ちゃん…私をっ…!」
 最後に、二本の指の先で強烈にバイブレーションを加えた。
 ……びくっ…!
 ぐぐっ…と身体を硬直させてから、観念したようにはるかが小刻みに身体を震わせる。
「お…おにいちゃ…だ…だめ…こない…と…や」
 ぴく…ぴく…と痙攣し、なおもあふれ出す液体を左手でなんとか受け止めながら、はるかはしばらく動く事もできなかった。